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【最終章】ダイヤモンドの消失。

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「えっと、どうされました?」
「いえ、その、大したことではないのですが……。この異変に関わってから、人が消えたり、記憶が消えたりと……そういうのを目の当たりにしていると、何だか不安になってしまって」
「オリオン殿下……」
「……らしくないのは分かっています、すみません、ミア嬢」
「いえ、大丈夫ですよ。わたしも、大事なメイドを忘れてしまった事実が寂しくて、悲しいですから……」

 普段年齢より大人びた彼の弱々しい様子に、少し動揺してしまう。
 オリオン殿下はしばらくわたしを見詰めた後、ふわりと優しくわたしの身体を抱き締めた。

「お、オリオン殿下……っ!?」
「すみません、ミア嬢。あなたも不安なのに、こんな……。ですが、僕は……あなたを忘れたくない」
「え……?」
「あなたが消えてしまうのが、あなたを失うのが、何より怖いのです」
「わたしは、消えませんよ……?」

 安心させるよう笑顔を向けてみるけれど、彼の表情は晴れない。

「消失の条件も、現象の詳細も、何も分かっていないのです……もしかしたら、目を離した一瞬の隙に、跡形もなく消えてしまうかもしれない」
「それは……」
「あなたが消えたことにすら、僕は気付けないかもしれない……。そんなの、耐えられません……せっかく今世でも巡り会えたのに……あなたから、もう二度と、片時も離れたくない」
「……、ゆーちゃん……」
「……僕がゆーちゃんの方だと、良く分かりましたね。猫だとしか、伝えて居なかったのに」
「何と無くです。……感覚として魂に刻まれてるのかな」
「感覚、ですか。随分野性的ですね?」
「ふふっ、でしょう? だから、野良猫なゆーちゃんも大丈夫。だって一度死んでもこうして覚えてるんですよ? 忘れないし、消えたりしません」

 驚いた表情の殿下の背に、腕を回し宥めるようにぽんぽんと撫でる。
 猫の時とは、すっかり大きさが逆転してしまった。

「……ああ、あなたはいつだって、僕の冷えきった身も心も、その温かさで溶かしてくれる……」
「大袈裟ですよ」
「いいえ……あなたはずっと、僕の光です……ずっと……」

 殿下の顔は見られなかったけれど、わたしを抱き締める腕の力は、少しだけ、痛いくらいに強かった。


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