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【第六章】季節は巡り、彼等は。
①
しおりを挟む季節は巡り、初雪と共に冬の訪れを感じられる頃。
冷え込む空気としんしんと積もる白に心を落ち着かせる余裕もなく、わたしの周りは、相変わらずの賑やかさを保っている。
エメラルド侯爵領での出来事を経て、あの日貰ったメープルシロップのお礼にと恒例の刺繍入りハンカチをエメラルド侯爵に贈ると、そこからわたしは時折侯爵と手紙のやり取りをするようになった。
「この刺繍は何だ?」
「楓の葉をイメージしました! お気に召しませんでしたか……?」
「そうか……いや、大事にしよう。礼はメープルシロップ一年分でいいか?」
「お気持ちだけで!」
彼はやはり元来子供に甘い気質なようで、何かと可愛がってくれるようになった。
優しくされる度、あの日の嘘に胸が痛むけれど、彼の痛みが少しでも和らいだのなら良しとしよう。
*******
ルビー侯爵令嬢も、出会った頃に比べ随分と態度が丸くなった。
照れ隠しのツンデレ風な言動はあるものの、罵詈雑言も理不尽な要求もなく、シャーロットに会いに来るという名目で遊びに来ては、わたしにも美味しいお菓子や茶葉を手土産にくれるのだ。
お礼に彼女にもハンカチを贈ると、同世代の友達に贈り物を貰ったのは初めてだと、照れ混じりに受け取ってくれた。
「ま、まあ、受け取ってあげなくもないですわ!」
「……ルビー侯爵令嬢、礼を述べるならそれ相応の態度や言葉があると思いますが」
「う、うるさいわね! 騎士のくせに! ……もうっ、ありがとうございます、ミア様、大切に致しますわ」
「ううん、こちらこそいつもありがとうございます、リーゼロッテ様!」
「……はい、お二人とも良く出来ました」
あの日からリヒトを見返すために悪役令嬢脱却ルートへと踏み出したルビー侯爵令嬢は、リヒトの褒め言葉に赤くなった顔を背けてしまった。
その様子を微笑ましそうに見守っていたルビー侯爵令嬢の護衛騎士である赤毛の青年は、シャーロットが給仕に来ると途端に視線と意識の全てを彼女に向ける。
護衛対象から意識を逸らすのはどうなのかと思ったが、ガタイの良い強面気味の男性が、メイドの一挙一動にときめいている姿というのも何だか可愛らしく見え、ついほっこりとしてしまう。
けれどルビー侯爵令嬢はそれに気付いて、思い切り彼を叩いていた。……粗暴な態度は身内に限るようだ。
「ところで、あの話はどうなりましたの?」
「……へ?」
「『打倒女狐の会』を開こうと思うと、最初にお話ししたでしょう?」
「……」
あの日聞き流して適当に返事をしたのが、今になって掘り起こされた。
あの時の嫌な予感は、どうやら当たっていたようだ。
「ふふ、楽しみですわね!」
「……そーですね」
嬉々として作戦を練る彼女の悪役令嬢ぶりは、まだまだ消えそうにない。
*******
サファイア侯爵領のカイ様との手紙のやり取りも続いている。
何か心境の変化があったようで、近頃はより一層勉学に励まれているようだ。
以前より難しい言葉も使うようになったし、魔法も上達したからと色んな効果を付与したブレスレットを誕生日の贈り物に貰った。
……誕生日を教えたつもりはなかったのだが、まあ、四大侯爵家の情報網にかかれば仕方ない。
「ミア様、サファイアのブレスレット、気に入って頂けましたか?」
「はいっ、とっても綺麗ですね……海みたいな、深い青……」
「それを見る度に、私のことを思い出して下さると嬉しいです……!」
サファイア侯爵領の海というと、あの夏の巨大魚達の印象が強すぎるのだが、それは黙っておくことにした。
彼の誕生日は夏のはじめ頃だと言うので、また季節が巡ったらその時にお返しをしよう。
前世ではプレゼント交換をするような友達が居なかったから、こういう風に何が良いかと考える時間は中々に楽しかった。
*******
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