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【第五章】エメラルドの森の異変。
⑧
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「アッシュ! エルム! クインス! ウィロウ! チェリー! お嬢様に挨拶して!」
「お嬢様おはようございまーす!」
「姉ちゃんがいつもお世話になってます!」
「お嬢様ってこんなちっこいんだ?」
「貴族のお姫様だ!」
「こっちは騎士様だ! 剣、本物!?」
目を覚ますと、沢山の子供達に囲まれていた。
「……。……あの、すみませんお嬢様、弟と妹がどうしても来たいって聞かなくて……」
「……朝からすっごく元気」
エミリーに弟達が居るというのは聞いていたが、五人も居るとは思わなかった。
わたし達がエメラルド侯爵邸に行っている間、エミリーには翌朝までの里帰り許可を出していたものの、朝起こしに来た彼女は弟達を引き連れて居たのである。
中にはわたしより年上の男の子も居たため、寝起き姿を見られるのは少し居たたまれない。
しかし男の子達はわたしへの挨拶は早々に、部屋の隅に控えていた護衛のリヒトの剣に夢中な様子だった。
上は十歳から、下は四歳らしい。皆まだまだやんちゃ盛りだ。普段元気で若干無礼な所もあるエミリーが、振り回されつつもちゃんとお姉さんをしているのを見て、つい笑ってしまう。
「ねえ、皆はずっと西部に住んでるの?」
「うん……じゃなくて、はい! 生まれた時からずっとこの地域で暮らしています」
長男のアッシュは敬語を使い、わたしからの問い掛けに答えてくれる。次いで質問を投げ掛けると、下の子達もわいわいと参加してきた。
「そっか、エメラルドの森の木が赤や黄色に染まるの、どう思う?」
「赤は火みたいで怖いよねぇ?」
「ふつう木は緑なものだよ!」
「エメラルドの森はずっと緑だもんね!」
「普通、かぁ……」
やはり暮らしてきた土地の常識というのは、そう簡単には変わらない。彼等のためには、やはり何とかするしかないのだろう。
けれど、賑やかな子供達の言葉は続く。
「でも、俺は赤すきだなー」
「黄色はちょっと可愛い!」
「首都ではいろんな色になるの?」
「ピンクとか見たいなぁ」
「ぼく水色!」
子供ならではの柔軟な感性か、好奇心なのか。全否定という訳でもなさそうだった。
エメラルド侯爵が言っていたよりも、深刻に考えている人は少ないのかもしれない。
「あ、そうだ。あと……メイプルって名前に心当たりはない?」
「……メイプル?」
反応したのは子供達ではなく、わたしのドレスをクローゼットから出していたエミリーだった。呟いてから、少し眉を下げる。
「メイプルとは……昔、何度か遊んだことがあります。近所で年の近い子、他にあんまり居なくて。あの森で、内緒でこっそり」
「えっ、ほんと!? どんな子か分かる?」
いきなりの有力情報に、わたしはそわりとする。エミリーは少し考えたようにして、仕事を続けながら答えてくれた。
「メイプルは……エメラルド侯爵のご令嬢です」
「……エメラルド侯爵家の?」
「はい、あたしの家は一時戦争で疎開したので、お嬢様くらい小さい頃の彼女しか知らないんですけど……今はどうしてるのかなぁ」
あの家からは、女の子の気配は感じられなかった。
二十代のエミリーと同い年くらいなら、既に嫁いでしまった可能性もあるけれど、娘が居たのなら今更子供嫌いと言うのもおかしい。
それに、昨日の侯爵の反応も気になった。
「エメラルド侯爵って、昔からあんなに子供嫌いなの?」
「えっ!? いえ、昔は……それこそ旦那様がお嬢様を大切にされているように、メイプルを溺愛されていたはずですけど……」
「エメラルド侯爵はおっかないけど、俺達を嫌ったりしてないよな?」
「うん、この前木登りして降りられなくなって助けてくれたし!」
「ちょっとあんた達、また人様に迷惑かけて!」
わいわいとはしゃぐ子供達の話を聞いていると、ようやく騒ぎを聞き付けたのか隣室のステラがやって来た。
「おはようミア、一体何の騒ぎ……って……誰!?」
「わ、この人が聖女様!?」
「きれー!」
「魔法使えるの?」
「聖女さまおはようございま~す!」
子供達の興味は、たちまち彼女へと移ったようで、困惑するステラはすっかり囲まれていた。
廊下でのその騒ぎに殿下達もやって来て、何事かと朝から大騒動だ。
結果、何人にも寝起き姿を見られる羽目になった。……、賑やかなのは良いけれど、そろそろ着替えたい。
「お嬢様おはようございまーす!」
「姉ちゃんがいつもお世話になってます!」
「お嬢様ってこんなちっこいんだ?」
「貴族のお姫様だ!」
「こっちは騎士様だ! 剣、本物!?」
目を覚ますと、沢山の子供達に囲まれていた。
「……。……あの、すみませんお嬢様、弟と妹がどうしても来たいって聞かなくて……」
「……朝からすっごく元気」
エミリーに弟達が居るというのは聞いていたが、五人も居るとは思わなかった。
わたし達がエメラルド侯爵邸に行っている間、エミリーには翌朝までの里帰り許可を出していたものの、朝起こしに来た彼女は弟達を引き連れて居たのである。
中にはわたしより年上の男の子も居たため、寝起き姿を見られるのは少し居たたまれない。
しかし男の子達はわたしへの挨拶は早々に、部屋の隅に控えていた護衛のリヒトの剣に夢中な様子だった。
上は十歳から、下は四歳らしい。皆まだまだやんちゃ盛りだ。普段元気で若干無礼な所もあるエミリーが、振り回されつつもちゃんとお姉さんをしているのを見て、つい笑ってしまう。
「ねえ、皆はずっと西部に住んでるの?」
「うん……じゃなくて、はい! 生まれた時からずっとこの地域で暮らしています」
長男のアッシュは敬語を使い、わたしからの問い掛けに答えてくれる。次いで質問を投げ掛けると、下の子達もわいわいと参加してきた。
「そっか、エメラルドの森の木が赤や黄色に染まるの、どう思う?」
「赤は火みたいで怖いよねぇ?」
「ふつう木は緑なものだよ!」
「エメラルドの森はずっと緑だもんね!」
「普通、かぁ……」
やはり暮らしてきた土地の常識というのは、そう簡単には変わらない。彼等のためには、やはり何とかするしかないのだろう。
けれど、賑やかな子供達の言葉は続く。
「でも、俺は赤すきだなー」
「黄色はちょっと可愛い!」
「首都ではいろんな色になるの?」
「ピンクとか見たいなぁ」
「ぼく水色!」
子供ならではの柔軟な感性か、好奇心なのか。全否定という訳でもなさそうだった。
エメラルド侯爵が言っていたよりも、深刻に考えている人は少ないのかもしれない。
「あ、そうだ。あと……メイプルって名前に心当たりはない?」
「……メイプル?」
反応したのは子供達ではなく、わたしのドレスをクローゼットから出していたエミリーだった。呟いてから、少し眉を下げる。
「メイプルとは……昔、何度か遊んだことがあります。近所で年の近い子、他にあんまり居なくて。あの森で、内緒でこっそり」
「えっ、ほんと!? どんな子か分かる?」
いきなりの有力情報に、わたしはそわりとする。エミリーは少し考えたようにして、仕事を続けながら答えてくれた。
「メイプルは……エメラルド侯爵のご令嬢です」
「……エメラルド侯爵家の?」
「はい、あたしの家は一時戦争で疎開したので、お嬢様くらい小さい頃の彼女しか知らないんですけど……今はどうしてるのかなぁ」
あの家からは、女の子の気配は感じられなかった。
二十代のエミリーと同い年くらいなら、既に嫁いでしまった可能性もあるけれど、娘が居たのなら今更子供嫌いと言うのもおかしい。
それに、昨日の侯爵の反応も気になった。
「エメラルド侯爵って、昔からあんなに子供嫌いなの?」
「えっ!? いえ、昔は……それこそ旦那様がお嬢様を大切にされているように、メイプルを溺愛されていたはずですけど……」
「エメラルド侯爵はおっかないけど、俺達を嫌ったりしてないよな?」
「うん、この前木登りして降りられなくなって助けてくれたし!」
「ちょっとあんた達、また人様に迷惑かけて!」
わいわいとはしゃぐ子供達の話を聞いていると、ようやく騒ぎを聞き付けたのか隣室のステラがやって来た。
「おはようミア、一体何の騒ぎ……って……誰!?」
「わ、この人が聖女様!?」
「きれー!」
「魔法使えるの?」
「聖女さまおはようございま~す!」
子供達の興味は、たちまち彼女へと移ったようで、困惑するステラはすっかり囲まれていた。
廊下でのその騒ぎに殿下達もやって来て、何事かと朝から大騒動だ。
結果、何人にも寝起き姿を見られる羽目になった。……、賑やかなのは良いけれど、そろそろ着替えたい。
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