上 下
55 / 101
【第五章】エメラルドの森の異変。

しおりを挟む
 領土の大半を森林に覆われた、自然豊かな西部『エメラルド侯爵領』。
 その森の木々は緑が美しく、領民からは『エメラルドの森』と呼ばれ愛されているらしい。

「……確か、エメラルド侯爵領も戦争で被害を受けたんだよね?」
「ああ……そうだね。僕の部隊はこちらの地区担当では無かったけれど……皆が大切にしている森の一部が焼けたと聞いているよ」

 わたしとお父様と護衛のリヒト、三人で乗った馬車に揺られながら、窓の外の舗装されていない砂利と土が剥き出しの自然な道を眺める。

 わたしが生まれる十年くらい前。ようやく終戦を迎えた先の大戦は、勝国であるこの『アレキサンドライト帝国』にも甚大な被害を与えた。
 南部のダイヤモンド侯爵領方面から国境を越え攻め入られ、中央に位置する首都は皇室の守りが強固だったが、一部北のサファイア侯爵領まで戦火は及んだらしい。

「でも……魔法の助けがあったとしても、たった十数年でここまで回復できたんだ。やっぱり、自然は強いね」
「うん、そうだね……」

 戦争の勝国となったこの国は、敵味方関係なく魔法使い総出となり復興にあたり、現在の姿を取り戻した。
 生き残った魔法使いのほとんどを、復興のための労力として捕虜とされたその敵国がどうなったのかまでは、まだペリドット先生の授業では習っていない。

「さて、着いたみたいだな」
「やっと着いたぁ……!」
「お疲れ様です、旦那様、お嬢様」

 御者による風魔法を駆使しても、舗装されていない道路はさすがに揺れた。座りっぱなしで数時間はさすがにお尻が痛い。
 先に馬車を降りたリヒトに手を差し伸べられ、ようやく地面を踏み締める。
 外に出ると、首都とも北部の潮風の匂いとも違う、緑の匂いがした。

「あれが、エメラルドの森……?」
「そうよ、あの森は秋でも冬でも、その名の通りずっと緑なの」

 別の馬車で並走していたステラが、隣に降り立つ。彼女にとっては約一年ぶりの故郷を懐かしむように、すぐ近くの森林へと視線を向けていた。

 秋と言えば紅葉という認識が前世からある分、夏と変わらず緑の生い茂る森というのは何とも不思議な感覚だ。

「あー……こんな遠出久しぶりだぜ」
「さすがに疲れましたね」

 不意に聞き覚えのある声がして、わたし達は一斉に振り向く。
 そこには、猫のように大きく伸びをしたレオンハルト皇太子殿下とオリオン皇子殿下が居た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最悪から始まった新たな生活。運命は時に悪戯をするようだ。

久遠 れんり
ファンタジー
男主人公。 勤務中体調が悪くなり、家へと帰る。 すると同棲相手の彼女は、知らない男達と。 全員追い出した後、頭痛はひどくなり意識を失うように眠りに落ちる。 目を覚ますとそこは、異世界のような現実が始まっていた。 そこから始まる出会いと、変わっていく人々の生活。 そんな、よくある話。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...