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【第四章】サファイアの海の異変。
⑦
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前略、天国のお母様へ。
今わたしは、あなたの生まれ故郷である北部サファイア侯爵領に来ています。
ここはとても過ごしやすい気候で、人ものびのびとしていて、自然も多く、特に海がとっても綺麗です。
でも、ちょっと……いや、かなり、お魚の圧が強いです。
目の前に広がる大海原。
そこで所狭しと跳ねまくる、大量の規格外の魚達。正直、しばらく見ていても全く絵面に慣れない。
『海の異変を何とかして欲しい』なんていうアクアマリン子爵からの無茶な要望に対し、ステラは光魔法を駆使して何とかしてみようと試みた……が、手当たり次第にしても上手く行かないものである。
試しに強烈な光を浴びせてみても、驚いた魚が跳ねたり餌と間違えて跳ねたり、深海魚が驚いて気絶して浮いてきたりと事態は悪化しただけだった。
光の応用の熱で海を少し温暖にして、南国気分で気性を穏やかにしてみようと試みても、魚の大きさは変わるはずもなく、何なら水温の差で弱る魚も多く居て、悪化に悪化を重ねてしまった。
珍しく失敗続きのステラは見るからに落ち込み、お父様にフォローされ宥められる。
何の策もなく手当たり次第に試していては魔力が持たないので、一旦持ち帰りで作戦を立てることとなった。
お父様は項垂れるステラに、わたしにするのと同じように優しく頭を撫でる。
三十代半ばの男性が十六の少女に頭ポンポンする状況も、事案ではなく単純に画になるのでイケメンは役得である。
そうこうしている間に、サファイア侯爵令息とその護衛と思われる人物が、転びそうな勢いで馬車から降りてくるのが見えた。思ったよりも早かった。
見ると、手紙を届けに行ったラナも後続の馬車に乗っていた。客人として丁寧に送り届けて貰ったのだろう、恐縮した様子で何度も御者に頭を下げていた。
「ミア様! お手紙受け取りました! 何とお可愛らしい字でしょう、私、あの手紙は家宝に致しますね!」
「捨ててください!?」
急いでいたので、正直オリオン殿下に宛てるものよりかなり適当に書いた自覚もある。それを侯爵家の宝にされては大変だ。
「申し訳ありません、モルガナイト公爵令嬢、カイ坊っちゃまは少々落ち着きがなく……」
「あ、いえ……大丈夫です……ははっ」
普段からこの調子なのか。
諦め慣れてしまえば、落ち着きのないポメラニアンのようで可愛いものかもしれない。周りにはマイペースな猫タイプが多いので新鮮だ。
そのままわたしはカイ様に手を取られ、護衛のリヒトだけ連れてステラ達と別行動だ。
仕事を終えたラナはどうするだろうと様子を伺うと、彼女もまたわたしの指示待ちの様子でそわそわとしている。
「ラナ、手紙を届けてくれてありがとう。わたし達はそれぞれ出掛けるけど……ラナはせっかくの里帰りだもんね、屋敷にはアメリアも居るし、夜まで自由にしていいよ」
「宜しいのですか? ありがとうございます!」
ラナはパッと表情を明るくし、深々と頭を下げた後、アメリアに報告するためか一旦別邸に戻っていった。
お父様の「娘に手出ししたら承知しない」という牽制の視線と、一緒に行きたかったという残念そうなステラの視線を背に感じつつ、カイ様とその護衛、わたしとリヒトも激しい波音を聞きながら砂浜を後にした。
今わたしは、あなたの生まれ故郷である北部サファイア侯爵領に来ています。
ここはとても過ごしやすい気候で、人ものびのびとしていて、自然も多く、特に海がとっても綺麗です。
でも、ちょっと……いや、かなり、お魚の圧が強いです。
目の前に広がる大海原。
そこで所狭しと跳ねまくる、大量の規格外の魚達。正直、しばらく見ていても全く絵面に慣れない。
『海の異変を何とかして欲しい』なんていうアクアマリン子爵からの無茶な要望に対し、ステラは光魔法を駆使して何とかしてみようと試みた……が、手当たり次第にしても上手く行かないものである。
試しに強烈な光を浴びせてみても、驚いた魚が跳ねたり餌と間違えて跳ねたり、深海魚が驚いて気絶して浮いてきたりと事態は悪化しただけだった。
光の応用の熱で海を少し温暖にして、南国気分で気性を穏やかにしてみようと試みても、魚の大きさは変わるはずもなく、何なら水温の差で弱る魚も多く居て、悪化に悪化を重ねてしまった。
珍しく失敗続きのステラは見るからに落ち込み、お父様にフォローされ宥められる。
何の策もなく手当たり次第に試していては魔力が持たないので、一旦持ち帰りで作戦を立てることとなった。
お父様は項垂れるステラに、わたしにするのと同じように優しく頭を撫でる。
三十代半ばの男性が十六の少女に頭ポンポンする状況も、事案ではなく単純に画になるのでイケメンは役得である。
そうこうしている間に、サファイア侯爵令息とその護衛と思われる人物が、転びそうな勢いで馬車から降りてくるのが見えた。思ったよりも早かった。
見ると、手紙を届けに行ったラナも後続の馬車に乗っていた。客人として丁寧に送り届けて貰ったのだろう、恐縮した様子で何度も御者に頭を下げていた。
「ミア様! お手紙受け取りました! 何とお可愛らしい字でしょう、私、あの手紙は家宝に致しますね!」
「捨ててください!?」
急いでいたので、正直オリオン殿下に宛てるものよりかなり適当に書いた自覚もある。それを侯爵家の宝にされては大変だ。
「申し訳ありません、モルガナイト公爵令嬢、カイ坊っちゃまは少々落ち着きがなく……」
「あ、いえ……大丈夫です……ははっ」
普段からこの調子なのか。
諦め慣れてしまえば、落ち着きのないポメラニアンのようで可愛いものかもしれない。周りにはマイペースな猫タイプが多いので新鮮だ。
そのままわたしはカイ様に手を取られ、護衛のリヒトだけ連れてステラ達と別行動だ。
仕事を終えたラナはどうするだろうと様子を伺うと、彼女もまたわたしの指示待ちの様子でそわそわとしている。
「ラナ、手紙を届けてくれてありがとう。わたし達はそれぞれ出掛けるけど……ラナはせっかくの里帰りだもんね、屋敷にはアメリアも居るし、夜まで自由にしていいよ」
「宜しいのですか? ありがとうございます!」
ラナはパッと表情を明るくし、深々と頭を下げた後、アメリアに報告するためか一旦別邸に戻っていった。
お父様の「娘に手出ししたら承知しない」という牽制の視線と、一緒に行きたかったという残念そうなステラの視線を背に感じつつ、カイ様とその護衛、わたしとリヒトも激しい波音を聞きながら砂浜を後にした。
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