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【第三章】皇子達の誕生記念式典。

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 返事もせず、ダンスのお礼もせずに話の途中で逃げ出すなんて、皇子相手に失礼なことをした自覚はあるものの、これで嫌われるのならむしろ万々歳だ。命が懸かっている以上、なりふり構ってなどいられない。

 ところが、振り返ると彼が人混みを掻き分けわたしを追い掛けて走ってくるのが見えた。

「ミア嬢……!」
「ちょ、なんで来るの!?」

 そりゃあ、逃げられればそれは追いたくもなるだろうけれど。

 余計に目立ってしまう状況にわたしはすっかりパニックになり、低身長を活かして人混みを潜り抜け何とか出口へと向かおうとする。が、その途中、上手く避けきれず人とぶつかってしまい、盛大に尻餅をついた。

「うわぁっ!? 痛っ、たぁ……ご、ごめんなさい!」
「おわ!? ……と、大丈夫か? って、あれ、ミアか」

 こちらに差し出される手と見上げた先の黒髪に、一瞬先回りされたのかと驚くも、良く見るとそれはレオンハルト殿下だった。
 わたしを見下ろす吊り目がちの緑の瞳は、全てを見透かすようなオリオン殿下とは違い、とても感情が分かりやすい。
 心からの心配を感じ、申し訳なさからおずおずと彼の手を取り立ち上がる。

「申し訳ありません、レオンハルト殿下……!」
「いや、気にすんなって。突っ立ってた俺も悪いしな。怪我は?」
「そんな! わたしの不注意で……ええと、大丈夫です」
「ははっ、前に会った時も階段から落っこちて来たもんなぁ」
「……重ね重ね申し訳ありません」

 落ちたりぶつかったり、とんでもなくお転婆な子に思われてるに違いない。『おもしれー女フラグ』は回避したかったのに、彼はわたしを見て前回同様楽し気に笑った。

 そして突っ立っていたという彼はひとしきり笑うと、再び遠くの方へと視線を向ける。
 同じ方向へと背伸びしてみると、すぐに分かった。先程まで彼と踊っていた、ステラの背を見ているのだろう。ステラは既に離れた場所に居たものの、遠目にも光輝いて見える。
 どうやら、壁の華となっているわたしのお父様の元へ向かったようだ。

「と、そろそろ次のダンスだな。……なあミア、このまま俺と踊ろうぜ!」
「えっ!?」
「何だよ、俺とじゃ不満か?」
「め、滅相もありません!!」
「よしっ、じゃあ決まりな! ……お手をどうぞ、レディ?」
「……! は、はい」

 皇子様から逃げ出した先で、シンデレラのように魔法が解けるでもなく、今度は別の皇子様とのダンス。
 物語でもそう見ない豪華過ぎる梯子に戸惑ってしまう。

 優雅で紳士的だったオリオン殿下のエスコートとは違い、レオンハルト殿下は至極楽しそうに音楽に合わせステップを踏む。
 例えるならクラシックとポップス並みに違うその感覚に、双子でもあまり似ていないのだと改めて感じた。

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