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【第三章】皇子達の誕生記念式典。
⑥
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ぐるぐると考え込んでいる間にも、今度は殿下達からの挨拶の番だった。会場によく通るレオンハルト殿下の声が響く。
「皇帝陛下からの有難いお言葉の後で恐縮ですが、この場を借りて御挨拶させて頂きます。アレキサンドライト帝国第一皇子、レオンハルト・アレキサンドライトです。今日は俺達の十五の誕生日を祝いに来てくれたこと、心より感謝致します。……いつか父より王冠を賜り、この国の未来を背負う日が来るまで……いっそう気を引き締めてこれまで以上に努力して参ります」
以前会った時には、いっそ親しみやすいとまで感じたレオンハルト殿下が、今は遠く感じる。
彼は、この国の未来を担う皇太子殿下だ。これ以上ない目標に向かって努力し、そしてきっと、立派に成し遂げる人だ。
「アレキサンドライト帝国第二皇子、オリオン・アレキサンドライトです。本日はお忙しい中、僕達の誕生記念式典にお越しくださりありがとうございます。……ここに居られる皆様は、この国を支える中心です。僕達皇族は、民無しでは成り立ちません。国を治める現皇帝陛下と、いずれ皇位を継ぐ兄、レオンハルト。そして、それを支える僕とで、この国の未来を、皆様と一緒に輝かしいものへと導けるよう、これからも精進致します」
大人びて見えたオリオン殿下は、きっと能力はあるけれど、弟というだけで皇位継承権は二位のまま。彼は生涯兄を支える道を、十五の若さで受け入れている。
二人の皇子は、わたしなんかよりよっぽど多くのことを背負い、悩んできただろう。それでも真っ直ぐ前を向いて、進んでいるのだ。何かと悩み迷いがちなわたしから見て、彼らはとても眩しかった。
「あ……そうだ。この場をお借りして、皆様に一つご報告があります。残念ながら僕とルビー侯爵令嬢の婚約が破談となったのは、皆様もうご存知かと思われますが……実を言いますと、僕には今、お慕いしている方が居ります」
不意に、まるで思い出しついでのように皇子自ら口にするその内容に、途端に会場に居た全員がざわめく。
残念ながらと付け加えてはいるが、婚約破棄を言い渡したのは皇室側だ。
しかしそれは、ルビー侯爵令嬢の振る舞いに問題があったからだと貴族達は認識していた。実際誰から見ても、彼女の態度や物言いは皇族に嫁ぐには相応しくなかったからだ。
だが、皇子が他に恋慕を向けているとなれば話は別だ。
ルビー侯爵令嬢に非がある訳ではないと、あくまで自分の私情だと皇子自ら公言したのだ。
それが事実にしろルビー侯爵令嬢の名誉のためにしろ、この宣言によって、皇室から婚約破棄されたことにより地に落ちたルビー侯爵家の評判は、これから変わることだろう。
実際、皇子達の誕生日パーティー会場にも関わらず、元婚約者の彼女の悪口を嬉々として話していた淑女達は、一様に罰の悪そうな顔をしている。
ルビー侯爵家は、東西南北にそれぞれある四大貴族のひとつだ。このままルビー侯爵家の評価が下がり、そのバランスが崩れるのは、国全体としてもよろしくない。下手をすれば内戦等も起こりかねないのだから。
それを見越しての宣言だとするならば、オリオン殿下は既に国の政の道具にされているのではないか。思わず心配になり様子を伺うと、遠くから彼の赤い瞳と目が合った気がする。
気のせいだとは思いつつも、何となくそわりとしてしまい視線を泳がせると、彼はそのまま言葉を続けた。
「……未だその方と正式な縁談のお話はしておりませんが、近々皆様へお知らせ出来るかと思いますので……その時には温かく見守って頂けますと幸いです」
そうして会釈して、照れたようにはにかむその表情は、既に嫁いだ淑女達をも虜にする。
けれどその横で、皇帝陛下が僅かに驚いたような、困惑したような顔をしているのが見えた。もしかすると、オリオン殿下の熱愛宣言は予定外なのかもしれない。
だとすると、彼は現皇帝をも出し抜ける、相当な策士なのではないか。
「皇帝陛下からの有難いお言葉の後で恐縮ですが、この場を借りて御挨拶させて頂きます。アレキサンドライト帝国第一皇子、レオンハルト・アレキサンドライトです。今日は俺達の十五の誕生日を祝いに来てくれたこと、心より感謝致します。……いつか父より王冠を賜り、この国の未来を背負う日が来るまで……いっそう気を引き締めてこれまで以上に努力して参ります」
以前会った時には、いっそ親しみやすいとまで感じたレオンハルト殿下が、今は遠く感じる。
彼は、この国の未来を担う皇太子殿下だ。これ以上ない目標に向かって努力し、そしてきっと、立派に成し遂げる人だ。
「アレキサンドライト帝国第二皇子、オリオン・アレキサンドライトです。本日はお忙しい中、僕達の誕生記念式典にお越しくださりありがとうございます。……ここに居られる皆様は、この国を支える中心です。僕達皇族は、民無しでは成り立ちません。国を治める現皇帝陛下と、いずれ皇位を継ぐ兄、レオンハルト。そして、それを支える僕とで、この国の未来を、皆様と一緒に輝かしいものへと導けるよう、これからも精進致します」
大人びて見えたオリオン殿下は、きっと能力はあるけれど、弟というだけで皇位継承権は二位のまま。彼は生涯兄を支える道を、十五の若さで受け入れている。
二人の皇子は、わたしなんかよりよっぽど多くのことを背負い、悩んできただろう。それでも真っ直ぐ前を向いて、進んでいるのだ。何かと悩み迷いがちなわたしから見て、彼らはとても眩しかった。
「あ……そうだ。この場をお借りして、皆様に一つご報告があります。残念ながら僕とルビー侯爵令嬢の婚約が破談となったのは、皆様もうご存知かと思われますが……実を言いますと、僕には今、お慕いしている方が居ります」
不意に、まるで思い出しついでのように皇子自ら口にするその内容に、途端に会場に居た全員がざわめく。
残念ながらと付け加えてはいるが、婚約破棄を言い渡したのは皇室側だ。
しかしそれは、ルビー侯爵令嬢の振る舞いに問題があったからだと貴族達は認識していた。実際誰から見ても、彼女の態度や物言いは皇族に嫁ぐには相応しくなかったからだ。
だが、皇子が他に恋慕を向けているとなれば話は別だ。
ルビー侯爵令嬢に非がある訳ではないと、あくまで自分の私情だと皇子自ら公言したのだ。
それが事実にしろルビー侯爵令嬢の名誉のためにしろ、この宣言によって、皇室から婚約破棄されたことにより地に落ちたルビー侯爵家の評判は、これから変わることだろう。
実際、皇子達の誕生日パーティー会場にも関わらず、元婚約者の彼女の悪口を嬉々として話していた淑女達は、一様に罰の悪そうな顔をしている。
ルビー侯爵家は、東西南北にそれぞれある四大貴族のひとつだ。このままルビー侯爵家の評価が下がり、そのバランスが崩れるのは、国全体としてもよろしくない。下手をすれば内戦等も起こりかねないのだから。
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そうして会釈して、照れたようにはにかむその表情は、既に嫁いだ淑女達をも虜にする。
けれどその横で、皇帝陛下が僅かに驚いたような、困惑したような顔をしているのが見えた。もしかすると、オリオン殿下の熱愛宣言は予定外なのかもしれない。
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