33 / 101
【第三章】皇子達の誕生記念式典。
⑤
しおりを挟む
「諸君、我が息子達の誕生日を祝いに来てくれたこと、感謝する」
長く大きな階段の上、わたし達を見下ろすようにしながら高らかに声を響かせる初老の男性。皇族の証である黒髪も、少し白髪混じりだ。あれが、アレキサンドライト皇帝陛下。
何やら長々と小難しい話をしながら話す彼は、重たそうな王冠を被り、時折腕の動きに合わせてその上質そうな生地のマントを翻す。絵本で見たような王様の装いだ。
そしてその両脇に控えた、本日の主役であるはずの二人の皇子。彼らはどちらかというと騎士にも似た出で立ちで佇んでいた。
皇太子、レオンハルト殿下は、首元に瞳と同じエメラルドのブローチを。
双子の弟、オリオン殿下は、瞳と同じ色のルビーのブローチをそれぞれつけている。
二人とも髪と同じ黒を基調とした装いで、穏やかに微笑むオリオン殿下と自信満々な表情のレオンハルト殿下は遠目に見ても格好良かった。
彼等なら確かに、例え年下でもステラと釣り合うだろうと他人事のように考えてしまい、近頃わたしを悩ませていた噂の一つを思い出した。
ひょっとして、この場でステラをオリオン殿下の婚約者にと発表するのではないだろうか。
先日オリオン殿下から婚約者破棄されたばかりの『悪役令嬢の先輩』であるリーゼロッテ・ルビー侯爵令嬢は、流石にこの場には居なかった。
だとすれば、その空席を埋めるにはこのタイミングがベストだろう。むしろ、そのためにパーティー前に婚約破棄をしたのではないだろうか。
ステラが皇族の婚約者となれば、もう父との再婚ルートは潰えるも同然だ。
容姿端麗、品行方正、おまけに聖女。流石にルビー侯爵令嬢のように婚約破棄はされないだろう。
彼女の幸せのひとつかもしれない、皇室入りのお姫様ルート。端から見ても女の子が夢見る展開に思える。事実、周りの貴族令嬢達は年齢問わず殿下達を見上げ色めき立っているのだ。
けれど、ステラの気持ちがはっきり分からない中で、そんな事態になるのは正直複雑だった。
ステラは、お父様と再婚して今世でもわたしのお母さんになりたい。でも、お父様を好きなわけではなさそう。他にも、幸せになれる道はたくさんある。
お父様は、未だにお母様が好きだけど、わたしのために再婚するのも吝かではなさそう。ただしそれは、わたしのために気を使っているだけかも知れない。
わたしは……ステラとまた親子になりたいけれど、お父様のお母様を想う気持ちを無視したくはないし、ステラにも、わたしありきでなく一人の女の子として別の幸せを見つけて欲しい気持ちもある。
二人のことは二人に任せるなんて言いながら、わたしは結局、どっち付かずで一人もやもやしているだけなのだ。
特性『策略』。前世の記憶と共に自覚した今世のわたしの特技は、ちっとも役に立たない。何せ策略を立てるべき目標が、未だに安定しないのである。
長く大きな階段の上、わたし達を見下ろすようにしながら高らかに声を響かせる初老の男性。皇族の証である黒髪も、少し白髪混じりだ。あれが、アレキサンドライト皇帝陛下。
何やら長々と小難しい話をしながら話す彼は、重たそうな王冠を被り、時折腕の動きに合わせてその上質そうな生地のマントを翻す。絵本で見たような王様の装いだ。
そしてその両脇に控えた、本日の主役であるはずの二人の皇子。彼らはどちらかというと騎士にも似た出で立ちで佇んでいた。
皇太子、レオンハルト殿下は、首元に瞳と同じエメラルドのブローチを。
双子の弟、オリオン殿下は、瞳と同じ色のルビーのブローチをそれぞれつけている。
二人とも髪と同じ黒を基調とした装いで、穏やかに微笑むオリオン殿下と自信満々な表情のレオンハルト殿下は遠目に見ても格好良かった。
彼等なら確かに、例え年下でもステラと釣り合うだろうと他人事のように考えてしまい、近頃わたしを悩ませていた噂の一つを思い出した。
ひょっとして、この場でステラをオリオン殿下の婚約者にと発表するのではないだろうか。
先日オリオン殿下から婚約者破棄されたばかりの『悪役令嬢の先輩』であるリーゼロッテ・ルビー侯爵令嬢は、流石にこの場には居なかった。
だとすれば、その空席を埋めるにはこのタイミングがベストだろう。むしろ、そのためにパーティー前に婚約破棄をしたのではないだろうか。
ステラが皇族の婚約者となれば、もう父との再婚ルートは潰えるも同然だ。
容姿端麗、品行方正、おまけに聖女。流石にルビー侯爵令嬢のように婚約破棄はされないだろう。
彼女の幸せのひとつかもしれない、皇室入りのお姫様ルート。端から見ても女の子が夢見る展開に思える。事実、周りの貴族令嬢達は年齢問わず殿下達を見上げ色めき立っているのだ。
けれど、ステラの気持ちがはっきり分からない中で、そんな事態になるのは正直複雑だった。
ステラは、お父様と再婚して今世でもわたしのお母さんになりたい。でも、お父様を好きなわけではなさそう。他にも、幸せになれる道はたくさんある。
お父様は、未だにお母様が好きだけど、わたしのために再婚するのも吝かではなさそう。ただしそれは、わたしのために気を使っているだけかも知れない。
わたしは……ステラとまた親子になりたいけれど、お父様のお母様を想う気持ちを無視したくはないし、ステラにも、わたしありきでなく一人の女の子として別の幸せを見つけて欲しい気持ちもある。
二人のことは二人に任せるなんて言いながら、わたしは結局、どっち付かずで一人もやもやしているだけなのだ。
特性『策略』。前世の記憶と共に自覚した今世のわたしの特技は、ちっとも役に立たない。何せ策略を立てるべき目標が、未だに安定しないのである。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる