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【第三章】皇子達の誕生記念式典。

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 皆と離れ、初めて訪れる皇室のパーティー会場の雰囲気に圧倒される。
 見るからに高価な装飾品の数々、着飾った大勢の由緒ある家柄の貴族達、生演奏するのであろう楽器の数々。 

 はぐれないようお父様と手を繋ぎながらも、物珍しさにきょろきょろと辺りを見回すと、人混みの中でも一際目を惹く少女を見付けた。 

 ステラ・ヘリオドールは、会場の誰よりも美しかった。
 たくさんのダイヤモンドを散らしたような豪奢なシャンデリアの光を受け煌めく長い金糸は、華やかに編み込まれ普段あまり見ないアップスタイル。
 髪には幾つものパールが煌めき、瞳と同じ深い青のドレスによく映える。
 何もしなくても完璧な顔には派手になりすぎない薄化粧が施され、人形のように完璧な美だ。 

 普段なら貴族男性が群がるであろう彼女の周りには、今は誰も居ない。皆の視線は集まっているのに、美し過ぎて誰も容易に近付けないのだ。 

 かくいうわたしも遠巻きに彼女を見詰めるしか出来なかったものの、ステラはわたしの存在に目敏く気付き、その人形のようだった表情を花が咲くように綻ばせる。 

 彼女はすぐにドレスの裾を軽く持ち上げ、待ちきれないとばかりにわたしに駆け寄って来た。
 貴族の令嬢がパーティー会場でヒールで走るなんて、危ないしはしたないと叱られそうだとも思ったが、誰も咎めずドレスを翻す彼女に見惚れるのみだった。 

「ミア! 今日もとっっっても可愛らしいわ……! まるで天使……いえ、可愛いの塊……!?」
「あ、ありがとう……でもステラの方が綺麗だよ」
「あら、ありがとう。ミアに褒めて貰えるのは嬉しいわ」 

 わたしの目線に合わせ屈む彼女は蕩けるような笑みを浮かべ、間近に見ても美しい。前世の母親だからという親近感や欲目は全くなく、何なら同性であるわたしも照れてそわそわとしてしまう。 

「あら、モルガナイト公爵もいつも以上に素敵ですわ」
「ヘリオドール令嬢こそ、大変お美しい。女神が地上に舞い降りたかと思いました」 

 もう何度も顔を合わせている今世の父と前世の母。
 今世の母の座を目論むステラとしては、亡き母への愛を未だに大切にしている父の心を動かさなくてはならないものの……こんなにも美しい少女を前にしても照れもせず挨拶をし笑みを返す彼に、正直手詰まりである。 

 髪はきちんとセットされ、わたしのドレスと合わせたのか白を基調として差し色に水色をあしらった爽やかな装いが似合う、三十代半ばとは思えない美中年。
 年の差はあれど、美男美女でお似合いだと思うのは娘の欲目だけではないはずだ。 

 こういうことは当人同士の問題だと思いつつも、つい呟いてしまう。 

「……こうしてると、三人家族みたい」 
「……! ミア……」 

 嬉しそうなステラの表情と対照的に、僅か眉を下げどこか悲しそうなお父様の顔にハッとする。
 彼は今でも妻を……肖像画でしか顔を見たことのないお母様のことを愛しているのだ。 

 ミアのお母様『セレスティア・モルガナイト』。わたしと同じ空色の瞳、ステラとは真逆の白銀の髪をした、優しい笑みを浮かべる女性。
 父の活躍した戦場で、兵士や騎士、巻き込まれた民間人問わず看護にあたっていたという、白衣の天使。 

 お父様は、いつ死ぬともわからない戦場において、危険を省みず分け隔てなく手当てをして回る彼女の優しさと強さに惹かれたのだと、何度も聞いたことがある。 

 その悲しそうな顔は、きっと彼女を思い出させてしまったに違いない。慌てて何か言おうとするけれど、咄嗟に言葉が上手く出てこなかった。
 するとお父様の方から、ぽつりと呟くように声を発する。 

「……ミアには、母親が居た方が良いのかもしれないな……寂しい思いをさせてすまないね」
「え……あ……」 

 寂しいのはお父様も同じだろう。寧ろわたしよりももっと辛いはずなのに、彼はいつもわたしの心配ばかりだ。
 今朝のアメリアの時もそうだった。愛されている自覚は十分にある、贅沢なのはわかるけれど、けれどそれは幸せなだけじゃなく、酷く申し訳なくなるのだ。 

 愛を素直に受け取れないひねくれ者なのか、それとも悪役令嬢補正か何かでわたしに向けられた愛は誰かを不幸にしてしまうのか。そもそも聖女が悪役令嬢の母なんて物語が破綻してるのではないか。 

 ぐるぐると色々な思考が巡るものの、今のわたしにはわからずに、ただその寂しそうな笑みを見詰め返すことしか出来なかった。


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