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【第二章】悪役令嬢の先輩と、専属護衛騎士。

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 翌日、改めてわたしの元をルビー侯爵令嬢が訪れた。先日の謝罪も兼ねて会いたいと言われては、断れない。

 シャーロットは今朝の身支度の時に、改めてこの屋敷に残る旨を伝えてくれたものの、彼女と会わせるのは何となく怖かったので、今回の給仕はエミリーに頼んだ。

 皆シルバーワゴンを押すエミリーへと視線を向けたが、何故かルビー侯爵令嬢よりも、彼女の護衛で再び来ていた赤毛の騎士が残念そうに項垂れる。

「ご機嫌よう、ルビー侯爵令嬢。改めて、ようこそいらっしゃいました」
「……わたくしの元に、今朝皇室より手紙が届きましたの」
「……手紙、ですか?」

 挨拶も返さず、自分のことを話し出す。相変わらずな振る舞いだったものの、今日の彼女には以前と比べ、何処か覇気がない。

「……ええ、わたくしは、オリオン様の婚約者に相応しくないのですって」
「えっ……!? それって……」

 目の前の彼女は、いつもの自信満々の高圧的な態度ではなく、自嘲気味に笑みを浮かべる。

「……婚約破棄、ですわ」

 婚約破棄や断罪イベントと言うのは、もっとこう、舞踏会とか卒業パーティーとか、そういう派手な演出がなされるものだと思っていた。
 ゲームや漫画、フィクションだからこそ、それが悪役令嬢のせめてもの見せ場となるのだ。しかし現実は、こんなにも淡々としている。

 わたしに出来ることは、先輩の進む悪役令嬢の行く末を見守ることだけ。そうは理解していても、いざ泣き出しそうな少女を目の当たりにすると、やはり心に来るものがある。
 悪役令嬢の先輩。けれど彼女はまだ、たった十歳の少女なのだ。

「それ、は……何と言ったらいいか……」
「……薄々、気が付いていましたわ。オリオン様の心がわたくしに向いていないこと」
「ルビー侯爵令嬢……」

 悪役令嬢が年端もいかない内に婚約破棄されて、それじゃあ、皇子に愛されるヒロインは? やっぱり、彼が会いに通っているステラになるのだろうか。
 早すぎる展開に、当事者でないにも関わらず困惑する。
 しかし目の前の彼女は失意に暮れるでもなく、椅子を倒す勢いで立ち上がった。

「だから、シャルロッテお姉様を返して……!」
「え……!?」

 予想していた展開にも関わらず、その剣幕に、わたしは思わず硬直するしか出来なかった。

「わたくしはもう、オリオン様の正妃候補から外れたのです! だったら、私生児のお姉様が家に戻っても問題ないはずですわ!」
「それは……」
「お姉様を返して……わたくしには、お姉様しか居ないの……!」

 どうするのが正解なのだろう。
 シャーロットの気持ちも、ルビー侯爵令嬢の気持ちも、どちらも理解できた。答えを出せずに戸惑い、いっそわたしが泣きそうになる。
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