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【第二章】悪役令嬢の先輩と、専属護衛騎士。
④
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「お初に御目にかかります、ルビー侯爵令嬢。モルガナイト公爵家長女、ミア・モルガナイトです」
「……あなたが、オリオン様とお会いした令嬢……? 何よ、まだ子供じゃない」
「あ……あはは。ええと、オリオン殿下だけでなく、レオンハルト殿下にステラ様もいらっしゃいましたね」
ルビー侯爵令嬢訪問の当日。
文字通り死を覚悟する程緊張した皇太子達との謁見に比べ、同世代の女の子と言うことでそこまで身構えていなかったものの、初めて顔を合わせた彼女は通された応接室のソファーにふんぞり返るように腰掛けながらとても憮然としており、第一印象から気まずかった。
わたしより少し年上の、十歳の少女。皇子オリオン殿下の婚約者である、侯爵令嬢『リーゼロッテ・ルビー』。
わざわざ家に訪ねてきて尚挨拶もしないふてぶてしい態度に、思わず『悪役令嬢の先輩』だと認識してしまう。
彼女の護衛騎士であろう赤毛の男性が申し訳なさそうに頭を下げた。
前世の記憶を取り戻す前のわたし、ミア・モルガナイトも相当悪餓鬼だったが、彼女も負けず劣らずだ。
「ふうん、そう。つまり、多忙なあのお三方を同時に集めましたの。いい気なものですわね」
「わたしが集めた訳じゃないんですけどね……」
高圧的な態度と、発せられる言葉の端々がとても刺々しい。
聖女ステラの髪が明るく煌めく黄色寄りの金色だとすれば、彼女の髪は黄土色寄りの金髪。
悪役令嬢の定番の毛先縦ロールに、気の強そうな吊り目がちな赤ピンクの瞳。
ドレスも髪飾りも原色の赤でとても目立つ。……というか、赤被りしてしまった。『ルビー侯爵令嬢』と聞いており、無意識に赤がちらついたせいだろう。
わたしのドレスは控えめなワインレッドのため、派手さでは完全に敗けである。別に勝ちたくはないけれど。
「……」
「…………」
ルビー侯爵令嬢は、わたしに何か言いたいのか言葉を探すようにしていたのだが、こちらから下手に声をかけて気分を害されても困るので、にこにこと愛想笑いを浮かべて彼女の言葉を待つことにした。
今世では年上とはいえ、前世の記憶を持つわたしの中身的には、彼女は一回り以上年下の子供である。
同世代の子なら完全に萎縮してしまうであろう彼女の圧に屈することなく、終始にこやかに振る舞うわたしの様子に、心配だからと側に控えていた侍女のアメリアも、護衛のリヒトも、各々感心した視線を向けてくれた。何ならアメリアは感涙しかけている。
「……わたくしは、オリオン様の婚約者ですのよ」
「へ? あ、はい、存じております」
「……ですのに、わたくし、オリオン様とは久しくお会い出来ておりませんの」
「あー、ステラ様の元にお通いだとか……」
「そう! そうなんですの! ……あなた、何繋がりかは知りませんけど、その女狐……ステラ様とは仲がよろしいのでしょう!?」
「あ、はい……まあ。たまにお茶をするくらいには……?」
皇子殿下がステラの元へ足繁く通っているのは、風の噂……というより、ステラ本人から聞かされていた。
幼少期から光属性を自覚し、自在に魔法も使える今世紀の『聖女』とされる少女、ヘリオドール伯爵家の長女、ステラ。
彼女がわたしの前世の母親の生まれ変わりだとも言えず、関係は曖昧に笑って誤魔化す。
本当は大切なお母さんを女狐呼ばわりされ怒りたいものの、どう言葉にしていいのかわからなかった。
そのことが、彼女への怒りよりも自己嫌悪となる。我ながら難儀な性格だ。
「わたくしというものがありながら、他の女に会いに行くオリオン様もオリオン様ですわ」
「あはは……まあ、皇族は側妃を持つことも珍しくないですからね……」
「そうにしたって、レオンハルト様もオリオン様も、きっとあの女狐に唆されたに違いありませんわ!」
どうやら彼女の敵意の大半は、わたしのような年端もいかぬちんちくりんよりも、容姿端麗で話題性もある才色兼備な聖女へと向いているようだ。……うん、やっぱりルビー侯爵令嬢は『悪役令嬢の先輩』かもしれない。
このままルビー侯爵令嬢が危ぶんでいるように、ステラがオリオン殿下と結ばれようものなら、ステラが正ヒロイン、ルビー侯爵令嬢が婚約破棄される悪役令嬢として定番の物語は完結し、わたしが悪役令嬢になるルートは回避出来るかも知れない。
そうは思ったものの、如何せん、当のステラはオリオン殿下に恋愛的な興味はないし、何なら今世でもわたしの母親になるべく目下奮闘中なのである。今更わたしの悪役令嬢ルート回避のために、ステラはオリオン殿下ルートを選んでとも言えない。
わたしが『またお母さんになるルート』を選択肢に入れておいてと、あくまで可能性の一つとして提案したものの、彼女はその道が最善と判断したのだろう、以前はわたしに会いに来る時はお父様の居ない時間帯だったものの、近頃はお父様の非番や早上がりの日を把握して訪ねてくるようになった。
皇宮勤めの皇室騎士団の教官であるお父様のスケジュールを把握出来るステラの情報網が、ちょっと怖い。
「……と思いますの。あなたもよろしいでしょう?」
「えっ!? あ、……そーですね!」
……反射的に、前世で見ていたお昼のテレビ番組のような返答をしてしまった。ステラのことを考えていて、正直全く彼女の話を聞いていなかった。
しかし彼女はそれに気付くことなく、同意されたことに嬉しそうに笑みを浮かべる。憮然としているより余程可愛らしいが、彼女の言葉の同意と言うのは何と無く嫌な予感がした。
とりあえず後からアメリアに彼女が何と言っていたのか聞こうと思っていると、おもむろに部屋の扉がノックされる。
「……あなたが、オリオン様とお会いした令嬢……? 何よ、まだ子供じゃない」
「あ……あはは。ええと、オリオン殿下だけでなく、レオンハルト殿下にステラ様もいらっしゃいましたね」
ルビー侯爵令嬢訪問の当日。
文字通り死を覚悟する程緊張した皇太子達との謁見に比べ、同世代の女の子と言うことでそこまで身構えていなかったものの、初めて顔を合わせた彼女は通された応接室のソファーにふんぞり返るように腰掛けながらとても憮然としており、第一印象から気まずかった。
わたしより少し年上の、十歳の少女。皇子オリオン殿下の婚約者である、侯爵令嬢『リーゼロッテ・ルビー』。
わざわざ家に訪ねてきて尚挨拶もしないふてぶてしい態度に、思わず『悪役令嬢の先輩』だと認識してしまう。
彼女の護衛騎士であろう赤毛の男性が申し訳なさそうに頭を下げた。
前世の記憶を取り戻す前のわたし、ミア・モルガナイトも相当悪餓鬼だったが、彼女も負けず劣らずだ。
「ふうん、そう。つまり、多忙なあのお三方を同時に集めましたの。いい気なものですわね」
「わたしが集めた訳じゃないんですけどね……」
高圧的な態度と、発せられる言葉の端々がとても刺々しい。
聖女ステラの髪が明るく煌めく黄色寄りの金色だとすれば、彼女の髪は黄土色寄りの金髪。
悪役令嬢の定番の毛先縦ロールに、気の強そうな吊り目がちな赤ピンクの瞳。
ドレスも髪飾りも原色の赤でとても目立つ。……というか、赤被りしてしまった。『ルビー侯爵令嬢』と聞いており、無意識に赤がちらついたせいだろう。
わたしのドレスは控えめなワインレッドのため、派手さでは完全に敗けである。別に勝ちたくはないけれど。
「……」
「…………」
ルビー侯爵令嬢は、わたしに何か言いたいのか言葉を探すようにしていたのだが、こちらから下手に声をかけて気分を害されても困るので、にこにこと愛想笑いを浮かべて彼女の言葉を待つことにした。
今世では年上とはいえ、前世の記憶を持つわたしの中身的には、彼女は一回り以上年下の子供である。
同世代の子なら完全に萎縮してしまうであろう彼女の圧に屈することなく、終始にこやかに振る舞うわたしの様子に、心配だからと側に控えていた侍女のアメリアも、護衛のリヒトも、各々感心した視線を向けてくれた。何ならアメリアは感涙しかけている。
「……わたくしは、オリオン様の婚約者ですのよ」
「へ? あ、はい、存じております」
「……ですのに、わたくし、オリオン様とは久しくお会い出来ておりませんの」
「あー、ステラ様の元にお通いだとか……」
「そう! そうなんですの! ……あなた、何繋がりかは知りませんけど、その女狐……ステラ様とは仲がよろしいのでしょう!?」
「あ、はい……まあ。たまにお茶をするくらいには……?」
皇子殿下がステラの元へ足繁く通っているのは、風の噂……というより、ステラ本人から聞かされていた。
幼少期から光属性を自覚し、自在に魔法も使える今世紀の『聖女』とされる少女、ヘリオドール伯爵家の長女、ステラ。
彼女がわたしの前世の母親の生まれ変わりだとも言えず、関係は曖昧に笑って誤魔化す。
本当は大切なお母さんを女狐呼ばわりされ怒りたいものの、どう言葉にしていいのかわからなかった。
そのことが、彼女への怒りよりも自己嫌悪となる。我ながら難儀な性格だ。
「わたくしというものがありながら、他の女に会いに行くオリオン様もオリオン様ですわ」
「あはは……まあ、皇族は側妃を持つことも珍しくないですからね……」
「そうにしたって、レオンハルト様もオリオン様も、きっとあの女狐に唆されたに違いありませんわ!」
どうやら彼女の敵意の大半は、わたしのような年端もいかぬちんちくりんよりも、容姿端麗で話題性もある才色兼備な聖女へと向いているようだ。……うん、やっぱりルビー侯爵令嬢は『悪役令嬢の先輩』かもしれない。
このままルビー侯爵令嬢が危ぶんでいるように、ステラがオリオン殿下と結ばれようものなら、ステラが正ヒロイン、ルビー侯爵令嬢が婚約破棄される悪役令嬢として定番の物語は完結し、わたしが悪役令嬢になるルートは回避出来るかも知れない。
そうは思ったものの、如何せん、当のステラはオリオン殿下に恋愛的な興味はないし、何なら今世でもわたしの母親になるべく目下奮闘中なのである。今更わたしの悪役令嬢ルート回避のために、ステラはオリオン殿下ルートを選んでとも言えない。
わたしが『またお母さんになるルート』を選択肢に入れておいてと、あくまで可能性の一つとして提案したものの、彼女はその道が最善と判断したのだろう、以前はわたしに会いに来る時はお父様の居ない時間帯だったものの、近頃はお父様の非番や早上がりの日を把握して訪ねてくるようになった。
皇宮勤めの皇室騎士団の教官であるお父様のスケジュールを把握出来るステラの情報網が、ちょっと怖い。
「……と思いますの。あなたもよろしいでしょう?」
「えっ!? あ、……そーですね!」
……反射的に、前世で見ていたお昼のテレビ番組のような返答をしてしまった。ステラのことを考えていて、正直全く彼女の話を聞いていなかった。
しかし彼女はそれに気付くことなく、同意されたことに嬉しそうに笑みを浮かべる。憮然としているより余程可愛らしいが、彼女の言葉の同意と言うのは何と無く嫌な予感がした。
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