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【第二章】悪役令嬢の先輩と、専属護衛騎士。

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「どうしよう……」

 先日の皇太子殿下達の謁見以降、社交界ではあらぬ噂が飛び交っているらしい。
 ステラとわたしがそれぞれ彼等の婚約者候補だの、ステラとどちらかの婚約をモルガナイト公爵が証人になるだの、今度のお二人の誕生日パーティーでその辺りが発表されるだの、皇太子達とモルガナイト公爵がステラを巡って対立関係だの。

 そんなありとあらゆる噂が首都では蔓延し、貴族だけでなく市民にも大きく影響を与えていた。今はどこに行ってもステラを中心とした根も葉もない噂話ばかりだ。

 お陰で、未だ社交界に出ていないにも関わらず、わたしも飛び火して注目されているらしい。
 近隣住民はわたしの顔を知っているからおちおちお忍びで市街にも行けず、買い物はメイドに頼むか、わざわざ業者を呼びつけるしかなかった。

 いつもならお使いはシャーロット辺りに適当に頼むものの、今回は皇太子達の直々のプレゼントリクエストだ、下手な品を送る訳にはいかなかった。

『皇太子達への誕生日プレゼント作り』

 そんな最重要ミッションを達成するべく布や糸選びのため呼んだ業者にすら、噂の真相はと興味津々に聞かれ辟易してしまう。

「悪役令嬢として名を馳せる前に、変に目立っちゃってる……」

 今度の誕生日パーティーにお呼ばれしていることも既に広まっているらしく、その日まで、この憂鬱な喧騒は続きそうだった。

 そんなある日、わたしの元に一件の謁見希望が来た。世間を賑わせているステラや皇太子達ではなく、知らない名前だ。
 社交界デビュー前で知り合いの居ないわたし個人を名指しして来るのは珍しい。
 侍女のアメリアが持って来たその手紙は、「是非一度会ってお話ししたい」という至って普通の内容だった。
 手紙の内容が読めるようになっただけ、読み書きの勉強の成果が出ているようで嬉しくなる。が、アメリアの表情は複雑そうだった。

「お嬢様、どうされますか?」
「差出人は……えーと、リーゼロッテ・ルビー……誰?」
「ルビー侯爵家のご令嬢ですね。……オリオン殿下の現在の婚約者様です」
「!?」

 皇子の婚約者。ゲームやアニメなら完全に物語の主要人物だ。というか、ステラがヒロインならば、彼女は婚約破棄される悪役令嬢なのでは……?

 思わぬ『悪役令嬢仲間』の到来に、少しだけそわりとしてしまう。
 リーゼロッテ・ルビー。彼女と会うことで、何か悪役令嬢からの脱却ヒントが得られるかもしれない。
 善は急げだ。早速了承の返事を書いて、わたしはそれをアメリアへと手渡す。

「あの、本当に宜しいのですか?」
「うん? 何か問題でもあった?」
「いえ……巷ではお嬢様がどちらかの婚約者候補になったのではという噂もありますので……ひょっとすると、ルビー侯爵令嬢はそれを聞いて……」
「……?」
「その、ルビー侯爵令嬢は、昔のお嬢様のように癇癪持ち……いえ、少々感情表現豊かな方だと聞き及んでおりますので」

 ……もしかすると、これはヒントパートではなく、逆恨みからの死亡フラグだったのかもしれない。


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