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【第一章】母が聖女で、悪役令嬢はわたし。

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 その後恐れていた弾圧もなく、料理長の用意したおもてなしの食事も褒めて貰え、穏やかな時間は過ぎていった。

 皇太子殿下達はこの後予定があるらしく、見送りの際「また来る」とさらりと告げて先に皇室に戻って行く。
 嵐が通過したような一日にどっと疲れを感じながらも、わたしは自室に戻り、ステラと久しぶりのティータイムだ。 

「ステラ、あの、この前はごめんね……」
「ううん、いいのよ。ミアが私の幸せまで考えてくれたって、嬉しかったもの」
「傷つけて、怒ってると思ったの……だから嫌われて、会いに来てくれないんだって。……でも、今日また会えて安心した、助けてくれて、心配してくれて嬉しかった」
「あら、私がミアを嫌いになるなんてあり得ないわ。ミアのことが世界一大切だもの。ミアへの愛なら、公爵様にだって負ける気はしないわ!」

 自信満々に告げる彼女の愛は、前世から十分伝わっている。
 今日、ステラと皇太子達との様子を見ていたけれど、お互い友好的ではあったものの、彼女の方に恋愛感情はなさそうだった。
 わたしは思い切って、心の奥底に閉じ込めようとした仄かな希望を口にする。

「……あの……もしもね、ステラとしての幸せをまだ模索中なら、選択肢のひとつに加えて欲しいんだけど……」
「……?」
「この前は否定しちゃったけど、また、わたしのお母さんになるってルートも、残しておいてくれる……?」
「……! ええ、勿論!」

 あくまでも、可能性のひとつ。この先いくつも現れるであろうルートのひとつ。
 ステラがこの先に何を選ぶのか、彼女の幸せがどこにあるのかは、未だわからない。それでも、今この瞬間胸にある願いは、確かなものだった。

「でも、将来好きな人が出来たりしたら、ちゃんとそっち優先にしてね?」
「ふふ、大丈夫よ。ミアより大事な子なんて、この先も出来ないわ」
「……そう」

 ステラはわたしの言葉に、とても嬉しそうに頷いてくれた。でも、当人となるお父様の気持ちも、聖女の将来のことも、全部後回しにして気持ちを伝えてしまった。
 思うまま願い乞うなんて、子供らしいと言えばそれまでだが、ステラがわたしの頼みを断らないと踏んでの提案である。何とも打算的だ。

 この身に染み付いた『闇属性』は、何人の人生を巻き込むのだろう。
 自分勝手に聖女と皇族の縁を破談に向けさせるなんて、まったくもって悪役も良いところだ。

「ステラには、幸せになって欲しい。それは、本当だからね」

 脱却を夢見るわたしの悪役令嬢ライフは、まだまだ続きそうである。


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