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【第一章】母が聖女で、悪役令嬢はわたし。
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しおりを挟む皇太子達との謁見当日。
予定時間は昼からにも関わらず、朝から大忙しだった。朝食を済ませると早速いい香りのするバスタブに入れられて、侍女のアメリアの指示のもとメイド五人がかりでぴかぴかに磨かれマッサージされる。
湯浴みを終えると今度は丁寧に髪を乾かされて、編み込んだりお団子を作ったりといつもより凝った髪型に仕上げられた。
鏡越しに見るアメリアの表情がいつにも増して真剣で、鬼気迫る勢いだ。
ドレスはレースをふんだんに使ったふわりとしたシルエットで、春の終わりを彩る鮮やかな黄色。腰元の大きなリボンがアクセントになって華やかだった。
普段着慣れない色味やデザインに何となく落ち着かないものの、メイド達からは好評価だから客観的に見ておかしくはないのだろう。さすが美少女六歳児。何を着ても似合う。
仕上げにと、普段はしない色付きのリップで唇を彩る。髪色に合わせたピンクが可愛らしい。
耳には普段つけないイヤリングが揺れて。思わず鏡を覗き込む。瞳の色と同じ、秋の高い空の色味に近い澄んだブルートパーズ。
前世でこの宝石のネックレスを誕生日に買って貰ったものの、結局一度も身に付けないまま帰り道で死んでしまったことを思い出し、少し切なくなる。
全ての身支度が終わると、メイド達は渾身の作だとばかりに、疲労感と同じくらい満足そうにしていた。
「お嬢様、お綺麗ですよ!」
「あ、ありがとう……」
「近頃お嬢様が選ぶのは白とか紺とか大人しめの色味なので、今度からこういう明るいのも良いかもですね~」
「本当に。くそが……ごほん。やんちゃ盛りの頃には目を惹く赤とか黄色とかがお好きでしたのに」
「エミリー、今わたしのことクソガキって言おうとした……?」
「いえいえ! 滅相もないっ!」
シャーロットの出した話題に乗っかる形で発せられたメイドのエミリーの言葉に思わず突っ込みを入れると、彼女は慌てて首を振った。クソガキだったのは事実なので怒るつもりはなく、むしろ率直な意見が新鮮だったのだが。
「え、エミリーの言う通り、お嬢様は以前御召しになっていたような明るいお色もお似合いですわ!」
「あはは……二十五にして派手なのは中々勇気がいるから……」
「……二十五?」
「な、何でもない!」
エミリーをフォローするラナの言葉に思わず口にしてしまった前世の情報を、今度はわたしの方が首を振り誤魔化す。
するとせっかく整えた髪を振り乱すなと、アメリア達に慌てて止められた。
記憶を取り戻してすぐの頃、ドレスの色ひとつ提案するのに可哀想なくらい震えて青ざめていたメイド達も、今ではすっかり打ち解けてくれている。
本来の目的であった悪役令嬢ルート脱却は元より、そのことが普通に嬉しかった。
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