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【第一章】母が聖女で、悪役令嬢はわたし。
⑨
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「ほら、歳が気になるのだとしても……お母さん、精神年齢的には公爵様より歳上だし……」
「た、確かに……?」
「ふふっ、問題解決ね!」
「解決かなぁ!?」
実年齢と精神年齢が異なるのは、中々不便だ。流されそうになりつつも、その真意を確かめようとわたしは言葉を続ける。
「うう……そんなに、またわたしのお母さんになりたいの? 今はもう、お母さんがお腹を痛めて生んだ愛じゃないんだよ? 今のわたしは、ミアだもん」
「……それは私も同じよ、今は舞じゃなくて、ステラ。でも……今もこうして、二人きりの時にはお母さんって呼んでくれるでしょう?」
ティーセット越しに美しく微笑むステラに、何だか少し照れてしまう。こんな綺麗な人をお母さんなんて呼ぶのは、今更ながら問題なのではないか。
「それは、そうだけど……」
「それにね、ステラとしての時間は別として……私はただの『桜木舞』で居るよりも、愛ちゃんの『お母さん』で居る方が長かったんだから……もう、その人生が染み付いちゃってるの」
「……確かに。そう考えると、すごいね?」
過去のわたしの人生全てにお母さんが居て、お母さんの人生の半分以上も、わたしのお母さんとしての人生で。生まれ変わっても尚、こうして傍に居る。
これは、相当凄いことだ。お互いもう別の人生を歩めるのに、また手を伸ばし合うのだから。親子の愛というものは、予想以上に強いものらしい。
「……お母さんが、またわたしのお母さんになりたいって言ってくれるのは、凄く嬉しいよ」
「じゃあ……」
「でも! 今はステラとしての人生を、楽しんで欲しい……わたしのために、これからの未来を潰すなんてして欲しくないよ」
「潰すなんて、そんな……」
ステラの顔が悲痛に歪む。それに気付きながらも、わたしは言葉を重ねた。
「ステラは美人で、まだ若くて、貴族の令嬢で……聖女様で。出会いだって恋だってこれからたくさんで……だから、わたしが居ることで、選択肢を狭めて欲しくないよ」
「そんな、私は自分の意思で……」
「それでも。今は結論を急がないで欲しいな……せっかくの、新しい人生なんだから」
「愛ちゃん……。いえ、お心遣いありがとう、ミア」
再会して、お母さんから初めて、ミアと呼ばれた。
慣れない感覚にざわざわとしながらも、これでいいのだと自分を納得させる。
それでも双眸を伏せて手の中のカップを見下ろす彼女の表情に、傷つけてしまったのは理解した。
「ステラ……わたし……」
正直言うと、わたしのお母さんが他の誰かに取られるのは複雑だ。
いつかステラが誰かお父様以外の人と結ばれて、子供が生まれたとして。わたしの妹弟でもなく赤の他人のその子を、きっとあまり好きになれない。ステラがその子を抱いて慈しむ姿を、きっと嫉妬してしまうから見たくない。
それでも、大切な人の幸せを願うのは、当然のことだろう。
「……ミア?」
「……ううん、なんでもない」
愛情深い聖女の願いを踏みにじり否定したわたしは、きっとまた一歩、悪役令嬢ルートに踏み出した。
*******
「た、確かに……?」
「ふふっ、問題解決ね!」
「解決かなぁ!?」
実年齢と精神年齢が異なるのは、中々不便だ。流されそうになりつつも、その真意を確かめようとわたしは言葉を続ける。
「うう……そんなに、またわたしのお母さんになりたいの? 今はもう、お母さんがお腹を痛めて生んだ愛じゃないんだよ? 今のわたしは、ミアだもん」
「……それは私も同じよ、今は舞じゃなくて、ステラ。でも……今もこうして、二人きりの時にはお母さんって呼んでくれるでしょう?」
ティーセット越しに美しく微笑むステラに、何だか少し照れてしまう。こんな綺麗な人をお母さんなんて呼ぶのは、今更ながら問題なのではないか。
「それは、そうだけど……」
「それにね、ステラとしての時間は別として……私はただの『桜木舞』で居るよりも、愛ちゃんの『お母さん』で居る方が長かったんだから……もう、その人生が染み付いちゃってるの」
「……確かに。そう考えると、すごいね?」
過去のわたしの人生全てにお母さんが居て、お母さんの人生の半分以上も、わたしのお母さんとしての人生で。生まれ変わっても尚、こうして傍に居る。
これは、相当凄いことだ。お互いもう別の人生を歩めるのに、また手を伸ばし合うのだから。親子の愛というものは、予想以上に強いものらしい。
「……お母さんが、またわたしのお母さんになりたいって言ってくれるのは、凄く嬉しいよ」
「じゃあ……」
「でも! 今はステラとしての人生を、楽しんで欲しい……わたしのために、これからの未来を潰すなんてして欲しくないよ」
「潰すなんて、そんな……」
ステラの顔が悲痛に歪む。それに気付きながらも、わたしは言葉を重ねた。
「ステラは美人で、まだ若くて、貴族の令嬢で……聖女様で。出会いだって恋だってこれからたくさんで……だから、わたしが居ることで、選択肢を狭めて欲しくないよ」
「そんな、私は自分の意思で……」
「それでも。今は結論を急がないで欲しいな……せっかくの、新しい人生なんだから」
「愛ちゃん……。いえ、お心遣いありがとう、ミア」
再会して、お母さんから初めて、ミアと呼ばれた。
慣れない感覚にざわざわとしながらも、これでいいのだと自分を納得させる。
それでも双眸を伏せて手の中のカップを見下ろす彼女の表情に、傷つけてしまったのは理解した。
「ステラ……わたし……」
正直言うと、わたしのお母さんが他の誰かに取られるのは複雑だ。
いつかステラが誰かお父様以外の人と結ばれて、子供が生まれたとして。わたしの妹弟でもなく赤の他人のその子を、きっとあまり好きになれない。ステラがその子を抱いて慈しむ姿を、きっと嫉妬してしまうから見たくない。
それでも、大切な人の幸せを願うのは、当然のことだろう。
「……ミア?」
「……ううん、なんでもない」
愛情深い聖女の願いを踏みにじり否定したわたしは、きっとまた一歩、悪役令嬢ルートに踏み出した。
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