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【第一章】母が聖女で、悪役令嬢はわたし。
⑧
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前世の母親と異世界エンカウント。しかも、お母さんは『聖女様』だった。
そんな衝撃の事実が発覚してから、早一ヶ月。
わたし『ミア・モルガナイト』は相変わらず悪役令嬢ルートからの脱却を目論見ながら、日々いい子の振る舞いを続けている。
まずは周囲からの評判を回復し、尚且つ自分を高めることで将来的にも役立てるように勉学に励む。……国外追放とかになっても大丈夫なように、語学にはもっと力を入れるべきだろうか。
前世の母、今世の聖女である『ステラ・ヘリオドール』は、あの再会のパーティー以降、しょっちゅうモルガナイト公爵家を訪ねてくるようになった。
さすが肉体的には十六歳の少女ながら、記憶は二十五歳の娘を持つ母親である。
あの日は感極まって多少暴走してしまったものの、その後持ち前の美貌と対人スキルを駆使し、失敗を挽回してあまりある信頼を屋敷の使用人達や他の貴族達から勝ち取っていた。
着実に外堀から埋めていってる感が尋常じゃない。
わたし達は、前世で死に別れて以降、お互いずっと寂しかったのだ。
もう血の繋がりはないけれど、こうして今世でも巡り会えて前世の記憶を語り合えているのが不思議で、幸せだ。
わたし達だけが話せる、秘密の共有。ささいな思い出話や、前の世界での当たり前のこと。そんな話をする時間が、とても心地好かった。
そして今日も彼女は、お父様が皇室騎士団の指導のために皇宮まで行っている間に遊びに来て、わたしの部屋から通じるバルコニースペースで優雅なティータイムだ。
季節は春。ぽかぽか陽気で春風が庭園の花弁を舞わせ、外で過ごすのも心地好い快適な気候。
料理長自ら拵えた可愛らしいスイーツや、淹れたての紅茶の甘い香りが春風に乗って鼻腔を擽る。
メイドのシャーロット達が用意してくれたティーセットを真ん中にして、わたし達は向かい合って座る。三段重ねのケーキスタンドに載せられた愛らしい一口サイズのケーキを頬張りながら、二人きりで思い出話に花を咲かせた。
「あの頃は、ケーキを何種類か買って来ても、必ず全部半分こにして食べたわね」
「だって色んな味食べたいもん」
「ふふっ、マカロン一つでも、ナイフでちゃんと半分にしてね」
「あははっ、そうそう、切ろうとして砕けちゃってたよね」
目の前の彼女の言動が自分の記憶の中と一致することで、お母さんなのだと改めて認識する。
陽の光を受けていっそう煌めく長い金糸の髪、青空より濃くサファイアより輝く瞳、春の花びらよりも鮮やかに色付く唇、白く長い指先でカップを持ち目の前で紅茶を飲む姿がまるで絵画のようで、そのギャップに未だに戸惑ってしまう。
「なぁに、そんなに見詰めて」
「ううん、何か変な感じだなぁって」
「そうね……でも、また愛ちゃんと会えて嬉しいわ」
「うん……わたしも」
桜木愛。わたし、ミア・モルガナイトの前世での名前。今はもう目の前の彼女しか呼ばないその名前を聞く度に、懐かしさと愛しさに胸が締め付けられるような心地がした。
「ところで愛ちゃん。お父様……モルガナイト公爵は、再婚のご予定はあるのかしら?」
「……んん!?」
予想外の問い掛けに、思わず紅茶を吹き出しそうになり噎せ込む。
もうわかっている。こんな風に突拍子もない言動をする時には、彼女の暴走タイムが始まるのだ。
「えっと……どうしてそんなこと聞くの?」
「私、もう十六でしょう? 社交界デビューも済ませたし……どうせ嫁ぐのなら、また愛ちゃんのお母さんになりたいなぁ……なんて」
「いやいやいや、待って!? もっと自分を大切にして!?」
わたしの即座の否定に、予想外なリアクションだったのかステラはきょとんとした後、眉を下げる。
親子になりたくないのかと寂しそうにされたものの、十六歳になったばかりの無垢な少女が、二十歳近く年上の男……ましてや自分と十歳しか変わらない子供の居る人と結婚。
想像しただけで訳あり感が半端ない。
「……やっぱり自分を大切にして!?」
「えー……?」
大事なことだから思わず二度言った。
確かにわたしの今世での父親ジャック・モルガナイトは、騎士団教官で上級貴族の公爵様だ。
三十代半ばにして中年太りとは無縁の現役さながらの肉体、わたしより濃い桃色の髪にアメジストのような深みのある紫の瞳の優しげイケメンだし、性格もおおらかで子煩悩で……
「あれ、意外と悪くはない……?」
「でしょう!?」
いやいや、流されちゃ駄目だ。ここでわたしが認めてしまえば、きっとお母さんは本気でアプローチを始めるだろう。
前世の母と今世の父、二人がくっつくと考えると、嬉しい反面色々複雑だ。
そんな衝撃の事実が発覚してから、早一ヶ月。
わたし『ミア・モルガナイト』は相変わらず悪役令嬢ルートからの脱却を目論見ながら、日々いい子の振る舞いを続けている。
まずは周囲からの評判を回復し、尚且つ自分を高めることで将来的にも役立てるように勉学に励む。……国外追放とかになっても大丈夫なように、語学にはもっと力を入れるべきだろうか。
前世の母、今世の聖女である『ステラ・ヘリオドール』は、あの再会のパーティー以降、しょっちゅうモルガナイト公爵家を訪ねてくるようになった。
さすが肉体的には十六歳の少女ながら、記憶は二十五歳の娘を持つ母親である。
あの日は感極まって多少暴走してしまったものの、その後持ち前の美貌と対人スキルを駆使し、失敗を挽回してあまりある信頼を屋敷の使用人達や他の貴族達から勝ち取っていた。
着実に外堀から埋めていってる感が尋常じゃない。
わたし達は、前世で死に別れて以降、お互いずっと寂しかったのだ。
もう血の繋がりはないけれど、こうして今世でも巡り会えて前世の記憶を語り合えているのが不思議で、幸せだ。
わたし達だけが話せる、秘密の共有。ささいな思い出話や、前の世界での当たり前のこと。そんな話をする時間が、とても心地好かった。
そして今日も彼女は、お父様が皇室騎士団の指導のために皇宮まで行っている間に遊びに来て、わたしの部屋から通じるバルコニースペースで優雅なティータイムだ。
季節は春。ぽかぽか陽気で春風が庭園の花弁を舞わせ、外で過ごすのも心地好い快適な気候。
料理長自ら拵えた可愛らしいスイーツや、淹れたての紅茶の甘い香りが春風に乗って鼻腔を擽る。
メイドのシャーロット達が用意してくれたティーセットを真ん中にして、わたし達は向かい合って座る。三段重ねのケーキスタンドに載せられた愛らしい一口サイズのケーキを頬張りながら、二人きりで思い出話に花を咲かせた。
「あの頃は、ケーキを何種類か買って来ても、必ず全部半分こにして食べたわね」
「だって色んな味食べたいもん」
「ふふっ、マカロン一つでも、ナイフでちゃんと半分にしてね」
「あははっ、そうそう、切ろうとして砕けちゃってたよね」
目の前の彼女の言動が自分の記憶の中と一致することで、お母さんなのだと改めて認識する。
陽の光を受けていっそう煌めく長い金糸の髪、青空より濃くサファイアより輝く瞳、春の花びらよりも鮮やかに色付く唇、白く長い指先でカップを持ち目の前で紅茶を飲む姿がまるで絵画のようで、そのギャップに未だに戸惑ってしまう。
「なぁに、そんなに見詰めて」
「ううん、何か変な感じだなぁって」
「そうね……でも、また愛ちゃんと会えて嬉しいわ」
「うん……わたしも」
桜木愛。わたし、ミア・モルガナイトの前世での名前。今はもう目の前の彼女しか呼ばないその名前を聞く度に、懐かしさと愛しさに胸が締め付けられるような心地がした。
「ところで愛ちゃん。お父様……モルガナイト公爵は、再婚のご予定はあるのかしら?」
「……んん!?」
予想外の問い掛けに、思わず紅茶を吹き出しそうになり噎せ込む。
もうわかっている。こんな風に突拍子もない言動をする時には、彼女の暴走タイムが始まるのだ。
「えっと……どうしてそんなこと聞くの?」
「私、もう十六でしょう? 社交界デビューも済ませたし……どうせ嫁ぐのなら、また愛ちゃんのお母さんになりたいなぁ……なんて」
「いやいやいや、待って!? もっと自分を大切にして!?」
わたしの即座の否定に、予想外なリアクションだったのかステラはきょとんとした後、眉を下げる。
親子になりたくないのかと寂しそうにされたものの、十六歳になったばかりの無垢な少女が、二十歳近く年上の男……ましてや自分と十歳しか変わらない子供の居る人と結婚。
想像しただけで訳あり感が半端ない。
「……やっぱり自分を大切にして!?」
「えー……?」
大事なことだから思わず二度言った。
確かにわたしの今世での父親ジャック・モルガナイトは、騎士団教官で上級貴族の公爵様だ。
三十代半ばにして中年太りとは無縁の現役さながらの肉体、わたしより濃い桃色の髪にアメジストのような深みのある紫の瞳の優しげイケメンだし、性格もおおらかで子煩悩で……
「あれ、意外と悪くはない……?」
「でしょう!?」
いやいや、流されちゃ駄目だ。ここでわたしが認めてしまえば、きっとお母さんは本気でアプローチを始めるだろう。
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