アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜

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【第一章】母が聖女で、悪役令嬢はわたし。

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 そんなこんなで、ずっとわたしの世話をしていた使用人達は最初こそ悪餓鬼の突然の変貌に戸惑っていたものの、『いい子になろう計画』を始めて一年もする頃には、いい子のお嬢様として扱ってくれるようになった。

 特にわたし付きの侍女で乳母でもあるアメリアは、ことあるごとに過剰なまでに褒めてくれたし、わたしの成長を心から喜び、前世の母親のように可愛がってくれた。

 今世では、生まれた時には既に母親は居なかった。
 モルガナイト公爵夫人、わたしの母親である『セレスティア』は昔から病弱で、わたしをその命と引き換えに生んだらしい。
 父親である公爵『ジャック・モルガナイト』は、愛する妻の忘れ形見である一人娘に寂しい思いをさせないよう、その財を以て目一杯の贅沢をさせ、わがままを全て許容した。

 その結果が、この悪役令嬢予備軍である。

 わたしが前世の記憶を取り戻してからの挙動不審な数日間は、彼も目に見える程動揺し憔悴していたので、本当にわたしを大切にしてくれているのだろう。
 前世も今世も片親の寂しさはあったものの、それでもその分愛情を込めて育てて貰っているのは感じていた。

「お母さん……わたしが死んで、悲しんでるかなぁ……」

 桜木愛としての日々が、もう遠い昔のことのようで、つい先日のような気もする。
 前世の事故から、どれだけの時間を経てわたしは転生したのだろう。
 一緒に歩いていたお母さんは、あの後どうしたのだろう。

 毎日のように家庭教師が教えてくれる、令嬢としての必須科目であるマナーレッスンやダンスレッスン。そんな前世との差を感じる時間の度に、ふと脳裏に過るのは、かつてわたしを包んでくれた愛情。

 母子家庭で質素な生活でも、二人で過ごす時間がずっと続けば良いと思っていた。
 今のお金に困ることのない贅沢で大切にされる生活に何ら不自由はないものの、それとこれとは話は別なのだ。

 無い物ねだりとは違う、心にぽっかりと空いた穴。充分満たされているはずなのに、それを自覚して、少しだけ寂しくなった。


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