丘のむこうは海蛇座

藤川 萄

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第19話 ガンクツ La kaverno Ⅰ

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 岩窟がんくつに身をひそめ、ずっとじゅうかまえている。

 わたしの愛するひとをこの山に狒狒ひひれていき、歯ブラシにしてしまったのだ。

 わたしは復讐ふくしゅうちかい、村を出た。この細腕ほそうでではまともに戦って勝てるとは思えない。だが勝てる算段さんだんはある。

 旅回たびまわりのうらなが言うには、狒狒のくびうしろにいつも血をにじませている黒子ほくろがある。これを銃による一発でこそぎ取ることができれば、そこから血をき出して狒狒はおのずと死ぬ。

 占いなど信じたことはないが、わたしは自分の家産かさんのすべてをその占い師にあげてここに来た。

 好機こうきは百年のうちにまたたきするほどのわずかな時間しかおとずれないと、直感ちょっかんでわかっていた。銃の構えを一瞬もけない。

 まわりは豪奢ごうしゃな花の山であった。

 わたしはなみだを流した。狒狒がこんなに美しい山に棲み、日々ひびつちめてはたらくわたしたちが岩窟の奥に似た暗い土地に住まわされているおかしさを感じたからである。

 わたしは銃をおろした。岩窟を出て、かがやかしい天空てんくうにむかっていのった、わたしを狒狒にしてくださいと。

 天空は答えなかった。そのかわりに近くで足音あしおとがした。

 狒狒がわたしを歯ブラシにしに来たのである。



 Fino

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