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第5話 空をなくした女 La virino perdintan ĉielon
しおりを挟む大火がせまってくる。
幼いわたしは母に強い力で手をひかれ、屋敷の裏の水路にうかべた舟にのせられた。
舟はいそいで岸をはなれる。
わたしはなんどもわが家をふりかえった。急に連れだされたので、宝ばこを持ってこれなかった!
母家の屋根裏部屋に、わたしの宝物を入れた罐がかくしてあり、そのなかには、わたしが青空にたのんでゆずりうけた、空の子も入っているのだ。
あのうつくしい青さ、宝石を思わせる透きとおった輝き。
ことばを話さなくても、尊敬できる友人だった――。
だがおとなたちの必死な様子に、わたしはすっかり怖じ気づいてしまい、どうか舟をもどして、とは言えなかった。
舟は水路から広い川に出、さらに海にむかって避難していく。
もうわが家のあたりは真っ赤だ。
わたしは空の子を見すてた……。
これはむかし見た夢だ。じっさいには、そんな大火はおきなかった。
だがたとえ夢のなかであろうと、わたしは青空をうらぎってはいけなかったのだ。
わたしの人生において、空は青く広々とした姿を、まったくあらわしてくれなくなった。
わたしはもう青空と親しくふれあうことはできない。
――どうあやまれば、ゆるしてくれるのだろう。
それがわからないまま、今夜もわたしは街の隅の暗い酒場で、空をなくした女の歌をうたっている。
Fino
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