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第二話  聖魔導師ディアナを巡る恋の予感

6  事の始まりと自由への憧れ

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 時間は少し戻って約3年半前――――。
 ブランカフォルトに眠り死病スリーピング・デスが蔓延し、宮の子供達が病に倒れ、アレクサが治療を終えて一週間と少しが過ぎた頃……。

 眠り死病はいまだ終息していない。

 そしてそれを癒す事の出来る上級聖魔導師はいる事はいるのだが、その絶対数は少ない。
 また大陸内で一番聖魔導師が多いのは言わずと知れたノースウッド。
 そのノースウッドでさえも上級聖魔導師はと言ってもいいのだ。
 勿論国王であるクリスはアレクサの故国であるノースウッドへ可及的速やかに上級聖魔導師の派遣を要請したのは言うまでもないが、その数は知れているのだ。
 ノースウッドも全ての上級聖魔導師を、幾ら同盟国と言ったところで出す訳にはいかない。
 ブランカフォルトで発生した眠り死病が隣国ノースウッドへその死の翼を広げ覆い尽くさんとする可能性は捨てきれないし、また聖魔導師の仕事はそれだけではない。
 それでも教皇きょうおうはクリスの要請に応じ、20名の上級聖魔導師をブランカフォルトへ派遣した――――が、やはり足りないのだ。
 そしてその事は誰よりもアレクサ自身肌で感じていた。

 自身は1という事を……。

 兎に角今は1人でも多く聖魔導師が必要とされているに違いない。
 なのにアレクサは自身が如何どうして王宮でのんびりと過ごしていなければならないのかという疑問。
 十分な力を保有しているというのにっ、この力は一体何の為に習得したのか?
 寝る間も惜しんで勉強や鍛錬を積み、そうして腕を磨いてきたというのにっ、現実目の前で困っている人達が大勢いるというのにっ、この力を今遣わなくて何時遣うというのかっっ!!

 そう、!!

 自身のやるべき事を見出したアレクサは、猫足の長椅子ソファーより勢いよく立ちあがる。
 そして支度部屋へ続く扉へ向かおうとすれば、素早くベアが声を掛けてきた。
 多分ベアも察したのかもしれない。
 伊達に7年もアレクサ付きの侍女をしていた訳ではないのだ。
 アレクサが何を考え、何を思うのかへ常に思いを馳せ、そうしてベアは先回りをしてアレクサ自身思う通りに行動出来るよう配慮するのが、侍女の務めだとベアはそう捉えていたが……。

「やはり危険に御座いますアレクサ様っっ」

 そう、自由に行動して貰いたいのと、今アレクサが行おうとする事は違うのではないだろうか。
 今回のアレクサの行動は危険極まりない。
 ここはアレクサ達の故国ノースウッドではなく、なのだ!!
 幾らなんでもアレクサの望む行動は、やはり無謀と言っても仕方のない事。
 アレクサを慕うベアはアレクサ自身の身の安全と、また此度の行動を回避して欲しいと、頭の中をせわしなく回転させるのだが……。
 そんなベアの様子を見たアレクサは、彼女の頬をしっとりとした滑らかな肌をした手で優しく覆う。

「あ、アレクサ様っっ!?」

 ベアの頬を覆う手と共にアレクサは、ゆっくりと微笑みながら彼女の顔近くまでそっと寄せる。
 そんな風にアレクサに近づかれてしまうと、ベアの心臓は予想以上に煩く打ち始める。
 初めて恋を知った少女の様にぽぉっと恥ずかしげに顔を赤らめ、また喉がカラカラに干上がった様に上手く声を発せない分心臓は実に煩い。
 でもアレクサはそれに気付かない。
 本当に何処までも無自覚なのだ彼女は……。
 そして――――。

「ね、ベア、あなたが凄く心配してくれている事をちゃんとわかっている心算つもりよ。でもね、あなた達が心配してくれている以上に、私は病で苦しんでいる人達を何も知らないふりして放っておくなんて事は出来ないのよ」
「あ、アレクサ様っっ」
「わかっていてよ、危険な事は十分わかっている心算つもり。それでも私は王族である前に1人の聖魔導師なの。苦しんでいる人が1人でもいるのであれば、私は何を置いてもその人の許へ駆けつけなくてはいけないの。そしてそれが今――――なの」

 アレクサの決意は固い。

 もうアレクサは病に苦しんでいる人達の許へ行く事を決めたのだ……と、ベアはそう理解するしかない。
 ベアが慕うアレクサは元々そういう女性だったのだから……。
 そうとわかればベアのとるべき行動は一つ――――。

「では、私もお供致します!!」
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