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第二話 聖魔導師ディアナを巡る恋の予感
2 アデイラードの醜い嫉妬 Ⅱ
しおりを挟む「なっ、あなた達こそ何様の心算なのっっ!!」
「クスクス、そんなぁ何様ってそちらこそ何様の心算でしょうかぁ、アデイラード様?」
階上にいるカッサンドラとニコレッタに見咎められたアデイラードは、顔を自身の持つ髪の色と同じく真っ赤にさせ下唇をきゅっと噛み締めたまま、胸の奥底より込み上げる苛立ちを隠そうともしない。
そしてそれを十分理解した上で更に彼女を煽る様な言葉を、カッサンドラは事も無げに投げつける。
アデイラードとカッサンドラは最初の出会いより性格が合わず、はっきり言って水と油。
こうして寄ると触ると直ぐ口論へと発展してしまう。
暴力行為へ発展しないのは奇跡なのかもしれない。
まぁカッサンドラの方が一枚上手なようで、直ぐヒステリックになるアデイラードを彼女が愉しげに揶揄っている様にも見て取れるのだが……。
またアレクサが嫁してよりこの4年もの間、後宮は大きく3つに分かれた。
先ずアデイラードを頂点としてクロエ、ダフネそしてガラテアとフィリッパ。
ただアデイラード以下の4名は彼女を心より敬意を表し、また命ずるままに従っている訳ではないらしい。
一言で言えば同じ貴族出身だから一緒にいるという具合?
だから同じグループでも考え方は様々だがそこは貴族出身お互い笑みを湛えたまま表面的には仲が良下げでも、心の内では何を想っているのやら……。
その中でもクロエは確実に、アデイラード達より一歩下がって様子を窺っていると言ってもいい。
次に言わずと知れたニコレッタを元とするカッサンドラとエリアンテにイサドラのママ友組。
最近はアレクサと行動を共にしている事を隠さず、だからと言ってアデイラードみたく後宮を牛耳ろうともしない。
女の戦いより母として子供達と少しでも一緒に過ごす事を優先している。
また先程の様に度を越したアデイラードの姑いびりの様な虐めを見つけると、彼女達は素早くその対象者を護っていた。
まぁアデイラードからすればアレクサの次に目の上のたんこぶ的存在。
最後に愛妾8号、金色の髪に金色の瞳した華やか美人である子爵令嬢のマグデレネ18歳。
彼女は何処にも属さない一匹狼。
だから常に単独で行動している。
話は戻ってまだアデイラードとカッサンドラは絶賛口論中だ。
2人のそんな様子にニコレッタは両肩を竦めてやれやれと言った感じだし、アデイラードの後ろで控えている4人の愛妾達も何処か辟易とした表情で眺めている。
だが何時までもこのままでいい訳にはいかない。
傍で控えている侍女達も如何したものかとオロオロしているし、2人の妊婦も早く部屋へと案内し身体を休めなければ胎の子にも差し障りが出るかもしれない。
こうなるとこの2人を鎮める役目は自然と何時もニコレッタになってしまう。
彼女自身何も好き好んで参戦をしたくはないのだがこれも乗り掛かった船、最後まで面倒をみるしかないのである。
「コホン……アデイラード様、先程の会話は私の空耳なのでしょうか?」
「ん、何? あぁ行き成り話し掛けないで頂けるかしら、今この平民女に思い知らせてやろうと――――」
「アデイラード様、一体何の権限があってその様なお振舞いに出られているのでしょうか?」
ニコレッタは静かに、そしてやや怒気を含めた物言いでアデイラードへ尋ねる。
その声を聞いた瞬間アデイラードは「ひゅっっ」と喉を鳴らし、それまで息巻いて興奮していたのは何処へやら、そのままカッサンドラとの口論も忘れ俄かに表情を青褪めたアデイラードは、それでもなけなしの誇りを盾に……。
「な、な、何が言いたくて……っっ!?」
そして先程まで張りのある声とは打って変わってその言葉尻はしゅるるると、風船のように萎んでいく。
アデイラードより2歳年下とはいえ、このニコレッタはどうも苦手な相手。
カッサンドラの様に感情的に話し掛ける事なく、どんな時も常に冷静でそして――――大層物覚えもいい。
だから……。
「どなたが誰よりも陛下のご寵愛が深く、そしてどなたに仕えるのかを考えろ――――でしたわね? それにお子を身籠るのにどなたの許可が必要で、また恐れ多くも王妃様を卑下する様な物言い、その様な事がよもや許されるとお思いになられているのではないですわねアデイラード様? それに……」
「な、ちょ、嫌ね、ちょっとした言葉の綾って言うものよっっ!!」
本当に一々口煩いったらないわ……と、握っていた扇を開いてパタパタ仰ぐ仕草をしながら、後の4人を引き連れ足早にその場を去って行く。
「ったく、言われたくなければ最初から言わなきゃいいのに!!」
「あぁ仕方がないのよあの方は……本来ならばもうここにいる資格さえないのだから……」
「資格?」
何の資格なのか……とカサドラは同じ年の親友へそれとなく問い掛ける。
「ふふ、知らなかったのねカサドラは、いいわ、後で教えてあげる――――でもその前に……」
ニコルは笑みを浮かべながらゆっくりとゼナイダとセレーネの前へと歩み寄る。
「ようこそ、私はニコレッタよ、兎に角私達の部屋でお茶をしながらお話をしましょうか。その様子ではまだしっかり理解出来ていない様子ですものね」
そうしてニコレッタは侍女に命じ、セレーネの傷の手当等の指示を出しながら彼女達を部屋へと招く。
それからもアレクサが彼女達を子供達の宮へ移すまでの間、身重の2人へアデイラードは、ある時には通りすがりにぶつかってみたり、また足を踏みつけネチネチと意地悪な言葉を投げつける等の嫌がらせを行っていた。
それも煩いカッサンドラやニコレッタのいない所でだ!!
傍についている侍女達ではアデイラードの乱行を止める事も、まして諌めるなんて出来ないのを彼女自身十分にわかっていての所業でもある。
だからアレクサが彼女達をアデイラードが決して踏み入れる事の出来ない子供達の宮へ移した時は、アデイラードは怒りに身を任せ、部屋中のありとあらゆるものを投げ散らかしていた――――らしい。
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