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第一話  白い結婚と眠り死病

15  天然誑しのアレクサのお願い

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 それから数日後、クリスがアレクサへ告げた通り2人の愛妾が後宮へ入宮した。

 愛妾11号となるのはまだあどけなさの残る平民出身のセレーネ。
 すっきりとした青空を思わせる水色の髪と金色の瞳をした16歳。

 そして愛妾12号となるのが先日の戦で夫が戦死したという男爵未亡人であるゼナイダ。
 艶やかな金色の髪に紫の瞳をした大人の女性の色間を纏う24歳。
 また何故か2人共信じられない事に現在妊娠中。
 その報告を受けたアレクサは、思わず頭痛と眩暈を覚えた。

 本当に、紙切れ嬢とは言え我が夫の下半身事情はどうなっているのだろうか?
 あぁ誰かわかりやすく説明……いえ、むしろされた方がもっと頭が痛くなるのかもしれない。
 兎に角妊婦と言う事は、出来るだけ早くアデイラード達との接触を避けさせた方がいいかもしれない。
 せめて環境に慣れるまで、いいえっ、子が無事に誕生し母子共に落ち着くまでの間は2人を子供達の宮へ移しましょう。

 等とアレクサは生まれてくるであろう新たな夫の血を引く子供について、あれこれと頭を悩ましていた。
 たとえ形だけの仮面夫婦とは言っても、新たな女性が加わるのはアレクサ自身あまり気持ちの良いものではない。
 しかしそれでも宮に子供が増える事は純粋に嬉しい。
 子供達のあどけない表情かおを見ているだけで、彼女の心が癒されると言っても過言ではない。
 だから――――。

「ベア、今日の公務の予定はどうなのかしら?」
「はい、先程の謁見で終わりに御座いますわ」

 早速お茶でもご用意しましょうか?

 ベアがそう言い終わる前にアレクサは急いで制止する。

「お茶はいいの、これから後宮へ行って、その後は子供達の所へ行くわ」
「え、ですが今日は愛妾達とのお茶会の予定では――――」

 ない筈……とベアが口にする前にアレクサは――――。

「えぇそうなのだけれど、先日後宮へ新しく入った愛妾達を子供達のいる宮へ移すのよ、ほら、2人共妊娠しているでしょう? このまま後宮にいればきっとアデイラード達が纏わりついて、それこそお腹の子に何かあれば大変ですもの。だからね……」

 アレクサは茶目っ気たっぷりにウインクしてそう告げるがしかし、ベアはアレクサのそんな萌えの姿を見たと言うのに何故か何時もはキラキラと愛らしい彼女の茶色の瞳が、真っ赤な炎を燃え盛らせ怒りを孕ませていたのだ。

如何どうしたのベア、何か気分でも悪いのかしら?」
「違っ、ど、如何してアレクサ様がその様な事までしてお気を遣わなければいけないのですかっっ!! 愛妾なんてどうでもいいではないですかっっ。わ、私は悔しいのですっ、アレクサ様程この世で素敵な御方なんて何処をお探ししてもいらっしゃらないというのにっ、あの馬鹿王はっ、この四年もの間アレクサ様を蔑ろにするだけでは飽き足らず、自分の尻拭いをアレクサ様におさせしていると言う事実に腹も立ちますし、そしてとても悔しいのです!!」

 ベアはそう言ってぽろぽろと、大粒の涙を流して泣き叫んでいた。

「ベア……」

 そうしてその場で床に崩れる様にうずくまり、ベアは脇目も振らず涙を溢れさせていた。
 当然侍女として主の前で感情を剥き出し、またその場で泣き崩れる事等あってはならぬ事。
 しかしアレクサはベアを咎めようとはせず、それどころかそんな彼女の気持へ寄り添おうと長椅子ソファーより立ち傍近くに行こうと視線を上げれば、どうやら悔し泣きをしているのはベア1人だけではなかった。
 そう、この部屋にいるアレクサに仕える侍女達全員が涙をぽろぽろと流しむせび泣いていた。
 これにはアレクサもほとほと困ってしまう。

 一体誰を先に慰めればいいのだろうかと……。

「ね、皆聞いて頂戴。私は何も陛下より蔑ろにされて等いないわ。それに第一私達夫婦は元をただせば政略の為だけの結婚なのよ。しかも私は陛下より9歳も年上ですからね、どちらかと言えば陛下の方がお可哀想なのよ」

 そうね、こんなにも齢を重ねた女を妻だなんてね……と、アレクサ自身知らず知らずにやや自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。

「で、ですがアレクサ様っっ」
「この事はちゃんと陛下より直接お話も聞いたの。それに何も陛下の尻拭いをさせられているのではなくってよ、聞けば2人は身籠っているでしょう。そうよ、また宮へ新たな子供が増えるのよ、だから私は王妃として、行く行くは手続き上だけかもしれないけれど母親として、ちゃんと子供達が無事に生まれるまで護らなければならないの。それに私は私の出来る事をしているだけ。別に無理をしている訳ではないからわかって、ね」
「そ、そんな事をおっしゃられてしまわれれば、私達は何も言えないじゃないですか」
「そうね、でも私は本当に気にしていないのよ。それよりもね、協力して欲しいの。如何いかにしてあのアデイラードより2人を無事に子供達の宮へ移す事にね」

 アレクサはこてん――――と首をかしげ、ベアを含む侍女達へ可愛らしく笑顔でお願いをする。


 やんごとのない御身分の皇女ひめ様なのに、何かをしたければ命令一つで何でもお出来になる筈なのに、如何してこの御方はそれをなさらないのだろう。
 そう、昔から、私がまだノースウッドの宮殿へ伺候しこうする前……初めてアレクサ様にお会いした時より少しもこの御方は変わっていらっしゃらない。
 それに……こんなに可愛らしくお願いをされれば誰も断れないですよ、皇女様。

 本当に無自覚な天然のたらしなのですからね、私の皇女様は……。
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