上 下
15 / 39
第一話  白い結婚と眠り死病

12 閑話  筆頭侍女ベアの心の日記???  Ⅱ

しおりを挟む
 まあ父にしてみれば世間で揉まれる事により我儘娘も少しは大人しくなるだろう。
 そうして大人しくなっただろう私に、抵抗する間も与えず親の決めた男性と結婚へ踏み切らせようとでも考えたのでしょうね。
 本当に我が父かと疑いたくなるくらい阿呆ぶりですけれど――――。
 ところがどっこいです。
 私はその場で小躍りしたくなるのを必死で我慢し、そこは深窓の令嬢らしく両親の命令を有難く受け入れました。

 1

 しかしです。
 伺候するまでは大人しく聞き訳の良い娘を演じておりましたがっ、一度宮殿へ侍女と上がれば……もうこちらのものです!!
 ふふふ、親が帰って来いと命じても、この私が素直に帰る訳がないでしょう!!
 何としても居座ってみせますっっ。
 恋しい御方のお傍にいられるのならばこのベアトリス・コリーン・オルコット、多少阿漕あこぎな真似を致しましても絶対にアレクサ様のお傍より一歩も退きません事よ。

 こうして両親の目論見に上手く乗っかり、侍女となった私はアレクサ様と再び宮殿で再会したのです。
 そしてアレクサ様はそんな私を見て優しげに微笑まれ――――。

「まぁ、

 はううぅぅぅぅ……っっ!?
 こ、光栄にも覚えて頂いていたのですっっ!!
 あぁもう決してっ、そう決して私は貴女様のお傍を離れる事は致しませんっっ。
 この先アレクサ様がどの様な所へ行かれるにしろ、私は決してお傍を離れる事はないでしょう。
 たとええ両親と訣別してもですっっ。
 それ程に私の意思は堅いのです!!

 ですがその6年後まさか隣国ブランカフォルトへ輿入れされるとは夢にも思いませんでしたけれどね。
 しかし何があっても私はアレクサ様の味方です。
 私にとってアレクサ様と言う存在は世界樹にいらっしゃるという精霊様、そして勇者様と同等もしくはそれ以上なのです。
 また侍女になった利点の一つ、アレクサ様の素顔を知る数少ない人間となりました。
 私の幸せとは、そんなアレクサ様のお顔を何時までも見つめていたい……ただそれだけなのです。
 ただ……最近私にとって不幸な出来事がありました。
 そう、それは女性の私には到底出来ないもの。
 そしてぜーったいに認めたくないモノ!!

 クリス・レヴァン・ヘラクレス・ブランケル。

 皆様のご存じの通りこのブランカフォルト王国の王であり、私個人としては決して認めたくないのですが、公的にも認められた我が敬愛するアレクサ様の御夫君であり私の永遠の恋敵ライバル

 今でも忘れはしません。
 あれは三年半前の眠り死病スリーピング・デスでの事。
 アレクサ様が第一王子ぺリグレス様の治療を終えたと同時に魔力を枯渇された時――――。
 あいつはそう、クリス・レヴァン・ヘラクレス・ブランケルは丁度っ、まあ本当に偶然なのかそれとも故意なのかっ、アレクサ様が意識を失われた瞬間ぺリグレス様のお部屋に姿を現しましたのっっ。
 そうして倒れかけられたアレクサ様へ誰よりもっ、えぇ私よりも逸早いちはやくお傍に行きあろう事か我が皇女ひめ様のお身体をその汚らわしい腕で抱きとめてしまいましたわっっ!!
 当然私はその場で抗議を致しましたわよ。
 当たり前の事です、私の大切な命よりも大切な御方ですもの。
 な、なのにあいつは〰〰〰〰っっ!?

『我が妃を腕に抱いて何が悪い、侍女のお前に何も言う資格はないだろうそれに――――我が妃の部屋まで華奢なお前がどの様にして安全に彼女を運ぶと言うのだ? 転移魔法を行使するとは言え彼女を抱く事も出来ぬお前に、大切な妃を任せる事は出来ない』
『〰〰〰〰』

 そう言ってアレクサ様を誰よりも大切で愛おしそうな眼差しで見つめると、何も言い返せない私より回復薬ポーションを素早く奪い取り――――っっ!?
 め、目の前でっ、私の目の前であいつは回復薬を一気に飲み干しいいえ口に含むと、あの形の良い艶やかでぷるんとした美味しそうな桜桃さくらんぼの唇へ、自身の唇をそっと重ねたのですっっ。
 唇を重ねた理由は分かりたくないけれど頭ではわかっているのです。
 意識を失われたアレクサ様がご自身で回復薬を飲める訳がないのですから……。
 それに魔力を枯渇されているのです。
 一刻も早く回復薬をアレクサ様にお飲ませするのもわかってい入るのです。
 わかってはいるのですが――――。

 その役目は私が何としてもしたかった〰〰〰〰っっ!!

 あいつもそれがわかっているのでしょう。
 私が侍女と言う御役目以上にアレクサ様へ心酔している事に!!
 だからこそ回復薬をくっ、口移しでアレクサ様へお飲ませした後、あいつは色気駄々漏れでしかも挑戦的な表情で私を見ましたよ。

 !!

 ――――的な表情かおでね。
 おまけに私よりも豊富な魔力を有しているにも拘らずにですっっ。
 アレクサ様を抱いたまま転移魔法を遣わず子供の宮より遠く離れたお部屋まで、ゆっくりとその喜びを噛み締める様に歩いて行きましたわ。
 勿論私もですが護衛の騎士もお傍より離れはしません。
 当然ですもの!!
 でも私もわかっていますの。
 アレクサ様とあいつはいまだに白い結婚。
 最初こそですが私もアレクサ様同様、あいつは女性にだらしのない愚王だと。
 まあアレクサ様は今もそう信じておられますけれどもね。
 ですがこの四年もの間侍女として王宮で動いていればおのずとわかります。
 
 噂はあくまでも噂なのだと。
 そしてあいつはアレクサ様へ懸想している事を……。
 
 でもだからなんなのです。
 色々なしがらみで身動き出来ず、想いを寄せる女性へこれも一種の不実ですよね。
 その点私は一途ですわ。
 絶対にブレたりなんてしません!!
 精々苦しむといいのです。
 私からアレクサ様を奪おうとするのですもの。
 
 あぁ最後に、私の心の中では陛下は……で十分なのですが、これでも私は優秀な侍女なのです。
 声に出す時はちゃんと『』と呼んでいますわよ。
 では、これからも覚悟なさいませ陛下。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

後悔だけでしたらどうぞご自由に

風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。 それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。 本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。 悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ? 帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。 ※R15は保険です。 ※小説家になろうさんでも公開しています。 ※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】ヒロインになれなかった妃の 赤い糸~突然、愛してるなんて言われて、溺愛されるのは、聞いてない!~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
恋愛
子どもの頃に、公爵令嬢アリーチェと第1王子フレデリックは、互いに身分を隠して出会っていた。 リックことフレデリック第1王子は、リーことアリーチェの知性や感性に惹かれ、その場で求婚した。 第1王子は、高い教養を身につけたリーを高位貴族と確信し探し続けたが、リーは一向に見つからない。 リーを見つけたい第1王子は、令嬢を集めて妃試験を始めたが、アリーチェの容姿が様変わりしており、気付けない。 自分がヒロインだと思い込むアリーチェは、それを逆手に取り、2人の初夜に自分がリーであると打ち明けるサプライズを計画。 鬼才なアリーチェは、第1王子へ異常なアプローチを始めるが、その脅威によって第1王子はアリーチェを拒絶。 アリーチェと同様に、天才第1王子も分析力や記憶力などが常識と乖離している。 他の妃候補が脱落する常識外れな妃試験に、自分が拒絶する天才アリーチェのみが残り、この国最大の権力を誇る公爵家のアリーチェと婚約が成立。 アリーチェに逃げ腰の第1王子は、妃と向き合う決意を固める。 だが、それを後妻の王妃(第2王子の実母)とアリーチェの双子の弟が妨害。 王城には、第2王子を王太子に望む王妃がおり、第1王子が公爵家との姻戚によって、王太子になる可能性を恐れた。 その為、偽リーを用意し妨害を企て、失敗すれば第1王子の暗殺を謀った。 第1王子が王妃の罠に翻弄される最中、アリーチェを愛する双子の弟が、姉を取り返すため動きだす。 第1王子は、巧みな妃の弟の話術によって混迷し、王子は妃を、この国を狙う間者だと思いこみ、妃を避けた。 そして弟は、姉が城を飛び出すことを勧める。 王族条例によって、城を飛び出した妃は2度と王子とは会えない、その法律を利用した。 第1王子が妃への愛を確証したときには、弟によって連れさられ、妻はもう城にいなかった。 だが、第1王子は諦められず、妃を取り返す行動に出る。 知能派の弟が巧みに仕掛けた、実の姉の取り返し作戦。 そして公爵家のために必要な後継者問題。 「父上が帰って来る前に、僕は、貴女を抱くつもりだ。父は僕が説得するから、姉上は気にしなくていい」 アリーチェの運命の赤い糸が繋がっているのは……。 赤い糸偏完 天才アリーチェによって、王妃の企てで冤罪を被り幽閉されていた、第1王子の側近を取りもどした。 ただ、王妃の息子ミカエル第2王子は腹黒いことを考えているが、その尻尾を掴ませず追放出来ずにいた。 常識の通用しない危なっかしいアリーチェ妃。 第2王子の危険が残る王城で、彼女を守るために、ライバル同士だったフレデリック王子と弟が協力し合い動きだす。 幸せな3角関係の結末は……。 王太子妃編完

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

【書籍化のため引き下げ予定】どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが? ※書籍化決定のため引き下げ予定です。他サイト様にも投稿しています。

処理中です...