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小話  warm feelings  優しい気持ち

4  女の友情  中篇

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 ベアが行う面接で一番に求めるものは何と言っても――――その一言に尽きる。
 その上にアレクサへの愛情が含まれると尚良い。
 自らの命よりもアレクサを一番と考えているベアだからこそ、面接ではそれが基準となっても問題はない。

 勿論侍女としての能力を満たしているのは当然だ。
 しかし如何いかに侍女としての能力が優れようとも、また生まれ育ちに問題なくとも、そこにアレクサへの絶対的な忠誠心がなければ、ベアは問答無用で失格の判を押す。
 そして見事合格した5人の侍女は残り四日での指導により、よりアレクサの嗜好や癖、性格等を事細かく叩き込まれた。
 そうして迎えた結婚式後に王妃となったアレクサは、新しい侍女と顔合わせをしつつ次の衣装へと着替えていく。

「忙しい思いをさせてごめんなさいね、そしてこれから宜しくお願いしますね」

 アレクサは忙しなく着替えを済ませると、新しく入った侍女1人1人に声を掛けていく。
 そんな優しい心遣いを示すアレクサへ新しく入った侍女だけでなく、今迄仕えている侍女達も益々彼女に惹かれていくのは当たり前だった。
 何故なら普通は侍女として召し抱えられたからと言って、直ぐに主が態々わざわざご丁寧に声を掛けてくる等ずない。
 しかも1人1人丁寧にベール越しとはいえ、ちゃんと目線を合わせアレクサの持つ柔らかで温かいオーラ全開にして声を掛け、そして軽くをしてくるのだ。

 ソレは親愛の情を込めた、その様子はまるで遠くからやって来た友人を労わる様でもあった。
 しかし何度でも言うが普通はあり得ないのだ。
 一般的な貴族でもあり得ないというのに、ましてやアレクサは皇女であり、今はブランカフォルトの王妃となった女性。

 王族らしい傲岸不遜ごうがんふそんな態度等微塵もなく、花でたとえるのであれば凛とした清楚で百合の様な女性。

 そのアレクサを見て何故ベア達古参の侍女があれ程彼女を崇拝しているのかわかる気がするというか、マルタを除く4人の侍女もすっかりアレクサの信望者となっている。
 マルタ自身もジョルジオとクリスの願い通りアレクサの侍女となる前に、彼女について一通り調べはしたのだ。
 それと流石にクリスの、アレクサに対してどの様に深く愛しているのかを事細かく聞かせられ、また秀麗な顔をこれでもかというくらい蕩け切った情けない表情かおとを何時間も強いられ、一体これは何の拷問なのだろうとマルタは心の中で何度舌打ちをしただろう。
 4時間を超えた辺りで宰相のゼノンがクリスの頭を小突かなければ、まだまだエンドレスで続いていたと思うだけで、ぷるりと悪寒めいたものを感じてしまった。

 そんなマルタがアレクサに抱いた第一印象は――――。

 そして披露宴が終わりアレクサが退室し初夜の準備を整えていく。
 明らかに元気のないアレクサとそんな彼女の心をおもんばかる侍女達の何とも言えないどんよりとした雰囲気の中、マルタは1人今宵何もない事を知っていた。
 またクリスが今宵どころか、暫く……アレクサが心を開いてくれるまで彼は待つ心算つもりだという事も知ってはいた。
 何より先にクリスより聞かされていたという事もあるが、マルタ自身の力とも言える『』で既にベッドで1人寂しくというか、どこかほっとした様なアレクサの姿が視えていた。

 だからと言って『』等とは流石にマルタは言えない。
 そう、この先視の力はあくまで周囲には伏せているもの。
 この力でアレクサを危機より回避させる事こそがマルタに与えられた使命でもあるし、また先視の力を持つ者は少ない。
 能力者、先視の力を悪用したいと思う者にとってマルタは格好の餌なのだ。
 マルタ自身の身の安全も図るべく、彼女の力を知る者は限られている。
 ブランカフォルト内ではクリスとゼノンだけ。

 そうしてアレクサがブランカフォルトへ嫁して2ヶ月が過ぎた頃――――。
 新米侍女としての仕事も慣れ、不思議な女性アレクサに仕えてまずまず穏やかな日々を過ごしていたと思った時、それは突然マルタの脳裏に浮かんだビジョン。
 後宮で開かれるお茶会でアレクサの前に出された毒薬入りのお茶から始まり、新調したドレスの筈なのに毒針が混入されているかと思えば、慰問先の病院へ精神病を装いつつアレクサへ近づきナイフで刺し殺そうと企む者。

 はあぁぁぁ、数え上げればきりがない。

 よくもまぁこれだけ色々思いつくものだとマルタは逆に感心してしまうが、どれも全て彼女の先視の力でクリスへ報告し未然に防いできた。
 当のアレクサといえば何も気付いていない様子で、実にのんびりと過ごしていた。
 最初こそアレクサに抱いた第一印象の不思議ちゃんではあったものの、皆がそれ程心を捧げる……確かに優しく温和な女性で素顔も拝見したけれども、確かに年齢よりも可愛らしい御方だが、そんなに心を捧げる程の御方だろうか?

 

 でも実際はかなりの天然で思いっきり鈍感と言ってもいい!!
 18歳のマルタでさえあからさまなアレクサに対するクリスのアプローチは、傍仕えという立場でもはっきり言って赤面もの。
 同じ年のベアはそんなクリスを本気で牽制しているが、当のアレクサには何も伝わっていないところが何とも物悲しい。
 それともある一定の年齢を迎えると、恋や愛等とは無縁になるものなのか……と真剣にマルタは悩みもしたが、次第にわかって来たのはどうやらアレクサの性格とノースウッドの慣習、そしてアレクサの置かれた環境故のものだと納得する。

 まぁ天然級の鈍感は間違いないが……。

 それから4ヶ月程してマルタの視えたものは病で苦しむ光景だった。
 原因不明の流行病、何処から発症して何が原因かいまだわからないとされている恐ろしい眠り死病スリーピング・デス
 その病の中にアレクサがいた。
 いや、彼女が病に侵されている訳ではない。
 恐らく聖魔導師としてその力を以って病と対峙しているのだろう。
 然も愛妾の産んだ子供達をだっっ。

 今は夕暮れ。
 後数時間すれば子供達の母親が子を案じて処罰されるかもしれないというのにも拘らず、アレクサへ懇願しにやってくる。
 そしてアレクサは躊躇う事無く行くだろう。
 マルタの取る行動は速やかにクリスへ報告し、母親達を王宮へ近づかせない様にすればいい。
 警備を強化すれば如何いかに子供が大切とは言っても、一国の王妃であるアレクサを危険な所へ行かせる訳にはいかない。
 ましてマルタの先視の力は数時間前のものしか視えないのだ。
 今は治療を施している姿しか視えないが、この先アレクサが病に罹らないとは断言出来ない。
 それにアレクサを失う事はジョルジオも善しとしないだろう。
 何故ならアレクサはジョルジオの愛した、いや今でも愛しているだろうアルジーが気に掛けていた従妹姫なのだから……。

 そうしてマルタは行動に出るべく何気ない動作で、静かにアレクサの私室より退出しようとした時だった。

「待ってマルタ」
「っ、……な、何か?」
「うん、そうね、いいから直ぐこちらに来て頂戴」
「で、はい、わかりました」

 扉より出ていこうとしたマルタを止めたのは勿論ベア。
 ベアは周りにいた侍女達を自分達の控えの間へと押し込め、そしてマルタへ有無を言わせず隣の寝室へと連れて行こうとする。
 マルタ自身も何時もは誰にも気付かれずに事をなしていたのだが、今日に限って……と思いつつもクリスへ報告するにはまだ時間はあると思い、そのままベアの言う通り寝室へとついていく。
 そして寝室の扉を開ければそこにいたのはアレクサだった。

「ごめんなさいね、貴女の行動を邪魔してしまって……」
「い、いえ一体何の事でしょう」

 マルタは無表情を貫いてはいるものの、実際心の中では盛大に動揺していた。

 バレていない筈?
 そう、今まで何も怪しまれなかったのですものっっ。
 きっとそうよっ、別件でのお呼び出し?
 そもそも私はそんなヘマなんてしたかしら???
 兎に角ここは落ち着い……。

「無駄よ、私はね、を持っているの。勿論半径1mが限界だけれどね、貴女の考えも悪いけれど少し読ませて頂いたわ」
「はい???」

 そうしてアレクサの傍でささやかな胸をつんと張り、腰に手を当て仁王立ちにしているのは当然ベアだ。
 またそのベアを凝視しているのは勿論マルタ。

「ちょっ、ちょっと待って透視ってっっ!?」
「勿論覗き見よ、私は腕力もないし武術が長けている訳でも、魔導が優れている訳でもないの。でも大好きなアレクサ様の為に私の持つ力で少しでもアレクサ様のお役に立ちたいだけ。だから安心して、必要以外覗いたりしないから……」
「覗き見って……」

 シレっとした表情で言うベアに対してマルタは今、一体彼女が何処まで心を読んだのかと心配になった。
 マルタの行動は極秘任務。
 当然アレクサに知られずに動かなければならない。
 なのに、なのに油断してしまったっっ。
 この世界に魔力持ちは多いが、能力持ちは稀少なのだ。
 世の中色んな能力者はいるが、でも滅多に能力者同士遭遇するものではない。
 一つの国に3人いれば多いとさえ言われているからこその油断。
 如何しよう、まだ半年しか経っていないのにこんなに早く正体がバレるなんて!?

 そんなマルタの動揺を察したアレクサは彼女を見てくすくすと笑い出し……。

「ダメよ、ベア。マルタが困っているじゃないの」
「えーアレクサ様ぁ、もうネタばらししちゃうのですか」

 出来ればもう少し楽しみたいとベアは唇を尖らし不平を言う。

「もうこれ以上はダメよ、ほら、マルタの顔色が真っ青だもの。ごめんなさいね、行き成り呼び出して吃驚したわよね」
「あ、い、いえその……っっ」
「いいえ心が動揺していてよ、本当に申し訳なかったわでもね、今貴女が向かおうとしている所へ行って欲しくなかったの」
「そ、それは如何いう意味でしょうか?」
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