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小話  子供の宮が出来た理由

2  狙われた子供達  Ⅱ

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 倒れた第二王女アンティアはまだ生後4ヶ月。
 これまで自身を何とか抑え込んでいたクリスだが、もうこれ以上幼い存在が苦しんでいる姿を見るに堪えられなかった。

「――――陛下お人払いをされませ、これより話しまするのはあくまでもこの侍医に御座いますれば……」

 そんなクリスの様子を見た侍医長は何か意を決した様に重い口を開く。
 それから直ぐにクリスはカッサンドラの寝室より他の王宮侍医や聖魔導師達、また彼女付きの侍女達全てこの部屋より辞するよう命じた。
 最後の侍女が出て言ったのを見届けると、揺るぎのない眼差しで侍医長はいまだ苦悶の表情を浮かべるアンティアを一瞥後、自身の背をスッと伸ばしクリスと向かい合う。
 クリスは目の前に侍医が言うまでもなく、彼が言わんとする事を十分過ぎる程理解していた。 
 だから幼い頃よりクリスを見護り続けていていた侍医より先に、クリスは口を開き言を紡ぐ。

「よい、それ以上何も言わなくても十分だ侍医。ただ俺はまだまだ無力でしかない、傷つけられ、こうして苦しみ弱る子供達を護る手立てがない。せめて子供達だけでも安全に暮らせる場所さえあれば……」
「――――では陛下、こうしては如何いかがでしょうかのう。まぁこれも老いぼれの戯言と思って下されればいい事です。ほれ、この後宮の奥にある塔等如何でしょうなあ。王宮の奥、しかもあそこは警備もしやすい。また子供に用がなければ誰も、特に他所者はず入れないでしょうなぁ」
「子供達……だけの宮か」
「そう、子供達だけ、陛下の信頼のおける者達にお子様のお世話をおさせ致しましょう。我々侍医達もお子さま達のお身体に今以上気をつけましょうぞ」
「そうだな、だがしかしその前に――――っっ!?」

 バタ――――ンっっ。

 クリスは愛妾5号エリアンテ、つまりは第一王女アンティアの母でありこの部屋の所有者の私室に続く扉へ気配を殺したまま近づき、そして取っ手を持つと勢い良く引き寄せた!!

「あっっ!?」

 私室と寝室を隔てる扉の際に立ち、私室側でそっと静かにクリス達の会話を盗み聞きをしていたのだろう。
 その者は急に引き寄せられた扉に驚くと共に、体勢を大きく崩し床へと転倒する。
 そして直ぐに起き上がりその場より離れようと考えたのだが、寸での所でクリスがその腕を掴み逃げ去る事は適わなかった。
 クリスは蚊の者の腕を強く掴んだまま忌々しげに一瞥する。

「まさかな、まさかお前が係わっていようとはな」
「あ、お、お許しを……わ、私は何も……っっ」
「ほう、では何故に扉の前で聞き耳を立てていたのだ、イーデル後宮侍女長」
「へ、陛下っっ!?」
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