アラフォー王妃様に夫の愛は必要ない?

雪乃

文字の大きさ
上 下
10 / 39
第一話  白い結婚と眠り死病

7  大陸一の聖魔導師VS眠り死病  Ⅱ

しおりを挟む


 病に倒れた子供達は二階にあるそれぞれの寝室で、安らかな表情かおで眠っていた。
 その姿、表情は言うなればお昼寝をしているかの様で、優しい声で声を掛ければ『母さまぁ』と笑顔で何時起きても可笑しくないくらいに愛くるしい。

 眠り死病スリーピング・デスとはよく言ったもの。

 その寝顔はどう見ても死にゆく者のそれではない。
 だが確実に目の前で眠っている子供は、刻一刻と死へ向かっているのが現実。
 その恐ろしい現実にアレクサの身体は思わずぷるりと震え、そうして無意識に両手で自身の腕をぎゅっと抱きしめる。
 そこへ宮の誰かが知らせたのだろうか。
 子供達を見ていた侍医がここにいる筈のないアレクサ達を見つけると共に驚愕の色を隠せないでいた。
 やり場のない思いを表すかのように、ガシガシと短い白髪頭を掻きながら、湧き上がる怒りを隠さずアレクサへと詰め寄りそして――――。

「陛下っ、何故この宮へいらっしゃったのですっ、ここは既に病に侵された場所、死に逝く者達がいる場所ですぞっっ!! それにしてもニコレッタ様方も如何どうしてっ、何故王妃陛下をここへお連れしたのです!!」
「侍医長……」
「先生……王妃様には大変申し訳なく思っておりますがっ、わ、私達には如何してもっ、何があっても子供達を、ヨルゴスを……ぺリグレス達を見殺しには出来なかったのですっっ」
「……だからと言って如何して、いやいや理由はわからなくもないですがの、しかしじゃ……が、国王陛下はこの事をお知りになってはいないでしょうな。お知りになっておられたらこの様な暴挙を何があってもお止になる筈。さぁ王妃様今からでも遅くはないでしょう、一刻も早くこの場よりお出になって下され。そして御安静に……」
「先生っ、それではっっ!!」
「カッサンドラ様、この事に王妃様を巻き込んではいけません。王妃様はいずれこのブランカフォルトの国母となられるべき御方ですぞ。それをこの様な病に侵されている所へお連れする等もってのほかですぞっっ。この事が国王陛下のお耳に入らば、逆族と問われても申し開きも出来ませぬぞ。さぁ陛下もこの侍医の進言を受け入れられませ。そして直ぐにでもここから――――」

 侍医長はそう言いつつアレクサの後ろで控えているベア(結局ベアも心配だと言って押し入ってきたらしい)へ視線を向けるがしかし……。

「侍医長、私はここへ物見遊山に来た訳ではありませんわ」
「勿論存じております、陛下が素晴らしい聖魔導師である事もしかし……」
「わかっていらっしゃるならば、どうぞこれから私がする行動について何も申さないで下さいな」
「し、しかし〰〰〰〰」
「私は王妃である前に聖魔導師なのです。病める者、救いを求める者がいるならば、私はどの様な所へも進んで赴きます、それが聖魔導師としての私の務めなのです」
「し、しかし……ですが、国王陛下がこの事実をお知りになられれば――――」
「国王陛下? それがどの様な障害になると? 陛下には私がおらずとも愛妾が他にも数多おられるでしょう。それに私と陛下との間は……」
「白い結婚だと、勿論存じております」
「でしょう、だから私の事はどうか心配しないで、それよりも子供達の事が心配です。さぁ一刻も早く治療をしなければいけませんわね、この病は時間が勝負ですもの」

 そうしてアレクサは愛おしげに第二王子ヨルゴスの頬へそっと触れる。

 大丈夫よ、きっと私が死の病から助け出しますからね!!

「本当に仕方ありませんな王妃様、ですが必ず約束して下され、無理はしないで頂きたい!! 王妃様に万が一の事があれば陛下が悲しまれますぞ。侍医の首一つだけでは陛下の怒りは収まりませんからな」
「あら、条約は締結されたでしょう。だから私に万が一の事が起こっても陛下はお悲しみになられなくってよ。それよりも貴方こそよ侍医長、貴方は陛下が一番信頼のおかれている陛下の主治医なのに如何してここへ?」
「ふぉ、ふぉ、陛下とて人の子で御座いますよ。幼い王子様方がご心配なのでしょう、それに私も長く生きております故、こういう場所へは若者よりも死の近い年寄りが行くモノですぞ」
「まあ、貴方に何かあれば陛下をお支えする方がいなくなるのでは?」
「王妃様程陛下にとって大切な御方はおられませんぞ」
「ふふふ、お言葉がお上手です事。そうですね、皆で元気にならなければいけませんね」
 
 その言葉を聞いた母親達は安心して各々おのおのの子供達の許へと散っていく。
 ずアレクサはベアと共に侍医長より病状の説明を受けると、体力のない赤子である第二王子のヨルゴスと第二王女のディアンサを同時に治療する事としたのであった。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...