49 / 75
第三章 もう一つの春
12
しおりを挟む
「龍に七海までっっ⁉」
突如現れた二人の存在に驚きを隠せないのは柾と周平の二人。
でもそんな二人に構う事なく龍太郎と七海は普通に部屋の中へと入っていく。
「芝居をするにしても先生と柾の二人だけでは役者は足りないでしょう」
「う……む確かに」
唸り声をあげたのは周平だ。
確かに指摘される通り美琴へ完璧に柾の病気を隠すならば役者は多い方がいい。
そしてその役者となるには確実に秘密を保持出来る者達でなければいけない。
「君達は今ここへ勤めているんだろう? 病気の柾と違い君達には仕事が、多くの患者さんが待っているだろう」
周平の至極真っ当な返しを受けた二人だが……。
「「問題はありません」」
綺麗に声を揃えて即座に否定した。
「いや問題はって……」
「先生、私は二ヶ月前既に帰国をする旨を病院側へ伝えております。私の関わった患者さんへの引継ぎはとっくにもう終えているんです。後は柾と一緒に帰国するだけですよ」
そう明るく答えたのは七海だった。
「それに……美琴ちゃんを騙すのならば女の私がいた方がいいでしょ。立場的にはそうですね、柾の恋人……若しくは婚約者として柾の傍にいれば流石に美琴ちゃんも容易には近づけないでしょう。そしてもう一つは美琴ちゃんに柾への恋心をも同時に諦めさせる事も出来る筈です。余り言いたくはありませんが柾が死んでからではなく生きている間に、美琴ちゃんが柾の死後ちゃんと前を向いて歩いていけるようにする為にも私と言うスケープゴードの存在は必要不可欠だと思います」
「七海……」
何時もよりも一層爽やかに、また清々しく言い放つその言葉の奥底には何が何でも譲らないと決意の漲った言葉でもあった。
「してそこに何のメリットがあるのかな。い、いや君の申し出はとても……そう柾の叔父……いや父親代わり……代わりはしてこの際もうどうでいいな。うん父親としてまた一人の医師として君の、七海君の意思は正直に言ってとても嬉しいものだがそこに君へのメリットは何も……ただの友情で仕事や君の大切な時間を奪うだけの理由にはならないだろう」
周平の言う事は至極最もで、これには柾もしっかりと……いやいや激しく同意した。
確かに心を許した友人には違いない。
そう違いはないけれども……。
「メリットなら十分ありますよ」
「それは何かな?」
ゆっくりと七海は、そして愛おし気に柾を見つめ……。
「私は柾を愛しているんです。ええ勿論これは私の、私だけの片思いでしかないんです。そしてこの役を演じるからと言って柾からの愛を無理に強請ろうなんて事を思っては……まあぶっちゃけて言えば少しは私の事を想ってくれると嬉しいかな~って気持ちはなくもないです。でも私の気持ちを柾へ押し付けるなんて事はしませんよ。柾がどれ程深く美琴ちゃんを愛しているかなんて、それはもう大学時代からずーっと毎日聞かされていましたし、私の想いはきっと柾へ永遠に届く事はないって何処か諦めてもいましたもん。でも、それでもいいんです。譬え愛されなくても形だけでもいい、柾の恋人若しくは婚約者として少しでも傍に居られれば私にとってこれ以上ないくらい幸せな事なんです。だから私に言わせればこれはまたとないメリットありまくりのものなんですよ先生」
「七海……」
「ふふ、到頭言っちゃった。ずーっと言葉にする心算なんてなかったのにね。でも言葉にして言えるのってとっても気持ちいいものなのね。然も公開処刑並みの告白だよ。あぁ龍だけでもすっごく恥ずかしいのにっ、まさかの周平先生の前で告るなんてっ、ついさっきまで想像だにもしなかったわよっっ。うぅっ、思い出しただけでも物凄~く恥ずかしいわっっ。うん、今なら羞恥心で十分死ねるしっ、もう顔と言うか身体中が熱いわよ〰〰〰〰っっ」
七海は笑顔でそう言うと両手でパタパタと自身の顔を扇いでいる。
「七海らしいな」
「ごめん七海……」
ぶふぉと噴き出す龍太郎と七海の優しさに謝らずにはいられない柾に対し七海は龍太郎へは思いっきりデコピンをし、柾には彼の頬をふにっと軽く掴んだ。
不公平だと不服を唱える龍太郎へ七海は――――。
「決まっているじゃない。そんなもの愛情の差よ、差っっ」
龍太郎へ即座に言い返すと次に七海は柾へはっきりと言ったのだ。
「柾は謝らなくていいの。これは私自ら望んだ事よ。私は昔も今も貴方の事を愛している。でもあなたからの愛を強請っている訳じゃあないの。ただお願いだから貴方の最期の瞬間まで最期私を傍に居させて。私はそれだけで十分幸せで、その思い出があればこれから先を生きていけるからっ、だから柾の我儘ではなく私の我儘に少しだけ付き合ってよ。ね、お願い」
「七海それでも僕は……」
「それ以上言わないで。心は皆自由なの。誰を想おうと嫌いであろうが嫌いであろうそれは皆自由なのよ。貴方は最期まで美琴ちゃんを想えばいいし私は貴方を想うだけ。それにね、これ以上ごめんとか言わないでくれる?」
「え、でも……」
「でもじゃあないってっっ。これ以上謝られればその分私の想いを否定されるようで嫌なの。そこは大好きな柾でも許せない。誰にも貴方を想う私の心を否定なんてさせないんだから……ね」
最後はほんの少し目尻に涙滲じませながら七海は言葉を発した。
突如現れた二人の存在に驚きを隠せないのは柾と周平の二人。
でもそんな二人に構う事なく龍太郎と七海は普通に部屋の中へと入っていく。
「芝居をするにしても先生と柾の二人だけでは役者は足りないでしょう」
「う……む確かに」
唸り声をあげたのは周平だ。
確かに指摘される通り美琴へ完璧に柾の病気を隠すならば役者は多い方がいい。
そしてその役者となるには確実に秘密を保持出来る者達でなければいけない。
「君達は今ここへ勤めているんだろう? 病気の柾と違い君達には仕事が、多くの患者さんが待っているだろう」
周平の至極真っ当な返しを受けた二人だが……。
「「問題はありません」」
綺麗に声を揃えて即座に否定した。
「いや問題はって……」
「先生、私は二ヶ月前既に帰国をする旨を病院側へ伝えております。私の関わった患者さんへの引継ぎはとっくにもう終えているんです。後は柾と一緒に帰国するだけですよ」
そう明るく答えたのは七海だった。
「それに……美琴ちゃんを騙すのならば女の私がいた方がいいでしょ。立場的にはそうですね、柾の恋人……若しくは婚約者として柾の傍にいれば流石に美琴ちゃんも容易には近づけないでしょう。そしてもう一つは美琴ちゃんに柾への恋心をも同時に諦めさせる事も出来る筈です。余り言いたくはありませんが柾が死んでからではなく生きている間に、美琴ちゃんが柾の死後ちゃんと前を向いて歩いていけるようにする為にも私と言うスケープゴードの存在は必要不可欠だと思います」
「七海……」
何時もよりも一層爽やかに、また清々しく言い放つその言葉の奥底には何が何でも譲らないと決意の漲った言葉でもあった。
「してそこに何のメリットがあるのかな。い、いや君の申し出はとても……そう柾の叔父……いや父親代わり……代わりはしてこの際もうどうでいいな。うん父親としてまた一人の医師として君の、七海君の意思は正直に言ってとても嬉しいものだがそこに君へのメリットは何も……ただの友情で仕事や君の大切な時間を奪うだけの理由にはならないだろう」
周平の言う事は至極最もで、これには柾もしっかりと……いやいや激しく同意した。
確かに心を許した友人には違いない。
そう違いはないけれども……。
「メリットなら十分ありますよ」
「それは何かな?」
ゆっくりと七海は、そして愛おし気に柾を見つめ……。
「私は柾を愛しているんです。ええ勿論これは私の、私だけの片思いでしかないんです。そしてこの役を演じるからと言って柾からの愛を無理に強請ろうなんて事を思っては……まあぶっちゃけて言えば少しは私の事を想ってくれると嬉しいかな~って気持ちはなくもないです。でも私の気持ちを柾へ押し付けるなんて事はしませんよ。柾がどれ程深く美琴ちゃんを愛しているかなんて、それはもう大学時代からずーっと毎日聞かされていましたし、私の想いはきっと柾へ永遠に届く事はないって何処か諦めてもいましたもん。でも、それでもいいんです。譬え愛されなくても形だけでもいい、柾の恋人若しくは婚約者として少しでも傍に居られれば私にとってこれ以上ないくらい幸せな事なんです。だから私に言わせればこれはまたとないメリットありまくりのものなんですよ先生」
「七海……」
「ふふ、到頭言っちゃった。ずーっと言葉にする心算なんてなかったのにね。でも言葉にして言えるのってとっても気持ちいいものなのね。然も公開処刑並みの告白だよ。あぁ龍だけでもすっごく恥ずかしいのにっ、まさかの周平先生の前で告るなんてっ、ついさっきまで想像だにもしなかったわよっっ。うぅっ、思い出しただけでも物凄~く恥ずかしいわっっ。うん、今なら羞恥心で十分死ねるしっ、もう顔と言うか身体中が熱いわよ〰〰〰〰っっ」
七海は笑顔でそう言うと両手でパタパタと自身の顔を扇いでいる。
「七海らしいな」
「ごめん七海……」
ぶふぉと噴き出す龍太郎と七海の優しさに謝らずにはいられない柾に対し七海は龍太郎へは思いっきりデコピンをし、柾には彼の頬をふにっと軽く掴んだ。
不公平だと不服を唱える龍太郎へ七海は――――。
「決まっているじゃない。そんなもの愛情の差よ、差っっ」
龍太郎へ即座に言い返すと次に七海は柾へはっきりと言ったのだ。
「柾は謝らなくていいの。これは私自ら望んだ事よ。私は昔も今も貴方の事を愛している。でもあなたからの愛を強請っている訳じゃあないの。ただお願いだから貴方の最期の瞬間まで最期私を傍に居させて。私はそれだけで十分幸せで、その思い出があればこれから先を生きていけるからっ、だから柾の我儘ではなく私の我儘に少しだけ付き合ってよ。ね、お願い」
「七海それでも僕は……」
「それ以上言わないで。心は皆自由なの。誰を想おうと嫌いであろうが嫌いであろうそれは皆自由なのよ。貴方は最期まで美琴ちゃんを想えばいいし私は貴方を想うだけ。それにね、これ以上ごめんとか言わないでくれる?」
「え、でも……」
「でもじゃあないってっっ。これ以上謝られればその分私の想いを否定されるようで嫌なの。そこは大好きな柾でも許せない。誰にも貴方を想う私の心を否定なんてさせないんだから……ね」
最後はほんの少し目尻に涙滲じませながら七海は言葉を発した。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる