29 / 75
第二章 はじまりは春
18 美琴Side
しおりを挟む
「ねえ美琴、私がどうして美琴と話をしたいのかがわかるかい?」
柾兄とはまた違う優しい声音だけど、でもその中に一本のしっかりとした筋の通った話し方。
それが何時ものパパの話し方。
どんな時でも、また年齢なんて関係なく、相手に対し常に敬意を払いつつも相手の話をよく聞いて尚且つ自身の意見もちゃんと伝える。
そう絶対に自分の意見を押し付ける事はなく、相手との妥協点を会話の中で必ず見つけていく。
これは私が物心つく頃からのパパの話し方。
だから今夜もそうなるのだと思っていた……。
「う、はい……パパの言いたい事はわかる……でもっっ」
「美琴はちゃんとパパの言いたい事を理解出来る娘だと、私は何時も思っているし美琴を誰よりも……あぁママは、琴奈さんは別格だよ。彼女は今現在進行形で私の最愛の女性だからね」
「は、はあ……」
亡くなったとは言え、現在進行形で両親がラブラブなのは娘として素直に喜んでいいものなのだろうか。
ママが亡くなってもう五年、それともまだ五年……兎に角パパの中では今もママはあの頃と寸分違わないんだろうな。
48歳の男盛りでもあるパパは未だ再婚する様子もなし……か。
まあそれはわからないでもないか。
私も柾兄の、柾兄と七海さんの婚約を知らされても、まだまだ諦められないでいる――――ってよく考えなくともまだ二日しか経っていないんだっけ。
パパとママの純愛には私の恋なんて、まだまだ足元にも及ばないって事?
いやいや私の柾兄への気持ちはちゃんと年季が入っているしっ、それに柾兄を誰にも……譬え婚約者の七海さんだって渡したくないのは本心であって――――。
「聞いているの美琴?」
「あ、うんちゃんと聞いているよ。七海さんへの暴言は悪かったと思ってるけどっっ」
「けどやないだろう。七海さんは柾の婚約者であってもう他人やない」
他人やない?
パパより発せられた言葉によって更に奈落へと、私の心は最早底なしの漆黒の沼へと何処までも堕ちていく。
「そ、そないにはっきり言わんでもいいやないっっ。第一私はまだそんなん認めてへんもん!!」
興奮しようとする私へパパはふぅ……と深い溜息を洩らせば、そのまま私の顔を何とも言えない表情で見つめた。
「なんや、柾の結婚には美琴の同意がなくては出来ひんのか?」
「そ、そないな事なんて言うてへんやんっっ」
「しかし美琴の言っている事はそう言うもんなんやろ」
「そうかてパパはいいん? 柾兄がパパの跡を継がんでもいいの? うちはずっと朝比奈の人間が院長や理事長をしていたんとちゃうの? なのに一昨日柾兄は――――っっ⁉」
し、しまったっっ⁉
言わんでもええ事を口走ってどうするん私っておバカなん?
ど、どうかパパが聞き逃してくれますよう――――。
「別に朝比奈の人間が継がなあかん訳でもない。ただ偶然朝比奈の人間が理事長を務めていたに過ぎひんだけや。だから柾やのうても優秀な医者で病院を上手く経営し、病院の理念を穢さん者やったら誰でもええ。それこそ片岡君でも……」
「パパっっ⁉」
私は思わず声を大にして叫んでいた。
だってこのままじゃあ一昨日の柾兄の宣言通りになってしまうと、私の第六感が声を大にして叫んでいたから……。
でもパパはそんな私の心情をわかっているのか、はたまた気づかない振りをしているのかなんてこの時の私には想像も出来なかった。
そのくらい私の心はギリギリに追い詰められていると言ってもいい。
「もう少し声のトーンを落としなさい。向こうでは皆寛いでいる筈だろう。美琴、今夜のお前の態度はもう直ぐ成人を迎える人間として決して褒められたものやあない」
「そ、それは十分わかっているけどでもっっ」
私は必死で訴えたかった。
キッチンは私とママだけの神聖な場所なんだとっ、だから決して他人様に踏み込んで欲しくはないのだとっ、確かに大声を上げたのは悪いと反省はしているけれどもっ、だけど最初にルールを破ったのは七海さんだとっ、話せばパパだったらわかってもらえると思ったのに、どうやらそれは私の思い込みに過ぎなかったみたい。
*この親子は感情が高まるとこてっこての京都弁……まあ関西弁に戻ります。
柾兄とはまた違う優しい声音だけど、でもその中に一本のしっかりとした筋の通った話し方。
それが何時ものパパの話し方。
どんな時でも、また年齢なんて関係なく、相手に対し常に敬意を払いつつも相手の話をよく聞いて尚且つ自身の意見もちゃんと伝える。
そう絶対に自分の意見を押し付ける事はなく、相手との妥協点を会話の中で必ず見つけていく。
これは私が物心つく頃からのパパの話し方。
だから今夜もそうなるのだと思っていた……。
「う、はい……パパの言いたい事はわかる……でもっっ」
「美琴はちゃんとパパの言いたい事を理解出来る娘だと、私は何時も思っているし美琴を誰よりも……あぁママは、琴奈さんは別格だよ。彼女は今現在進行形で私の最愛の女性だからね」
「は、はあ……」
亡くなったとは言え、現在進行形で両親がラブラブなのは娘として素直に喜んでいいものなのだろうか。
ママが亡くなってもう五年、それともまだ五年……兎に角パパの中では今もママはあの頃と寸分違わないんだろうな。
48歳の男盛りでもあるパパは未だ再婚する様子もなし……か。
まあそれはわからないでもないか。
私も柾兄の、柾兄と七海さんの婚約を知らされても、まだまだ諦められないでいる――――ってよく考えなくともまだ二日しか経っていないんだっけ。
パパとママの純愛には私の恋なんて、まだまだ足元にも及ばないって事?
いやいや私の柾兄への気持ちはちゃんと年季が入っているしっ、それに柾兄を誰にも……譬え婚約者の七海さんだって渡したくないのは本心であって――――。
「聞いているの美琴?」
「あ、うんちゃんと聞いているよ。七海さんへの暴言は悪かったと思ってるけどっっ」
「けどやないだろう。七海さんは柾の婚約者であってもう他人やない」
他人やない?
パパより発せられた言葉によって更に奈落へと、私の心は最早底なしの漆黒の沼へと何処までも堕ちていく。
「そ、そないにはっきり言わんでもいいやないっっ。第一私はまだそんなん認めてへんもん!!」
興奮しようとする私へパパはふぅ……と深い溜息を洩らせば、そのまま私の顔を何とも言えない表情で見つめた。
「なんや、柾の結婚には美琴の同意がなくては出来ひんのか?」
「そ、そないな事なんて言うてへんやんっっ」
「しかし美琴の言っている事はそう言うもんなんやろ」
「そうかてパパはいいん? 柾兄がパパの跡を継がんでもいいの? うちはずっと朝比奈の人間が院長や理事長をしていたんとちゃうの? なのに一昨日柾兄は――――っっ⁉」
し、しまったっっ⁉
言わんでもええ事を口走ってどうするん私っておバカなん?
ど、どうかパパが聞き逃してくれますよう――――。
「別に朝比奈の人間が継がなあかん訳でもない。ただ偶然朝比奈の人間が理事長を務めていたに過ぎひんだけや。だから柾やのうても優秀な医者で病院を上手く経営し、病院の理念を穢さん者やったら誰でもええ。それこそ片岡君でも……」
「パパっっ⁉」
私は思わず声を大にして叫んでいた。
だってこのままじゃあ一昨日の柾兄の宣言通りになってしまうと、私の第六感が声を大にして叫んでいたから……。
でもパパはそんな私の心情をわかっているのか、はたまた気づかない振りをしているのかなんてこの時の私には想像も出来なかった。
そのくらい私の心はギリギリに追い詰められていると言ってもいい。
「もう少し声のトーンを落としなさい。向こうでは皆寛いでいる筈だろう。美琴、今夜のお前の態度はもう直ぐ成人を迎える人間として決して褒められたものやあない」
「そ、それは十分わかっているけどでもっっ」
私は必死で訴えたかった。
キッチンは私とママだけの神聖な場所なんだとっ、だから決して他人様に踏み込んで欲しくはないのだとっ、確かに大声を上げたのは悪いと反省はしているけれどもっ、だけど最初にルールを破ったのは七海さんだとっ、話せばパパだったらわかってもらえると思ったのに、どうやらそれは私の思い込みに過ぎなかったみたい。
*この親子は感情が高まるとこてっこての京都弁……まあ関西弁に戻ります。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
【完結】雨上がり、後悔を抱く
私雨
ライト文芸
夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。
雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。
雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。
『信じる』彼と『信じない』彼女――
果たして、誰が正しいのだろうか……?
これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。
私の主治医さん - 二人と一匹物語 -
鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。
【本編完結】【小話】
※小説家になろうでも公開中※
『 ゆりかご 』
設樂理沙
ライト文芸
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -
設樂理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで
Another Storyを考えてみました。
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる