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第一章 回想
8 柾Side
しおりを挟む夜通し救急と急患が切れる事なく午前の外来の診察時間まで突入し、今漸く途中で交代して貰いほぼ不眠不休で疲れ切った身体へ喝を入れるべく、熱めのシャワーを浴びると母が用意してくれただろうブラックフォーマルへと素早く着替え葬儀会場でもある美琴の家へと赴くが、流石に今からでは奥には入りずらい。
何故なら告別式の予定の時間は中程まで過ぎていたからだ。
今更親族だからと言って堂々と親族席へ――――と言うのも座り難い。
だが敬愛する叔母琴ちゃんの最期のイベントだ。
出席しない理由はないし、それに何と言っても美琴の事が心配だ。
今日で三日も会ってないな、我が従妹姫とは……。
確かにこの十三年間、三日どころか一週間以上会わない時もあったけれどあの時はまだ、そう何と言うのか大丈夫なんて理屈じゃない不思議な感覚があった。
だが今は違う、具体的に何が……という訳ではないんだ。
ただ、今は何故か無性に美琴の傍にいなければいけないという気持ちが先走り、気持ちだけはめっちゃ焦っても仕事が立て込み一方で身体は思うように自由にはならない。
可笑しいな、恋人でも何でもないただの従妹なんだ。
それも美琴の生まれた瞬間から何時も傍にいて、彼女のオムツを変えた事もあるしミルクだって飲ませてもいた。
何時も後ろからついてきた可愛い妹の様な存在。
然も12歳も年下で――――。
何て表情をしているんだ美琴っっ!?
そう、玄関から回って庭に設けられた場所で焼香を済ませ、ふと親族席へと視線を向けた瞬間――――!?
琴ちゃんの傍で抜け殻となり果てている周平叔父さんは想定内だ。
その叔父さんに代わって喪主代理となっている母も勿論想定内。
だがっ、その隅っこで涙一つ流さず、いや余りの喪失感で感情を表に出す事も出来ずにいる美琴の表情には全く光や感情もなく、ただその場で静かに、その存在を消し去る様に座っていたっっ。
まだ13歳の幼い少女は一人で、たった一人で母親と言う大きな存在を失った悲しみを誰にぶちまける訳でもなく、小さな身体でいじらしいくらいにじっと秘かに耐えていた。
その証拠に僕と目を合わせても気付いているのかはたまた心を閉ざしているが故に気付けないのか、彼女からは全くの無反応。
そしてその痛ましい様子がなんとも僕の心を大きく揺さぶられてしまう。
何故こんなに打ちひしがれてしまう状態にまで僕は美琴を放っておいたのだろう。
何故憔悴しきった美琴を何故誰も気づかないんだ!!
どうして……あぁ、そうだ。
美琴だけじゃあなく周りの大人達も琴ちゃんと言う大きな存在をを失った悲しみに呑まれてしまっているからなのか。
皆自分達の気持ちだけで精一杯なのだ。
それ程に、琴ちゃんと言う太陽の存在は大きかったんだ。
美琴の、幼子の悲しみさえも気づけない程に……。
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