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第一章 回想
4 美琴Side Ⅳ
しおりを挟むママは何時もよりも白っぽい……何かが抜け落ちた様な顔色で、明らかに何時もの元気なママの顔色でない事が分かる。
だけどその表情は綺麗で安らか……そう静かに眠っている様だった。
きっともうちょっとしたら時々お昼寝をするママが『ごめんごめん、寝過ごしちゃったー』って何時もみたいに笑って起きてくるんだと思えるけれども――――っっ⁉
「綺麗だろ琴奈さん、本当に何時も寝ているみたいに綺麗だろ? ちょっと頭の打ちどころが悪くてね、病院へ、私の許へ搬送された時には――――もう亡くなっていたんだよ。私はまだ……まだ、美琴も琴奈さんももっとめっちゃ愛していたかったんやっっ!! 琴奈さん酷いよ、あれ程私を置いて行かないでって言ったのに〰〰〰〰。ま、まだ、俺はっ、琴奈と離れたないって言ってるやろうがっっ!!」
「パパ……」
「ごめ、美琴、ごめん、でもっ、でもパパにはママがっ、琴奈がもういいひんなんて考えられへんのやっっ」
何時も100wの電球と言うか、LEDも真っ青になるくらい明るいパパとママ。
娘の私の目から見てもラブラブな二人だった。
10歳年上の姉さん女房だったママだけれど、パパにだけは特別に可愛く甘えていた。
パパもママに甘えていたし、勿論カッコいいトコもいっぱいある……。
どんなに大変な時でも冷静で腕のいいお医者さんで、自信満々だったり家族を目一杯愛して笑顔しか、そうパパとママの笑顔しか私は知らへんのに、何でかな……今はその笑顔が上手く思い出せへん。
ママの身体をこれでもかと強く抱き締めてパパは誰に憚る事なく泣いている。
抱き締めて近くにいる美咲伯母さんも涙を浮かべて近くに泣いていた。
私は黙ったまま泣いているパパの背中をそっと抱き締める。
「パパ、美琴がいるよ。ずっと美琴が傍にいるからね……」
「うんうんありが……とう、美琴。ごめんな泣き虫のパパで……」
「ううん、パパはママの事世界で一番愛しているんやもん。せやから大丈夫やで……」
そうしてパパは何時までもママに語りかけながら泣いていた。
それから暫くしてママは皆に見送られながら直ぐそこにある自宅へと帰ってきた。
お葬式屋さんが来てもパパが使い物にならへんから代わりに美咲伯母さんが仕切ってくれて、お仕事は柾兄や他の先生方が頑張ってくれて、看護師さんも事務のお姉さんやお兄さんも兎に角皆がいっぱい助けてくれた。
そうこうしていると眞凛が置いてきてしまった鞄を持ってきてくれて、ママに会ってパパと一緒に泣いてくれた。
「親友やから、うちらはずっと親友やから、何でもちゃんと言ちゃんとうんやで。な、何でも聞いてあげるんやからっっ」
そう言って眞凛は私を抱きしめてわんわん泣いてくれた。
だけど私はただうんうんと頷くだけ……。
お通夜が始まって色んな人が来てくれた。
中には病院の患者さんまで来てくれたとか。
私は制服のまま訳もわからず来る人ごとにお礼を言う。
そんな私を心配して美咲伯母さんは『子供はちゃんと寝なさい、琴ちゃんは私達でちゃんと見守っているからね』って言ってくれたけれど用意してくれたご飯は食べたくないし、お風呂も入りたくない。
勿論ベッドへ横になって寝る事も出来ない……。
柾兄もこういう時に限って大変そうだ。
ほら、窓を見ると救急車がよく入ってきている。
さっきも部屋へ戻る前に柾兄から美咲伯母さんへ戻れそうもないって連絡がきていたっけ。
私は何もする事もなくベッドに座ってぼんやりと、ただぼんやり何もする事もなく宙を見ていた。
ママがもういないと言うのになんでかな……私は皆の様に泣く事も叫ぶ事も何も出来ない。
喉の奥で何か大きなモノがつっかえて、声を出すのも水を飲み込むのもめっちゃ辛い。
おまけにそれが心の中で大きな蓋となって泣く事すら出来ない。
ママはもう何処にもいない。
正確には身体は明日までこの家にあるけれども心は、魂はもうこの世界の何処にもいない。
大好きなママ。
身体が大きくてモデルみたいな美人じゃないけれども、お料理が上手で、笑顔が素敵で、ママがいるだけで皆が安心出来る世界一素敵なママ。
パパが忙しくてママ家にいなくてもママがいてくれたから、ママが何時も笑っているのが当たり前だった……なのにっ、なのにどうしてもうママがいないの!?
それにどうしてパパそれにと同じように悲しいのに私は泣けへんの!?
心の中では泣いているのにどうして???
ねぇ柾兄……美琴は心が痛くて死んじゃいそう……だよ。
助けて……。
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