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番外編
番外編 アイザックの苦い過去 22
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現ルガート王そして王太子ラファエルの父でもあるエンジュは、幼い頃より既に宰相であり外祖父でもあるこのマリス侯爵の圧倒的な権力を前に長年逆らう事が出来なかった。
そしてそれはエンジュの父も同様であったらしい。
マリス侯爵よりも高位で名門貴族は要るにも関わらずだっっ。
その名門貴族筆頭がミドルトン公爵家。
彼の公爵家は圧倒的な力と財力を誇っていても未だルガート王へ膝を折り心よりの忠誠を誓う事はない。
表面上は自国の王への礼儀は尽くしている……が、元々彼の家の者には権力への執着があまりないと言った方がいい。
慾に塗れず自領を公平に統治し、また下位の貴族にも傲慢な態度ではなくどの貴族に対してもわけ隔てなく接していた事により人望も厚かったのだ。
だからそんな筆頭公爵家が何も行動を起こさずその状況を静観しているの見た他の貴族達もそれに倣ったのだ。
そう、彼の公爵が静観しているから他の貴族達もそれに倣ったが為にマリス侯爵の暴挙は今日まで続いたのかもしれない。
そう多分それだけが理由ではないにしろ侯爵の暴挙を増長させる一因にはなった筈だ……。
若かりし時のマリス侯爵は自身の娘が偶然エンジュの父と恋仲となり、そして王妃となった事により宰相の椅子も同時に手に入れた。
そうして王妃が無事に王子を出産し孫となる王子を可愛いと思う事もなく、ただ彼にとって娘や孫も自身がこの国で権力を掌握する為の道具に過ぎなかったのだ。
そしてシャロンとも麻薬密売という繋がりを持つ事で潤沢な資金も持つ事が出来た。
マリス侯爵にとってシャロンは表向きは敵だが、裏では仲の良い隣人なのだ。
何もその昔シャロンより独立したからと言って離れても尚シャロンに忠義を誓っている訳でもない。
マリス侯爵は純粋にシャロンと裏取引する関係だけなのである。
まぁ利用出来るものは最大限利用するのだがそれはシャロンも同意で然も彼らにとってもマリス侯爵を利用しているのに過ぎないのだ。
言い換えれば持ちつ持たれつと言った関係なのである。
過去何度も起こったシャロンとの戦も全てとは言わないがマリス侯爵はシャロンと関与し、シャロンの益になる様に取り計らってもいた。
だがそれは言いかえれば侯爵の益にも繋がるのだ。
勿論そんな謀に不審を持つ者は何度となく現れるのだが、それこそ侯爵はシャロンの兇者を使って暗に口封じをしてきた。
その点ではシャロンはとてもいい仕事をしていたと言ってもいい。
またシャロンもそんなマリス侯爵を使ってルガート国内でのマーケットを確実に広げていったのだ。
そんな外祖父であるマリス侯爵はエンジュを可愛がったのは表面的な事。
それは幼いエンジュにも肌で感じてわかった事だ。
侯爵が彼の幼い頃より手懐け様としていた事を……。
エンジュはそんな侯爵が大嫌いだった……が、まだまだ政情の落ち着かない新興国なのだ。
どんなに嫌いな外祖父で宰相として父を支えていただけに表面上だけでも繕わなければいけない。
そう、そんなエンジュが10歳の頃縁談が持ち上がったのだ。
相手は東の隣国蒼弓国の第一皇女。
そしてその縁談を纏め様とするのは勿論マリス侯爵だ。
王族の婚姻なのだから国同士の利益だけの為であってそこに感情は含まれてはいない。
エンジュもそれは幼いながらに理解していた。
だがっ、如何しても彼はこの婚姻を受け入れたくはなかったのだ。
自分の結婚までこの外祖父に決められたくなかったのだっっ。
他の事は何でもいい。
せめて自身の伴侶だけはマリス侯爵の思い通りになりたくなかった。
そう、それは彼にとって初めて外祖父でもあるマリス侯爵への反抗だった。
数年後父王へ願い出てブレーメンタール公爵の令嬢であるキャロラインと婚約を交わした時のマリス侯爵は、祝いの言葉を言う態度とは裏腹に実に忌々しいといった表情で微笑ましいエンジュとキャロラインを不躾にも睨みつけていた。
そうあの時と一緒……いや全く違う。
あの時よりも今侯爵は崖っぷちまで、後1歩後ろへ後退すれば奈落の底へ転落……いや、もう既に奈落の底へ落ちている途中なのだろう、ただ本人が気づいていないだけで……。
侯爵にとって今迄この国で思い通りにならなかった事等殆どなかったというのに、あの時エンジュの婚約の時と彼が愛してやまないリリアナの駆け落ち以外は……。
あぁそうだ、こんなところで人生を終えたくはない――――と侯爵は思っていた。
まだまだ彼には望みがあるのだ。
王を、ひ孫であるラファエルの治世をも思うままに操り、この命が尽きる――――いや、シャロンの闇魔法の力があれば寿命等幾らでも伸ばせるのだ。
現に今彼の国に伝わる秘術で侯爵は70歳には思えない程に若々しい顔と身体を持っているのだ。
恐らく彼の実年齢を知る者は少ないだろう。
どう見ても侯爵は50歳前半にしか見えないのだから……。
国を思い通りに動かす愉しさをまだまだ味わいきれてはいない。
そして今度こそ彼のひ孫となるラファエルの縁談を思い通りに運びそして思う儘に利益を得るのだっっ。
この世でしたいことは山ほどある。
またその欲望は尽きる事がない。
――――だからこんなところで足止めされる訳にはいかない!!
「王よ、貴方はただ私の言葉のみ信じているがいいっっ、私は何時も貴方や先王陛下そして国を宰相として守ってきたで筈だっっ、そんな国の功労者である私を如何してこの様な衆人環視の見守る中で貶められなければならないのだっっ!!」
「マリス侯爵もうその辺りでいいだろう?」
「いいえっ、私は納得しませんぞっっ!! 愚息の犯した罪を親である私は反省し領地も一部国へ返上した筈ですっ、なのにこの様ないわれなき罪を――――」
王が窘めるが頑として撥ねつけマリス侯爵は自身に罪はないとなおも言い張ったが……。
「その土地も……あぁこれに記載されていますが、前年度の功労者の褒美の1つとしてマリス侯爵へ再び下賜されていますね、然もへフリー伯爵とシーウェル男爵の土地をまるっと一括りで……貴方も相当あくどいですね、宰相の権限を使って誰にも反対等させずに当たり前の様に受け取っておられるとは……」
「ぐぅ……そ、それ、それは〰〰〰〰っっ」
アイザックは開き直り続けようとする侯爵にヨルムより受け取った捜査資料を見ながら詰め寄っていく。
「今ヨルムの話した事全て裏も取れていますし証拠も既に陛下へ提出させて頂きました。だからもう貴方に逃げ道等ないのですよマリス侯爵、ついでに言えばシャロンへ貴方の事について問い合わせをさせて頂きましたが勿論答えはノーです。貴方とシャロンは一切関わりがないと返答が来ました――――という事は、最早貴方はシャロンという隣人を失ったいや、今度はその命が狙われる番ですよ。シャロンは裏切りや失敗を決して許さない狭量な国ですからね、こうしている間にも貴方は何時彼の国の兇者より命を狙われているのかもしれませんね」
アイザックはそう冷たく言い放ちマリス侯爵もほんの一瞬まで真っ赤になって怒りを露わにしていた筈だったのだが、彼に言われて漸く現実というものが見えてきたのだろう……。
真っ赤であった表情は今では真っ青となり何時何処でどの様な方法でやってくるかもしれない兇者への恐怖に怯えるしかなかった。
「た、頼むっ、私を助けてくれっっ」
先程までの威勢の良い声と打って変わって怯えを含ませた自信のない掠れる様な声でマリス侯爵はアイザックへ保護してくれるように頼む――――が、彼はそんな侯爵を冷たく一瞥して言い放つ。
「よくもそんな台詞が言えますね、今迄貴方を前にして何人……いや何十何百という人間がその様な命乞いをして貴方は彼らを如何しましたか? その中にはご子息のへフリー伯爵やご息女の御夫君もいましたね、彼らは何の罪もないのに貴方は彼らを見殺しにした」
「そ、それは〰〰〰〰」
「だったら私がどうするかわかるでしょう?」
「だがっ、私は特別な存在だっっ、そう私は選ばれた人間なのだっ、選ばれた人間と選ばれなかった人間とは違うっっ!!」
「まだ仰いますか、選ぶも選ばれないもそのようなものは最初からないのですよ、全ての人間は皆等しく平等なのですから、そういう選民意識を増長させるから間違いが起こるのです」
アイザックは侯爵に容赦なく言った。
「もうよい、侯爵この場で沙汰を言い渡す」
そしてそれはエンジュの父も同様であったらしい。
マリス侯爵よりも高位で名門貴族は要るにも関わらずだっっ。
その名門貴族筆頭がミドルトン公爵家。
彼の公爵家は圧倒的な力と財力を誇っていても未だルガート王へ膝を折り心よりの忠誠を誓う事はない。
表面上は自国の王への礼儀は尽くしている……が、元々彼の家の者には権力への執着があまりないと言った方がいい。
慾に塗れず自領を公平に統治し、また下位の貴族にも傲慢な態度ではなくどの貴族に対してもわけ隔てなく接していた事により人望も厚かったのだ。
だからそんな筆頭公爵家が何も行動を起こさずその状況を静観しているの見た他の貴族達もそれに倣ったのだ。
そう、彼の公爵が静観しているから他の貴族達もそれに倣ったが為にマリス侯爵の暴挙は今日まで続いたのかもしれない。
そう多分それだけが理由ではないにしろ侯爵の暴挙を増長させる一因にはなった筈だ……。
若かりし時のマリス侯爵は自身の娘が偶然エンジュの父と恋仲となり、そして王妃となった事により宰相の椅子も同時に手に入れた。
そうして王妃が無事に王子を出産し孫となる王子を可愛いと思う事もなく、ただ彼にとって娘や孫も自身がこの国で権力を掌握する為の道具に過ぎなかったのだ。
そしてシャロンとも麻薬密売という繋がりを持つ事で潤沢な資金も持つ事が出来た。
マリス侯爵にとってシャロンは表向きは敵だが、裏では仲の良い隣人なのだ。
何もその昔シャロンより独立したからと言って離れても尚シャロンに忠義を誓っている訳でもない。
マリス侯爵は純粋にシャロンと裏取引する関係だけなのである。
まぁ利用出来るものは最大限利用するのだがそれはシャロンも同意で然も彼らにとってもマリス侯爵を利用しているのに過ぎないのだ。
言い換えれば持ちつ持たれつと言った関係なのである。
過去何度も起こったシャロンとの戦も全てとは言わないがマリス侯爵はシャロンと関与し、シャロンの益になる様に取り計らってもいた。
だがそれは言いかえれば侯爵の益にも繋がるのだ。
勿論そんな謀に不審を持つ者は何度となく現れるのだが、それこそ侯爵はシャロンの兇者を使って暗に口封じをしてきた。
その点ではシャロンはとてもいい仕事をしていたと言ってもいい。
またシャロンもそんなマリス侯爵を使ってルガート国内でのマーケットを確実に広げていったのだ。
そんな外祖父であるマリス侯爵はエンジュを可愛がったのは表面的な事。
それは幼いエンジュにも肌で感じてわかった事だ。
侯爵が彼の幼い頃より手懐け様としていた事を……。
エンジュはそんな侯爵が大嫌いだった……が、まだまだ政情の落ち着かない新興国なのだ。
どんなに嫌いな外祖父で宰相として父を支えていただけに表面上だけでも繕わなければいけない。
そう、そんなエンジュが10歳の頃縁談が持ち上がったのだ。
相手は東の隣国蒼弓国の第一皇女。
そしてその縁談を纏め様とするのは勿論マリス侯爵だ。
王族の婚姻なのだから国同士の利益だけの為であってそこに感情は含まれてはいない。
エンジュもそれは幼いながらに理解していた。
だがっ、如何しても彼はこの婚姻を受け入れたくはなかったのだ。
自分の結婚までこの外祖父に決められたくなかったのだっっ。
他の事は何でもいい。
せめて自身の伴侶だけはマリス侯爵の思い通りになりたくなかった。
そう、それは彼にとって初めて外祖父でもあるマリス侯爵への反抗だった。
数年後父王へ願い出てブレーメンタール公爵の令嬢であるキャロラインと婚約を交わした時のマリス侯爵は、祝いの言葉を言う態度とは裏腹に実に忌々しいといった表情で微笑ましいエンジュとキャロラインを不躾にも睨みつけていた。
そうあの時と一緒……いや全く違う。
あの時よりも今侯爵は崖っぷちまで、後1歩後ろへ後退すれば奈落の底へ転落……いや、もう既に奈落の底へ落ちている途中なのだろう、ただ本人が気づいていないだけで……。
侯爵にとって今迄この国で思い通りにならなかった事等殆どなかったというのに、あの時エンジュの婚約の時と彼が愛してやまないリリアナの駆け落ち以外は……。
あぁそうだ、こんなところで人生を終えたくはない――――と侯爵は思っていた。
まだまだ彼には望みがあるのだ。
王を、ひ孫であるラファエルの治世をも思うままに操り、この命が尽きる――――いや、シャロンの闇魔法の力があれば寿命等幾らでも伸ばせるのだ。
現に今彼の国に伝わる秘術で侯爵は70歳には思えない程に若々しい顔と身体を持っているのだ。
恐らく彼の実年齢を知る者は少ないだろう。
どう見ても侯爵は50歳前半にしか見えないのだから……。
国を思い通りに動かす愉しさをまだまだ味わいきれてはいない。
そして今度こそ彼のひ孫となるラファエルの縁談を思い通りに運びそして思う儘に利益を得るのだっっ。
この世でしたいことは山ほどある。
またその欲望は尽きる事がない。
――――だからこんなところで足止めされる訳にはいかない!!
「王よ、貴方はただ私の言葉のみ信じているがいいっっ、私は何時も貴方や先王陛下そして国を宰相として守ってきたで筈だっっ、そんな国の功労者である私を如何してこの様な衆人環視の見守る中で貶められなければならないのだっっ!!」
「マリス侯爵もうその辺りでいいだろう?」
「いいえっ、私は納得しませんぞっっ!! 愚息の犯した罪を親である私は反省し領地も一部国へ返上した筈ですっ、なのにこの様ないわれなき罪を――――」
王が窘めるが頑として撥ねつけマリス侯爵は自身に罪はないとなおも言い張ったが……。
「その土地も……あぁこれに記載されていますが、前年度の功労者の褒美の1つとしてマリス侯爵へ再び下賜されていますね、然もへフリー伯爵とシーウェル男爵の土地をまるっと一括りで……貴方も相当あくどいですね、宰相の権限を使って誰にも反対等させずに当たり前の様に受け取っておられるとは……」
「ぐぅ……そ、それ、それは〰〰〰〰っっ」
アイザックは開き直り続けようとする侯爵にヨルムより受け取った捜査資料を見ながら詰め寄っていく。
「今ヨルムの話した事全て裏も取れていますし証拠も既に陛下へ提出させて頂きました。だからもう貴方に逃げ道等ないのですよマリス侯爵、ついでに言えばシャロンへ貴方の事について問い合わせをさせて頂きましたが勿論答えはノーです。貴方とシャロンは一切関わりがないと返答が来ました――――という事は、最早貴方はシャロンという隣人を失ったいや、今度はその命が狙われる番ですよ。シャロンは裏切りや失敗を決して許さない狭量な国ですからね、こうしている間にも貴方は何時彼の国の兇者より命を狙われているのかもしれませんね」
アイザックはそう冷たく言い放ちマリス侯爵もほんの一瞬まで真っ赤になって怒りを露わにしていた筈だったのだが、彼に言われて漸く現実というものが見えてきたのだろう……。
真っ赤であった表情は今では真っ青となり何時何処でどの様な方法でやってくるかもしれない兇者への恐怖に怯えるしかなかった。
「た、頼むっ、私を助けてくれっっ」
先程までの威勢の良い声と打って変わって怯えを含ませた自信のない掠れる様な声でマリス侯爵はアイザックへ保護してくれるように頼む――――が、彼はそんな侯爵を冷たく一瞥して言い放つ。
「よくもそんな台詞が言えますね、今迄貴方を前にして何人……いや何十何百という人間がその様な命乞いをして貴方は彼らを如何しましたか? その中にはご子息のへフリー伯爵やご息女の御夫君もいましたね、彼らは何の罪もないのに貴方は彼らを見殺しにした」
「そ、それは〰〰〰〰」
「だったら私がどうするかわかるでしょう?」
「だがっ、私は特別な存在だっっ、そう私は選ばれた人間なのだっ、選ばれた人間と選ばれなかった人間とは違うっっ!!」
「まだ仰いますか、選ぶも選ばれないもそのようなものは最初からないのですよ、全ての人間は皆等しく平等なのですから、そういう選民意識を増長させるから間違いが起こるのです」
アイザックは侯爵に容赦なく言った。
「もうよい、侯爵この場で沙汰を言い渡す」
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