王妃様は真実の愛を探す

番外編

番外編 アイザックの苦い過去 2

　それから間もなくアイザックは星降る夜の乙女――――クラウディアを知る事が出来た。

　しかし彼女は男爵令嬢といえど極力社交界と距離を置こうとしているらしい。
　その証拠に彼女に関した報告書は以下の様であった。


　クラウディア・ヘレナ・シーウェル男爵令嬢。

　年齢15歳。
　趣味は家事手伝い。
　その中でも特に料理と掃除が得意らしい。
　後は刺繍を好むが出来上がった刺繍を月に一度街へ売りに行く。
　そこで得た収益は生活費に充あてているらしい。

　また乗馬も好んでいる為専もっぱら移動手段は徒歩か馬でのみ。
　馬車は親戚にあたるヘフガー伯爵の迎えがあった時のみ使用する程度。
　そして夜会へは叔父であるヘフガー伯爵主催のもののみ参加、然しかもそれは叔父の命令により仕方なく応じているらしい。


　何とも風変わりな令嬢だとは思ったが報告書を読んで何とも想像通りの娘だという事が分かった。
　およそ貴族令嬢らしくはないクラウディアへアイザックは不思議と更に興味を持ったのだ。
　ミドルトン公爵家とは釣り合いが取れる家ではないというのに、家の格等関係なくただクラウディアという個人の女性に対して自然に興味を持ったのだ。

　何とかもう一度いやもっと彼女に会いたい――――と彼は思ったのだが、普通貴族であればサロンや夜会等様々な貴族達の催しで顔を合わせる事も出来るのだ。

　だが彼女は、正確には彼女の家族自体もそういう貴族社会とは一線を画しているのだ。

　原因は学者肌の父とその両親の結婚に至る経緯だろう。
　未いまだ母親の実家である侯爵家と疎遠という事もあって自然とそうなったのかもしれない。

　唯一貴族社会とクラウディアを結び付けるものは叔父であるヘフリー伯爵なのだ。

　ただこのヘフリー伯爵は良くも悪くもごく普通の貴族なのだ。
　己の分を弁わきまえた伯爵は得てして派手な社交家ではない。
　招待されれば失礼のない程度に夜会等へ参加はするのだが自ら主宰しての夜会は極僅わずかなのだ。
　然しかもその夜会を主宰する理由は姪のクラウディアの為だけときている。

　子供のいない伯爵夫妻にとってクラウディアは子供同然といっても良かったのだが、如何いかんせん生家である侯爵家との摩擦を避ける為に手元に置きたい彼女を彼らは我慢をして年に数回彼女を呼び寄せるだけに留めていた。

　そうこのまま大人しくしていれば次に彼女に会えるのは予定では春まで待つしかないのだった。
　だからアイザックは考え彼に遣える全ての力を使って彼女に再び逢いたいと願ったのだ。
　その結果が最悪な事態を招く事も知らずに……。