王妃様は真実の愛を探す

雪乃

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番外編

番外編  ラファエルの過去  そして……

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 ラファエルは父王が帰ってくるまでの間1人部屋で反省をしていた。

 彼女の甘やかな唇とその身体に溺れてしまい自分が何者でこれから何を背負って生きていかねばならないのかという重責を、一時でも忘れてしまっていた事を只管ひたすら悔いていた。
 この20日あまりの間自分は如何いかに情けない人間だったのかと悔やんでも悔やみきれなかった。
 育ての母であるスティアの諫言かんげんも無視し、マックスやチャーリーにも随分な態度で接してしまった。

 これでは心底軽蔑していたシャロンと何ら変わりがないではないか……と彼は自嘲じちょうする。

 まぁ元々シャロンとは血の繋がりはあるのだから似ている所も無きにしろあらずと言ったところだが、何も最悪な部分等似て欲しくはない。
 つい先程まで女で身を持ち崩す等考えられないと彼はそれなりに思っていたが、こうも易々やすやすと相手の思う壺にハマってしまった自分がどうにも情けなかった。

 おまけにスティアの手術は思ったより時間が掛り医師より伝えられたのは彼女の身体に傷が残るだけでなく、足に障害が残ってしまうという事だった。

 自分の犯した過ちの火種が自分ではなく彼女に飛んでしまった事を知りラファエルはスティアの眠る部屋へと行き、彼女へ何度となく謝罪をした。
 だがそんな落ち込む彼の表情かおを見たスティアは障害が残る事にショックを受けていないどころか、むしろお日様の様な優しい笑みを浮かべてラファエルに話す。

「いいのですよ、エル様。エル様が御無事ならスティアは幸せなのですよ、良かった、本当に良かったですわ、エル様が御無事で……」
如何どう……して? 如何どうしてそんな事が言えるんだっ、俺はスティアの言葉を何1つ聞き入れなかったんだぞっっ!! なのにスティアの身体に障害まで残す事になったんだぞっっ、一言くらい文句を言ってもバチなんか当たらないのにっっ!!」
「――――ありませんよ、何もないです」
「何故?」
「今エル様は心より反省しておられるでしょう? 私のお育てしたエル様は悪かった時はちゃんと反省出来る御方なのですよ、本当にダメな人間は謝る事も反省する事も出来ないものなのです。貴方にはそれが出来る、今回の事は私が自ら貴方を護りたいが為に受けたものです。だから何も後悔等しない事です」
「だがっ、俺はスティアの言葉を聞かなかったっっ!! スティアは俺の母上も同然なのにっ、俺はお前を傷つけてばかりだっっ」

 ラファエルは絞り出す様に声を出し彼女の寝台の傍でひざまずいた。
 そんな彼にスティアは彼の頭を何度も優しくあやす様に撫でる。

「まだまだですね、可愛いエル坊や。そうですね、私は貴方の母親代わりですもの、母親が息子の身を護るのは当然の事です。だからもう、そんな辛い顔をしないで可愛い坊や」
「〰〰〰〰俺は子供ではないぞっっ」

 スティアにあやされ顔を真っ赤にしつつラファエルは、彼女へ少しはにかみながら文句を言う。

「私にとっては何時までも貴方は可愛い坊やですよ、さぁエル様今回の事で反省だけでなく多くの者に迷惑を掛けましたわね。でもこれでお分かりになったでしょう? 頂点に立つ者が1つ行動を見誤ればそれに連なる者は多大な迷惑を被る事、そして貴方の行動1つでこれからのルガートの未来が決まってしまう事を忘れないで下さい。そして一刻も早くシャロンを……」

 あの娘の様に見えない鎖で縛られている者達のしがらみを断ち切って下さいませ……心の中でスティアは彼に願った。

 言葉には言えない事。
 決してラファエルには言えない事があった。

 スティアが刺される瞬間――――マリアーナはその刹那に彼女へ懇願する様に悲しみをたたえて言った言葉があった。

『ごめんなさい……』

 ただそれだけであった。
 しかしただその言葉と彼女の表情、そして彼女が自害した事でスティアは何故か悟ってしまった。

 事を……。

 暗殺者として接していた筈なのに何時の間にか本気で愛してしまったマリアーナ。
 共に生きる事が出来ない悲しみと死を選ぶ事で愛する者を護るマリアーナの意思の強さがスティアには痛い程伝わったのだ。

 だからこそスティアはマリアーナを犯罪者として葬る事を止めて内密に自領の教会へ埋葬する事にした。
 これは彼女が1人墓場まで持っていく秘密だ。
 ラファエルには決して知らせない。
 きっとこれは言葉を交わさないだけのスティアとマリアーナの心の秘密なのだ。


 そうしてルガート王が帰城しラファエルは父王へ今回の報告と謝罪をしていた。
 ルガート王は彼の報告を聞くと彼を責める言葉もなく「そうか……」と一言だけ述べた。
 それは目の前のラファエルが戦場へおもむく前の彼の顔や態度が今と随分様変わりしていた所為せいでもあった。
 今までの彼はしっかりしている様でやはりどこか甘えていた部分が否めなかったのだが、1日明けてみた彼はその甘えていた部分がなくなり思慮深く精悍な面差しへと変貌していた。

「――――たった一度の経験があれを大人にしたというのか?」
「ええ、そうですわね陛下」

 ルガート王はスティアを見舞い一言ポツリと呟いた。
 子供はある日突然大人になるものだとスティアは彼に告げた。

「少し寂しいですけれどね……」

 それから3カ月して彼女は障害がある身では満足に仕える事が出来ないと王と王太子が何度も止めるのも聞かず「もう母親代理のお仕事は終わりました」と言って自領へと戻り隠居生活に入った。

 ルガート王はそれから7年後戦いで受けた傷が元となってこの世より旅立った。

 ラファエルは22歳で即位し王太子時代以上に真摯に国政に取り組んでいたが、余程手痛い初恋だった所為か為政者としては文句のつけようもないのだが、事女性に関しては慎重過ぎるというのか敢えて女性と係わる事を善しとしなくなったのだ。

 降る様な見合いの話も夜会も全てにおいて女性を近づけさせる事はなかった。

 そうしていつの間にかラファエルは女性嫌いという噂が何処からともなく流れたが、別に慌てて誤解だという必要もないだろうと彼はそのまま放置していた。

 彼いわく女性が嫌いではなく、ただ慎重になるだけだという事だ。
 もう誰も傷つけたくはないのだという想いが強いのかもしれない。
 15歳のラファエルが護れなかったモノを彼は何時の日か絶対に護れるような男になりたいと思っていた。


 カチャ……。


 微かに扉の開く音でラファエルは目を覚ました。

 一瞬ここは何処だ――――と部屋を見回す。

 この部屋には見覚えがあった。
 そう、ここはマックスが開いている街の診療所だが如何どうしてここに……と身体を起こすと左肩に激痛が走る。
 身体を見るとあちこちに包帯や傷の処置がされている事でやっと昨夕襲われた事を思い出した。

「――――だからマックスの所にいるのか」

 少し納得しラファエルは自分の身の安全が確保出来ている事に安堵したが直ぐにまた別の緊張が走った。

 ではさっきの扉の音はなんだ?

 耳を澄ませてみるとその足音はどうやらマックスのモノではない。
 軽い足音で然もどんどんこちらへと近づいてくるではないかっっ!?
 剣を――――と寝台の方へ視線を送るも剣を取りに行くには既に遅かった。
 足音は間違いなくこの部屋の前で止まったのだ。

 新手の賊か……?

 それにしてもマックスの気配が感じられないのが不思議だった。
 このまま賊の侵入を許していいものかと思案していると――――っっ!?


 カチャ……。


 扉がゆっくりと開かれると同時に扉の直ぐ横で息を潜めていたラファエルは扉を開けた人物を一瞬で中へ引き摺り込み羽交い絞めにした。

「っつふぉっっ!?」
「――――騒ぐなっ!!」

 拘束したのはまだ何処か幼さの残る美しい少女だった。
 赤毛交じりの金色ストロベリーブロンドの髪に煌めくエメラルドグリーンの大きな瞳は何事が起ったのかわからなかったのだろう。

 驚き又は恐怖でその大きな瞳をこれ以上ないくらい大きく瞠っていた。

「お前は何者だ、如何どうしてここにいるのだっ!?」

 まさかこの時ラファエルの腕の中にいる少女が8年前に保護目的でサインをした自身の花嫁とは思わなかった。
 彼が知ったのは拘束を解いて彼女が出て行ってから入れ替わる様に入ってきたマックスより告げられたのだ。
 勿論彼女はラファエルの正体に気付いていない。
 また彼も知らせる気もその時にはなかったのだが彼女を見ているとふと思ってしまった。

 今ならばあの時護れなかったのもが護れるのではないかと……。

 彼女を見ているとそんな気になっていたのだった。
 まだそれがどんな形となっているのかは誰も知らないのだが……。



 *番外編 ラファエルの過去はこれで終了です。
  次の更新より本篇へと戻ります。
  長々となってしまい申し訳ありません。
                            雪乃
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