王妃様は真実の愛を探す

雪乃

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番外編

番外編  Xmas企画 少女達の出会い  3

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「愛しいアナベルや」

 まるで恋人に囁く様に甘い声音と蕩ける様な顔をしたベイントン伯爵は彼女に語りかける。

「お父様それ気持ち悪いです、どうかお母様におっしゃって下さい」

 だが娘は容赦なく父親へ言い放つ。

「冷たいねぇ、アナベルちゃんは……勿論イレーヌは大切な奥さんだからもっと甘く愛を囁くけれど、お前は私にとってもうたった1人の娘なんだよぉ。お父様はアナベルちゃんがとーっても大切なのにどうしてそんなに何時も冷たいの?」

 厳つい顔にがっしりした筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの体格なのに、身体を必要以上にクネクネさせながら伯爵は思いっきり娘を抱きしめ頬ずりをしてくる。
 その姿は普通に変態な父親としか見えないのだが、アナベルにとってはこれが当たり前でもあったのだ。

 物心……きっと赤ん坊の時よりこうして抱きしめ頬ずりしていたのだろう。
 これに関しては最早彼女は抵抗する意思を持ち合わせてはいない。
 実に刷り込みとは恐ろしいモノだという事だけは彼女なりに自覚をしているつもりである。
 ただコレをアナベルが生まれる前に嫁いでしまった姉にもしていたのか、否きっとしていたのだろう姉はベイントン家で一番最初に生まれた子供なのだから……。


「――――でお父様、挨拶が終わったのならば訪れた理由をお聞かせ願えないでしょうか?」
「何時もながらそう言う事はさといね、アナベル」

 いささかふてくされた様な顔をして伯爵は、アナベルを抱きしめていた腕より開放し椅子へドカッと腰を掛ける。

 その父の遣り切れない様な仕草を見て彼女は何かあったのだと察してしまう。

「お母様をお呼びいたしましょうか?」

 妻と娘ラブな……勿論2人の息子も愛してはいるがそれとこれとは如何どうも別らしい。
 伯爵は自身の心が辛い時、妻に思いっきり甘えて心を癒している事を家族はイヤというほど知っていた。
 まぁ子供としては目の前でいちゃいちゃするのも目のやり場に困るのだが、仲が悪くて喧嘩ばかりするよりもマシだろうと考えていたのだ。

 そして今回も父である伯爵は何か悩みを抱えているらしい。
 だからアナベルは母を呼ぼうとしたのだが――――。

「いや、イレーヌを呼ばなくてもいいよ」
「ですが……お父様がお辛そうにしていらっしゃるように思ったのですが?」
「私の辛さ等瑣末さまつなモノだよ、今日はお前に頼みがあるのだよ」
「頼み……ですか?」
「あぁ、だが嫌ならば嫌といってもいいのだから、これはあくまでも強制ではないのだから……」

 そう言ってぶつぶつと何やらぼやいている父に向って彼女はこのままでは埒がが明かないと言った様に話しを切り出す。

「お父様、内容を言って下さらないと判断しようにも出来ません、一体何があったというのですか? そして何が私と関係があるというのです?」

 娘に諭すように言われた伯爵は深い溜息ためいきいた後、ポツリりポツリと話し始めたのだった。

 生まれた時より命を……その存在自体を狙われ続けているエヴァンジェリンの事を、そしてまだ5歳になったばかりの彼女が心の病にかかってしまったという事を……。
 国民には伏せられていた事実を……。

「――――それで姫様の御病気を少しでも和らげる為に話し相手コンパニオンという名目の護衛が必要で、丁度良い所に私がいたというのですね」
「あぁ、陛下より打診をされたんだよ。エヴァンジェリン様を御身を護り尚且なおかつ姫様の話し相手コンパニオンとして閉ざされたお心を少しでも開かれる様にして欲しいとね」
「そうですか、しかしお父様、私はエヴァンジェリン様の護衛をさせて頂く事は何も問題ないと思いますが、ただ姫様のお話し相手となると私では気のきいた会話が出来るかどうかが多少心配なのです」

 それもこれも目の前にいるお父様とお兄様方の所為せいもあるのですけれどもね……とアナベルは少し父親を睨みつけながら言う。
 そんなアナベルの言わんとする事を察した伯爵は視線をスッと明後日の方向へと向けてしまうそんな父親の仕草にチッと軽く舌打ちをして見せるが、この話はほぼほぼ決定しているのだろうと嘆息たんそくする。

 大体『』なのだっっ!!

 断っても差し支えないものならば態態わざわざ自分の所まで話を持ってこないだろう。
 シャロンの暗殺集団より気付かれない様に護衛し尚且つ話し相手コンパニオンが出来る人間……しかも姫様のお相手をするというのであれば女性に限られる。

 その上エヴァンジェリン様は今年5歳になられたばかりの幼い御方。

 当然そのお相手をする者も大人でなく出来るだけ年齢としの近い者が望ましい……その両方を備えた者といえばおのずと候補に挙がってくるのも頷ける。
 いや、候補というより多分自分しかいないのだろうな……とアナベルは確信していた。

 第一自分以外の令嬢達が武術をたしなんでいない事はマリエッタの言葉で十分理解していたし、ライアーン国王は温厚な人柄でどんなに王女が可愛くても臣下の娘を危険にさらすという無理難題を押し付ける様な性格でもない。

 ――――となれば父である伯爵より王女の護衛等の話を自ら受けたのだろう。

 仕方がないと言えばそうなのかもしれないが、全く我が父ながらお人好しにも程がある……とアナベルは心の中で毒づいてみるもやはり受けるしかないのかと己の中でその話しをきちんと消化させる。

 話し相手といっても5歳の幼子だ。
 適当に合わせておけばいいだろうとこの時の彼女は軽く考えていたのだ。

 どんなに嫌がっても決まった事に抵抗するだけ無駄というものだ――――と彼女は頭を素早く切り替える。

「それで何時私は王宮へ伺候しこうするのでしょう?」

 決まっているのなら早い方が良いと彼女は思った。

「明日の昼だよ、アナベル」

 ただ単純にそう思っただけなのに……。
 ベイントン伯爵は静かに告げる。


 早っ――――っっ!?

 アナベルが心の中で思わずそう叫んだのは言うまでもない。
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