120 / 141
第二部 第一章 新しい出会いと新たな嵐の予感
10 アイザック、エヴァへ忠誠を誓う Ⅰ
しおりを挟む今更ながらだが全く色気のいの字も知らないだろう公衆の面前(主にエヴァとアナベル!! マックスは……除外対象)の中、必要以上に駄々漏れまくりのお色気オーラを今がその時とばかりにアイザックは全開で解き放ち、只今絶賛アナベルへ、これでもかとてんこ盛りの砂糖を塗した様な甘い声音で愛(?)を囁いていている彼は、流れる様な所作で執事のヨルムへと気がついた様に視線を向ける。
そう、全く今更ながらである!!
「――――大丈夫に御座いますよ旦那様。この周囲2kmに置いて怪しい者はおりませぬ故」
だがそんな主の問いにヨルムは万事心得様子で静かに返答する。
然もこれが当然であるかと言う様に……。
そしてアイザックは「わかったよ」と軽い口調で返事をしたと同時に、それまでのかなりちょい悪風な態度を改めると共に居住いを正せば、やや甘さを控えた表情でエヴァへ優しく微笑んでみせる。
あ、余り変わっていないかも……。
「では、エヴァンジェリン様早速お話を始めましょうか」
「はい?」
その言葉の意味を全く理解していないエヴァは、何の事かわからずただ鸚鵡返しに返事をするしかない。
勿論それはエヴァだけではない。
アナベルとマックスも全く何の事かがわからないのだ。
突如登場してきた胡散臭い人物。
または何を考えているのか全く読めない男は、アナベルとエヴァへ興味があると言うのだ。
エヴァ命のアナベルだけでなくその場にいるマックスは当然の事ながら、一応天然キャラのエヴァも警戒しない訳にはいかないだろう。
しかしそんな三人の考えている事がわかってしまうのだろうか。
不可解な表情を浮かべる三人に対してアイザックは実に愉しげな様子で言葉を紡ぐ。
「ふふ、私はねエヴァンジェリン様、こう見えて今も時折シャロンの元王太子とも交流があるのですよ」
「なっ、何を――――っっ!!」
「ミドルトン公爵っっ!!」
アイザックより放たれたあり得ない言葉と同時に声を荒らげ、その場で大きな音を立てて立ち上がったのは勿論アナベルとマックス。
エヴァはただ驚きはしたものの、その場で声を発する事はなくただ静かにアイザックの話を聞いていた。
そして憤る二人を宥める様にアイザックは再び話を続ける。
「まあまあ兎に角落ち着いて下さい。先程も言いましたが我が公爵家には独自の諜報機関があります。そしてその情報を素に私は色々と手広く商売をしているのですよ。ですからそのお相手となるのはラファエル陛下だけではなく時にはアーロン殿または東の蒼弓国や他にも色々と、まあ商売相手は様々ですね。そして今回私がその相手にと選ばせて頂いたのはエヴァンジェリン様――――貴女ですよ」
「えっ?」
今度こそ驚きを隠せないままでいるエヴァの手を恭しく掬い取ると、アイザックはにっこりと微笑んで言う。
「はい、私の諜報機関を貴女の為に全て遣いましょう……と言っているのですよ」
「あ、で、ですが貴方も知っていらっしゃる通り現在の私には何の力もないのですよ」
「ああ、そう言えばそうですね」
「ええ、ですから折角貴方よりの申し出……貴方の大切な諜報機関を私の為に遣うと仰られましても、今の私はそれに相応しい支払うべき対価を持ってはいません」
「えぇ全くその通りですね、表向きは……」
「表向き……?」
一体アイザックは何が言いたいのだろうかと、エヴァは益々以って頭の中が混乱する。
しかしそんなエヴァの様子もアイザックにしてみれば全て織り込み済みと言った体であった。
「えぇ、実はもう貴女は既に半分以上私へその対価を支払われているのですよ」
「あ、あのっ、そ、それはどういう……」
「貴女はあの丘で漸く死よりも辛い呪縛より解放され、今まで得る事の出来なかった安らかなる眠りについた者へ、先程優しい言葉と温かい涙を流して下さったでしょう?」
「――――それってっっ!?」
「ええ、今は元……ですがその者の名はルートレッジ侯爵ジェフリー・トーマス・サザートンですよ」
真剣な面差しで、心の底からじんわりと温かくなる様な声音で、アイザックはその者の名を静かに告げた。
思わず意外な人物の名を聞いたエヴァは、またしても驚きが隠せないけれども……。
どうしてジェフ様の事をそんな優しさと悲しみを混在させたお顔でお話をされるの?
ま、まさかジェフ様と繋がりがあるという事は――――っっ!?
そうもしかしなくともその先にはエヴァの恐れる人物が何かしら絡んでいるのではないのだろうか……と悪戯に勘ぐってしまう彼女は、今までなされた事を鑑みれば当然なのかもしれない。
幼い頃からの恐ろしい体験が自然と悪い方向へと思考が過り、エヴァは知らずに胸の鼓動がドキドキと早鐘を打ち始めるのを抑える事が出来ないでいた。
また万が一予想が当たり診療所で何か事が起これば幾らアナベルが強くても、そしてマックスが剣を嗜んでいようとも、何故かアイザックとヨルムには全く太刀打ち出来ないのではないかとエヴァは不思議にもそう察してしまった。
だが当然の事だがエヴァは武術を嗜んではいない――――と言うか、今までアナベルより教えられたのはあくまでも簡単な護身術だけ。
それも相手の力を利用したものであり、当のエヴァ自身は非力な乙女。
勿論剣を握った事すらない。
だけどそんな素人のエヴァにでもわかる程彼らの力の差は歴然。
だから万が一の事が起こればアナベル達を護る為に自分を差し出せばいいっっ!!
そうエヴァは躊躇う事無く即断する。
大切な者達を護る事が出来ればエヴァにとってそれが最良なのだから……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,398
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる