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第二部 第一章 新しい出会いと新たな嵐の予感
1 仲直り
しおりを挟む「――――エヴァ様」
「アナベル?」
離宮へと戻れば扉の前にエヴァを待つアナベルが、何時もとは違う神妙な面持ちで佇んでいた。
エヴァは彼女の名を呟くとそのまま前を通り過ぎようとした瞬間――――アナベルは堰を切った様に彼女へ謝罪を試みる。
「さっ、先程は申し訳ありませんエヴァ様っっ。私の配慮が足りなかった事をど、どうかお許し下さいませっっ!! 決して私はエヴァ様を悲しませようとする心算等なかったのですっっ。ただわ、私はエヴァ様が只人でないと――――!?」
「もういいわアナベル、そのお話はもうお終いにしましょう」
「で、ですが……ふぐぅっっ!?」
それでもまだ続けようとするアナベルの唇にエヴァは自身の人差し指を彼女の唇へ軽く押し当てたまま彼女の顔の本の近くまでぐっと近づけば、こてんと小首を可愛らしく傾げて覗き込む。
そして口角をほんの少し上げれば、異性同性関係なく思わず惹き込まれそうになる様な優美な笑顔をエヴァは湛えゆっくりと言を紡ぐ。
「これ以上はいいのよ。だからもうアナベルは謝らないの、わかって?」
「えぶぶまぁぁぁ……っっ!!」
指で唇を抑えられているのにも拘らず、アナベルは上手く言葉として成立しないやや不細工でくぐもった声と、常の彼女らしくもないぼろぼろと涙を流し、いや涙をぴょぴょーんと左右へ飛ばしていると言う方が妥当だろう。
そうしてその勢いのままアナベルは感極まりエヴァへと飛びつかんばかりに抱きついた。
「わ、私っ、エヴァ様に……もういらないと言われたら、こ、これより先どうすればよいのかと思いました〰〰〰〰っっ!!」
「え、ええっっ!? ま、まぁアナベルってばっ、何もそんな大袈裟過ぎよ」
「いいえっ、大袈裟ではありまぜんっっ。わ、私にしてみればこれは死活問題なのです!!」
「そ、そうなの?」
「ふ、エヴァ様〰〰〰〰っっ」
何時も……そう、譬え何が起ころうとも、そしてそれは如何なる時もキリッと背筋をぴんと伸ばし、決して何者にも動じる事のないすっきり美女であったアナベルの姿はそこにはなく、今ここに、エヴァの腕の中にいるのは……大声で泣き許しを請い、涙でぐしょぐしょに顔を濡らし、美しく澄んだ水色の瞳は流した涙でやや腫れぼったくなった何とも可愛らしい泣きべそアナベルなのだ。
アナベルと出会って早13年。
故国ライアーンで何度となく命を狙われかけようと、またこのルガートへ嫁し忘れられた王妃として離宮でひっそり?と暮らしていた頃でさえ何時もアナベルは臆する事無く常に凛とし、エヴァの侍女としてと言うよりも頼りになる良き姉の様な存在で、だからそんなアナベルが誰よりもエヴァの傍近くにいてくれたからこそ今のエヴァがいるのだと思っている。
そうそれは偽りない真実。
でも今その強いアナベルはエヴァよりも幼い子供の様に泣きじゃくっているのだ。
エヴァは少し吃驚するのと同時に何とも心の奥がほんわりと温かくなり、エヴァの腕の中にいるアナベルを抱きしめつつ彼女の背をぽんぽんとあやす様に優しく撫でる。
「こちらこそさっきは感情的になってごめんなさい。ねぇアナベル、こんな私を許してくれるかしら?」
「い゛、はい゛っ、エヴァ様っ、エヴァ様は私にとって特別な御方なのです〰〰〰〰っっ!!」
「ま、アナベルってば、私はいたって普通の人間よ。私にしてみればアナベルの方が何でも出来て羨ましいくらい……」
「エヴァ様……」
「それに……私にはこれからもアナベルが必要よ。こんな頼りない私だけれど、どうかこれからも一緒にいて欲しいの。あっ、でもね、でもアナベルに素敵な方が訪れればその時は別よ。その時は断然応援するからわかって?」
茶目っ気たっぷりな表情で言うエヴァへ被せる様にアナベルは即返答した!!
「――――大丈夫ですわエヴァ様っっ。エヴァ様以上に大切な御方等私には存在致しませんのでっっ!!」
「ええ、ありがとう。では改めてこれからも宜しくね」
クスクスと可愛らしく微笑みながらエヴァはアナベルをそっと抱きしめる。
勿論この抱擁にアナベル自身身の心が千切れそうになるくらい身悶えているのは何時もの事……である。
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