王妃様は真実の愛を探す

雪乃

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第一部  終章

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「この様な時刻にようこそお出で下さいました。本来ならば私がそちらへ参らねばならない事なのですが、事情をかんがみましてこちらへお出で下さる様にお願いをした所存に参ります――――陛下」

 簡素なドレス姿に3年前、王都で働くと決めた折りに肩辺りまで彼女自ら切ってしまった赤毛交じりの金色ストロベリーブロンドに輝く髪は、今はもう切る前と同じく腰まで伸び、大きくゆるやかな三つ網を編んでいた。
 彼女を装飾する色とりどりの宝玉等一切なかったがエメラルドクリーンの大きな瞳は、本物の宝石の様に煌めき、形の良い桜桃さくらんぼを思わせる唇、そして抜けるように白い白磁の様な肌とほっそりとした肢体に物腰の柔らかな気品溢れるたたずまいは、豪奢なモノを身に纏わなくとも十分彼女自身を魅力的にその存在を主張していた。
 今の彼女は診療所で働くフィオではない。
 正確にはフィオも彼女自身なのだが、内面から溢れ出す気品はやはり王族の持つそれなのだ。
 深夜ラファエルの執務室より隠し通路を使い離宮へ現れた彼とマックスに優雅な淑女の礼をし、婉然えんぜんと微笑んでいるその姿はライアーンの王女いや、ルガートの王妃そのものである。

 アナベルと仲直りしてから数日経つと、エヴァは彼女にラファエルとマックスに会いたいと願い出たのだ。
 それを聞いたアナベルは渋々といった様子でラファエルへ彼女の意向を伝える。
 思わぬ報告を聞いたラファエルとマックスは驚きはしたが、彼らとてあれからエヴァと如何どうコンタクトを取ろうかと悩んでいたのだ。

 まさか彼女の方より自分達に会ってくれるとは夢にも思わなかったのだからこれは渡りに船といったところだろう。
 とは言っても今直ぐでは余りにも無理があった為2日後の深夜――――つまり現在に至った訳である。

「陛下……」

 鈴を転がすような、それでいて柔らかく何処か凛とした心地の良い声で彼らは現実へと戻っていく。
 いや、正確にはマックスだけは元々現実世界に居るのだ。
 いまだ現実に戻れていないラファエルは自身の妃の()放つ圧倒的な美しさに心を奪われていた。

 簡素なドレスでこの圧倒的な美しさなのだ。
 では、この世にある最高の宝石やあやなす絹で作られたドレスで飾り立てた彼女はどうなるのだろうか?
 ラファエルは男として、また夫としてもエヴァを思い存分飾り立てたい気持へと駆られていく。
 それ程までに彼女は美しかったのだ。
 ゴクン――――と生唾を飲み込む。

 ――――。

 それは身体の底より飢えにも似た渇き、渇望を訴えるような衝動がラファエルを襲う。
 この飢えを癒せるのはでしか癒す事は出来ない。
 そう、彼女の身も心の何もかも手に入れたいっっ。

 彼女の微笑みや愛らしく怒るかと思えば、時には呆れた様に見る表情、この2年の間でこんなに狂おしい感情で彼女の全てを愛せる自分にラファエルは正直自分自身に驚いていた。

 だが、まだエヴァはラファエルが彼女をどの様に想っているか等知らない。
 彼も伊達にこの2年もの間彼女を見ていた訳ではない。

 彼女こそは秘された離宮でひっそりと咲き誇る清楚な百合。
 何人よりもまだ手折られる事のない純真無垢で甘く香る百合の花を護るのは自分しかいないのだと、そしてまだ何も知らない彼女に甘く愛を囁き、彼女の瞳に映る権利を誰にも譲る心算はない。
 しかしその前に……彼女の心もる事ながら彼女の憂いを晴らし、この秘された場所より彼女に似合う表の世界へと迎え入れる為にもラファエルはアーロンとの決着を今一度心に誓う。

 今度こそ逃がしはしない、我が妃の憂いを今度こそ晴らさせて貰うぞアーロンっっ!!

「フィオ、いえエヴァンジェリン王妃様、そんなに畏まらなくともいいではありませんか?」

 何時もの様に人懐っこい表情かおでマックスはエヴァに話し掛けるがしかし――――。

「いえ、何事にもは必要でしょう。私は例え偽りだったにせよこのルガートにとって私は何のえきのない他国の王女なのです」
「いやいやルガートにとってというか王妃様、貴女が何の益もない王女ではありませんよ。貴女はさかのぼる事いにしえより続くライアーン王国の王女殿下なのです、尊い血筋がシャロンによって絶えさせてしまうのをうれえる者は数多おります。それに血筋以外でもライアーンはこの大陸一の農業国でしょう? ライアーンで採れる作物はとても人気があるのですよ、それは貴女も実際知っておられるでしょう?」
「ええ、知っておりますが私がもし命を絶たれたとしても我が国にはまだ幼いですが王子がおります。血筋は絶える事はありませんし、ライアーンも変わらず他国へ作物を供給する事も出来るでしょう。なのに如何どうしてルガート王国は直接関わりのない私の為に動いて下さるのでしょうか? いえ、騙された事は正直最初腹立たしさを感じはしましたが、それでも……今は心より感謝をしているのです。もし、あの時陛下方が私を護って下さらなければ今私はこの世に存在してはいなかったでしょう」

 感謝をしているからこそ如何どうして……とエヴァは疑問に思ったのだ。
 そして何か特別な理由があるのか――――と問うてみたくなったのかもしれない。
 そんな彼女にラファエルはぽつりと一言漏らしたのだ。

「最初そのギ-の、貴女のお父上の大切な宝を一緒に護りたいと思ったのだ」
「お……父様?」
「そうそうライアーン王はエルと友人関係なのですよね。昔彼はシャロンや貴女の事をエルに相談していたのですよ」
「そんなお話聞いた事もなかったですわ」
「それはそうですよ、ライアーンがルガートと繋がっているとシャロンにバレては、それこそライアーン建国以来通してきた永久中立国という立場を貫けなくなるでしょう。元来ライアーンはどの国の元首とも一線を引いて付き合ってきたお国ですからね」
「ええ、そうですわ、だから我が国の王族は他国と姻戚関係をほぼ結んだ事もない……筈です」

 そう、エヴァの母であるライアーン国王妃も自国の侯爵令嬢だったのだ。
 王族たるもの個人の結婚を自由に決める事は叶わないものだと教えられたが、それでもライアーンより他国へ嫁ぐ事は稀なのだ。
 永久中立国という立場を護る為に敢えて他国と姻戚関係を結ばない――――という考え方だったのかもしれない。
 それがシャロンの、アーロンとの結婚申し込みを断る理由ともなったのだが……。

 だが実際今エヴァはルガードにいる。
 でも……。

「では……この結婚は両親もその理由を知っていたのですね?」
「あぁ、私の方より持ち掛けた。この離宮ならば、あらゆる防御を張り巡らされているこの場所ならば貴女の身を護る事もそして生かす事も出来るだろうと……」
「ええ、確かにそうですわね。私は陛下に護られました。でももうシャロンは滅びましたわ、陛下もそろそろ本当の正妃をお迎えになられなければいけません。私も一時は第三国へ脱出しようかと考えた時期もありましたが、今回の結婚が策したものとわかったのですから私は帰国したいと思います」
「エヴァ様っっ!!」
「フィオっ、そっ、それは――――っっ!?」

 エヴァはエメラルドグリーンの瞳でしっかりと目の前にいるラファエルを見据えて静かに言い放つ。
 そしてそれに極端に反応したのは2人――――。

 最初に感嘆の声をあげたのは勿論脳筋令嬢であり侍女のアナベル。
 もう1人対照的に情けない声を出したのはマックスだった。
 ただラファエルは彼女の言葉を静かに聞いていた。

「帰国すれば私はきっと国内の有力貴族へと嫁がされるでしょう、ええ、それが最初から決められた道だったのですから……。でも、最初こそ辛いと感じはしましたがこの離宮での生活は、今にして思えばとても感慨深いものでした。だから陛下にはこの様な体験をさせて頂いた事に対して感謝してこそすれ、恨む等ありえません。どうか1日もお早くご正妃を娶られ幸せになって下さい。私はそれだけを言いたかったのです。仮初めとはいえ一度は夫婦となった身ですので……」

 エヴァは晴れやかな笑顔のままラファエルに告げた。
 彼女の中では10年もの間騙されていた事よりも、騙す事によって護られていたという方が単純に嬉しかったのだ。
 それにもうお金をせっせと稼いで見知らぬ第三国に脱出しなくとも愛する家族の許に、そしてまだ見ぬ今年10歳になる弟の第一王子にも会えるのだ。

 一度は諦めた夢だった。
 諦めていた夢だったからこそ叶うと分かるとそれはどても嬉しいのだ。
 また、国内に嫁ぐ事にはなってもあの優しい両親の事だ。
 きっと彼女の夢――――
 そう、彼女が恋をしそうな子息を見つけてくれるだろう。
 恋がどの様なものかを知らないエヴァはここに至っても恋をする相手がクリスマスのプレゼントの様に両親が見つけてくれると思い込んでいたのだ。
 だから帰国出来なくて第三国で真実の恋を見つけると決意した時は、夜な夜な恋を見繕ってくれるであろう両親を頼れないと何度も涙で枕を濡らした事か……。
 しかし今その憂いも完全彼女の中より完全に消え去ったのだっっ。

「陛下、それでは夜分遅く申し訳ありませんでした。それにマックスもありがとう」
「いっ、いやそれよりもフィオちょっと……」
「あっ、アナベル早々に帰国の準備をお願いね。これでやっと私も恋が出来るの――――っっ!?」

 慌てるマックスを尻目にこれからの明るい人生に希望で胸を膨らませるエヴァの手を、ラファエルは何の許しもなく引き寄せる。
 そして当然体勢を崩したエヴァはラファエルの胸の中へと倒れ込む。
 それを見て瞬時に殺気を飛ばしたのは間違いなくアナベルだっっ!!

「エヴァ様っっ!!」
「アナベル嬢少し落ち着こうね」

 マックスは出来るだけ彼女との間を取りつつ、そして尚且なおかつ彼女をなだめる。
 しかし彼は絶対にアナベルの間合いには入らない、何故なら命が惜しいからだっっ!!
 だがそんな彼らを余所にラファエルは胸の中に倒れてきたエヴァを逃がさないよう腕に力を込める。

「陛下、如何いかがなさいました?」

 エヴァは何事かあったのかと首を傾げて上目遣いにラファエルに問うた。
 その仕草は男のラファエルの情欲を駆り立てるには十分だったが、何分彼女は何処までも無自覚である。

「陛下?」
「――――て欲しいっっ」
「?」

 ラファエルの腕の中で何の事だろうとなおも首を傾げ、上目遣いのまま彼を見つめるエヴァを彼は掻き抱く。
 一方彼女は何故抱きしめられているのかが分からずただなされるがままになっている。

「陛下? 如何いかがなさいました?」

 体調でも悪いのか?
 それとももう夜も遅いのだ、日中政務に忙殺されているのだから疲れて眠くなってしまったのではないかと単純にエヴァは思った。
 もし疲れて眠いのならばもう休まなければ身体を壊してしまうだろうと考えた彼女は……。

「陛下、お疲れなのでしょうか? お疲れならばもうお休みにならなければいけませんわ」

 そう言ってにっこりと無邪気な、無邪気すぎるくらい可愛い笑みを浮かべて言う。
 だが自身の腕の中でそんな可愛い事を言われたラファエルからすれば、無垢な乙女に抱いていた情欲がさらに高まるのは当然だった。
 そして彼女を抱きしめたまま彼女の頭の上に自身の顎を載せて彼は言う。

「ライアーンには帰らないで欲しい、こうしてずっと私の傍にいて欲しいのだ。それにシャロンは滅びはしたがまだそなたを狙うアーロンは生きている」
「生きて――――、あ、そう……ですね。あのお方は生きていらっしゃるのですもの……ね」

 そう小さく呟いた腕の中の乙女は見る間にその表情を曇らせていく。
 そんな愛らしい乙女の小さな顎を指ですくい、すっとラファエルの顔を見上げる彼女に自身の瞳を彼女の瞳に絡ませる。

「そんなに悲しい表情かおをしないで、私が必ずアーロンの息の根を止めるから……。貴女に必ず自由を約束する、だからどうか私と共に生きて欲しい、愛するエヴァンジェリン。最初こそはギ-の、友人の娘に過ぎなかったのだが今は違う、貴女は私の最愛なる存在なのだ。どうか私と共にこれからも生きて欲しい!!」

 熱をはらみ男性特有の色香を滲ませた声音で、ラファエルはエヴァの耳元で囁くように言う。

 どうか俺を拒まず受け入れて欲しい……!!

 囁くというよりそれは重た過ぎるくらいの懇願といった方が正しいだろう。
 何といっても14歳も年下も乙女に縋りつく様な想いなのだ。
 こんな重過ぎる想いを打ち明ければ嫌われるかもしれない――――が、もう遅い。
 想いはもう彼女に伝えてしまった。
 後は彼女がどう判断してくれるのか?
 それはまさに判決を言い渡される被告人の気持ちと変わらない。

 有罪または無罪か――――。
 受け入れないのか、受け入れてくれるのか……。
 ラファエル自身の心臓はこれでもかというくらい早鐘を打っているのが、全身のあらゆる感覚という感覚で伝わってくる。
 きっと腕の中にいるエヴァにもその音が伝わっているのではないかと思う程だ。
 そうして数分経ってエヴァはラファエルの瞳を真っ直ぐ見詰めたまま言葉を紡ぐ。

「はい、承知致しました陛下」
「エヴァンジェリン!!」
「何もおっしゃらなくていいのです、あの方が生きている以上陛下は私を護って下さるのでしょう? ならば私は陛下のお傍にいます」
「――――その言葉だけでいいっっ!! 貴女を愛しているエヴァンジェリン!!」

 ラファエルはその溢れんばかりの喜びを表現するかの様に腕の中の乙女を更に力強く掻き抱く。
 エヴァは抱きしめられた腕の中で彼の体温をその華奢な身体で感じると、彼女の胸がとくん――――と一瞬心臓が跳ねた。


 これは何……?
 少し胸がざわめくのは何かしら……?
 もしかしてこれは――――そう、最近不摂生ばかりしていたものだから何か病の兆候ではないのかしら……?

 とくんとくん――――。

 何、この胸の動悸は?
 それから陛下のお身体に触れている所からじわじわと熱が私の身体へと伝わってくる。
 でもそれは決して不快ではないのだけれど、でも昔国にいた頃お父様に抱かれている時とは全く違う事だけはわかるわ。

 何故って?
 陛下の腕の中は少しくすぐったい様でお父様の腕の中とは違う何とも言えない安心感がある。
 そうね、このまま何時でも安心して……眠って――――…。

「エヴァ? エヴァンジェリン?」

 ラファエルは急に腕の中の愛する乙女の身体より力が抜けていくのに気付き、優しく呼びかけるが勿論返事はない。
 耳を澄まし聞こえてくるのは健やかな寝息だった。
 今はもう深夜の2時を回っている。
 本来ならばエヴァはもう就寝していても可笑しくはないのだ。
 正式にラファエルへ10年ぶりに挨拶をした緊張したゆえか、彼女は彼の腕の中でどうやら寝落ちしたらしい。
 そんなエヴァをラファエルはゆっくりと優しい動作で横抱きにする。
 彼の腕にかかる重さはとても心地良い重さだった。
 そして抱き抱える際に彼女の胸元へ偶然近づいた所為せいかエヴァの甘く芳しい匂いが鼻腔より脳へと突き抜け、下半身に血流が集結しそうになるのを気力で回避した。
 だが、一度身体が覚えてしまった匂いはほんの些細な匂いでも雄の悲しい性のなせるわざなのか、拾うまいと理性では思ってしまうが現実は彼女の匂いを一つ残らず掻き集める様にして拾ってしまうのだ。
 その度に下半身は素直に反応しようとする。

 そんなラファエルを知らず腕の中の眠り姫は18歳なのにその寝顔はまだまだあどけなさが残っている。
 命を掛けても護りたい存在。
 いや、絶対何が何でも護り抜きアーロンを倒しそして彼女の自由を手に入れる!!
 そうして眠れる姫の額にそっとキスを落とす――――。

「――――!!」
「アナベルか」

 ラファエルは蕩けた表情かおでエヴァを見つめていた瞳のまま視線をアナベルへと向ければ――――っっ!?

「ふっ、ふざけるなっっ!!」
「へ、陛下っっ、もう限界ですっっ!!」

 アナベルの怒髪天を貫く様な罵声とは正反対に哀れなくらいボロ雑巾と化しつつあるマックスの悲壮な叫びが同時に発せられた。
 彼女は怒りで顔を真っ赤にしその姿はもう般若と化したままラファエルの許へとズンズン近づいていく。
 ラファエルは少し身構えるも両腕は愛しいエヴァが健やかに眠っている為防御等取れよう筈もない。
 5m程先では既にマックスは床のボロ雑巾と化し身動きが取れない状態だ。
 しかしマックスは医師とはいえど元は騎士なのだ。
 それも剣の腕はラファエルと同格の筈……。

 アナベルは無言のままラファエルの前に着くとエヴァを素早く奪い取り、彼女を起こさない様に細心の注意を払って横抱きにする。

「このっっ!!」
「はぁ? そなた無礼にも――――っっ!?」

 エヴァを起こさない様極力小さな声で以って、そのくせドスの利いた低い声音で、アナベルはラファエルに向かって言い放つ。
 一方ラファエルとてアナベルに言われたままでいる筈がない。
 エヴァには正式に愛を告白したのだ。
 しかも彼女は『』と了承してくれたのだ。
 恋人同士の遣り取りを侍女に一々いちいち言われる必要等ないのだっっ!!
 おまけに一国の王を捕まえて何と言った?

「何度でも言うわ、この破廉恥けだもの王ってねっっ!!」
「少々無礼ではないか、幾ら姫の侍女とは――――」
「ご自身の下半身をじっくりご覧になって頂きたいものですわ獣陛下っっ!! そのお姿は実に言葉通りにしか見えませんからね。我が主……ライアーンの清廉せいれんな百合には絶対的に不似合いなものでしょう」

 清々すがすがしい程に軽蔑しきった視線でアナベルは、ラファエルの下半身へ視線を向ける。
 彼もまた自身の下半身を見ると――――っっ!?
 服越しからでもわかるくらい彼の昂ぶりは見事に存在を示していたのだ!!
 きっと彼女の甘い匂いがラファエルの雄である部分を呼び覚ませたのだろう。
 だがそんなラファエルに尚もアナベルは畳み掛ける様に、また何故か憐れむような口調で述べる。


「陛下、お言葉ですが明日もう一度エヴァ様に先程の件をお確かめになった方が宜しいかと思われます」
「何をだっっ」

 あからさまに不快を示すラファエルに構わず彼女は続けて言う。

「エヴァ様は昔よりお休み前になるとなんでも『』とお可愛らしい子供の様なお返事をなさいますの。ですから今回も……」

 エヴァは本心からラファエルへ恋をしてはいないのでは……?

 そう言ってアナベルはくすくす笑いながら男二人を放ったまま、宝物の様にエヴァを大切に抱き上げ彼女の寝室へと向かったのだった。
 そして残された男達――――少なくともその言葉を聞いたラファエルの下半身はあっという間に元に戻ったのは言うまでもない。
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