王妃様は真実の愛を探す

雪乃

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第一部  第三章   過去2年前

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「すまんっっ、悪いっ!!」

 診察終了間際にジェンセンは急いで来たのだろう、息せき切って大股でドシドシと診療所へとやってきた勢いのまま前置きなしでフィオへ謝っている。
 当のフィオは何の事だかわからないといった様子だ。
 しかもジェンセンは何度も彼女に謝罪をしている。
 フィオにしても意味もわからず謝られた所で困るのだが……。

「ジェンセンさん、そんなに謝らないで下さい。私はジェンセンさんに謝られる事なんてされてない……う~ん迷惑な事はなくはないのですけれど、でもそんなに必死になって謝る必要はないですから」

 実際この3カ月の間用事もなく診療所へやってくるのは迷惑であったが、何もこんなに謝罪して貰うモノでもないとフィオは思っていた。

「怒ってないのか?」
「何故? 如何どうして怒る必要があるのですか?」

 はい全く……とフィオは言う。
 そんなフィオにジェンセンは紅い髪を掻き上げながらバツが悪そうにぼやいてみせる。

「おっ、俺と一緒に、俺の親に紹介すると言っただろ?」

 ジェンセンはお祭り見物にかこつけて彼の両親へ紹介する――――という心算つもりだったのだが、何が如何どうして彼のお目出度おめでたい脳内お花畑によりいつの間にか勝手にそう変換され、事になってしまっていた。
 実に残念なお花畑である。
 勿論そのどちらもフィオは色よい返事をした心算等一切ない。
 そして親に紹介される意味合いもフィオはわかっていないのだから……当然返事はジェンセンにとって毎度お馴染みのとなってしまうのも頷ける。

「私、別にジェンセンさんのご両親にお会いしたいなんて思ってないので気にしないで下さい。それよりも今はお仕事中なのでしょう? 早く戻らないと怒られますよ」
「フィ……フィオちゃん〰〰〰〰っっ」
「あっ、いたいた副団長探しましたよっっ」
「何か用かって、俺は今忙しいんだっ!!」
「何言ってるんですかぁ、陛下よりが出たでしょ!! もう団長が副団長いないって怒ってますから今直ぐ戻って下さい!!」
「おっ、おいっ、放せって!! 俺はまだ用事が済んでないん――――っっ!?」

 同じ第二騎士団の団員であるジェンセンの直属の配下であるレクスターが探しにやってきた。
 そして今彼は問答無用とばかりにジェンセンの首根っこを掴んで馬止めまでズルズルと引っ張っていく。
 無様に引き摺られながらもジェンセンは諦めきれず大きな声で「フィオちゃん〰〰〰〰」と叫んでいる。
 そんな諦めの悪い彼にフィオは馬止め近くまで追いかけ彼に声を掛けた。

「ジェンセンさん、ちゃんと働いて下さい。――――です」

 そう言ってにこりと可憐な笑みを浮かべる。

「フィオちゃん、そこはそんな言葉ではなく『』くらいの優しいお言葉ってモノはないのかな???」

 馬上からジェンセンはフィオへ懇願するが……。

「――――ないですね、私ジェンセンさんの事何も思っていませんから。あっ、でも怪我には気をつけて下さいね、マックスも忙しいので……」

 何時も通リのであった。

「フィオちゃん、連れないよ〰〰〰〰」

 ジェンセンはぶつぶつ文句を言いながらレクスターに引っ張られる様にして帰って行った。
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