王妃様は真実の愛を探す

雪乃

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第一部  第二章  (2)三国の過去

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 ラファエルが15歳の時ある1人の少女と出会い恋をした――――がその初恋とも言える甘い恋は、全て宿敵シャロンが彼を殺害する為の策略であった。
 そうとも知らず彼は全身全霊を込めて愛した結果、彼の母親とも言える大切な乳母が彼を守る為に右足に大きな怪我を負ってしまう。
 ラファエルの実母である王妃は身体の弱い女性であったが為、彼を産んで間もなく亡くなっていた。
 だから彼女は彼にとって母親も同然だった。
 また愛していた女は迷う事なく彼に再び刃を向け、ラファエルの殺害が失敗だと悟ると証拠を隠滅するかの様に彼の目の前で自らその命を散らせたのだ。

 夢から覚めた彼は傷を負った乳母に何度も謝罪した。
 そして二度とこの様な失敗はしないと、女には決して溺れまいと心に誓った。
 まぁそんな事もあり女嫌いに拍車が倍速で掛ってしまったのは言うまでもない。
 だからライアーン王へ持ちかけた計画に何の躊躇ためらいもなく対応した。
 ライアーンとルガートの両国を守る為だけ……そして上手くいけば友人の娘の病も少しは改善するかもしれない。
 ただそれだけだった。
 友人の娘には少々……否かなり無体をいてしまう事になるだろうがそれも致し方ない事。
 後は彼女自身が強運の持ち主でいてくれるのを願うだけ。

 ず彼らの策としてライアーンは表向き実際後方支援でシャロンに加勢する。
 暗にルガートと繋がっていると思われない為にも、そして裏切り者達に余計な疑念を持たせない為でもあった。
 結果的にシャロンが大敗をしてしまった所為せいでライアーンも敗戦国の汚名を背負う事になるがそれもあらかじめ予定通りだ。
 次にシャロンの王侯貴族の処刑を行ったが王太子だけはいまだ何処に潜んでいるのかがわからない事が想定外だった。
 シャロンの元王太子は直接戦場に出る事は少ない。
 何時も陰で糸を引いている陰険で粘着質な性格の人間だ。
 だから戦で勝敗を決した瞬間即シャロンへおもむき王城に潜んでいると思われたのだが、危機を感じたのか彼は国民を捨て逸早いちはやく国外へ脱出した後だった。
 今でも捜索は続けているが中々網に引っ掛からないのが何とももどかしい。

 そして最後に敗戦国としてライアーンは自国の王女であるエヴァンジェリンを差し出す事。
 これは本来ならば必要ないものだが、シャロンの王太子が彼女へ異常に執着しており、そして環境を極限までに変える事で失感情症という病より彼女を解き放つ為でもあった。
 王女として暮らしていれば何不自由する事もない。
 そんな真綿で包まれている生活では彼女の病は治らないだろうと、マックスがラファエルや彼女の父でもあるライアーン王へ助言をしたのだ。
 それにライアーンそしてルガートのどちらにいようが彼女が狙われる事に変わりはない。
 ただルガートにはライアーンにはない隠れ場所が存在した。
 だからこそ多少……いや、危険は伴うが彼女に安全な場所で人間らしさを取り戻せたいという思いもあり、ライアーン王は渋々ながら妻である王妃を突き伏せこの計画に賛同したのだ。

 形だけルガートの王妃として執務室で結婚証明書のサインだけ記入をさせ、王宮の奥にある寂れた離宮に放り込む。
 勿論この計画はベイントン伯爵も同意しており娘であるアナベルへ生活の全てを叩き込み、ただ優しくするだけでなく生きる事の素晴らしさ、そして彼女が心から生きたいっ、自由になりたいと思える様にサポートをする事となる。
 自ら動かなければ食べる事も眠る場所もない現実をその幼い身体に教え、自然に防衛本能として生への執着が見られるかもしれないという賭け同然の策だった。
 そんな無謀とも言える策をするにあたって幾ら女性嫌いだからと言う彼が何もしていない訳ではなかった。
 彼女が入国するまでにラファエル自身で暇を見つけては隠し通路が使用出来るかをチェックをしてみたり、井戸水も問題ないかも調べていた。
 何より火を使う為に魔石は必要不可欠だったからしてそれを至る所に置いたのだが、これは後にアナベルより「」とクレームがあった。
 食糧も差し入れをするという彼を反対したのもアナベルだ。

 彼女は2人で慎ましやかに生きていく事でエヴァンジェリンに感情を取り戻したいと願っていたのだ。
 ルガートへ輿入れする時にエヴァンジェリンの母である王妃より大量の焼き菓子に金貨と直ぐに金に換えられる宝飾品を持たせられたが、それも一時凌ぎにしかならない。
 然も計画は長期戦になるに違いないと踏んだアナベルは、生きていく為にお金を稼ぐ必要があると考えたのだ。
 そう、都合のいい時間に働いてお給金が良い所で健全な職場……また、一応何でもするとは言ったが曲がりなりにも彼女は伯爵令嬢だ。
 苦労はしても自分の価値はおとしめたくはないという。
 だから就職先を願い出たアナベルにラファエルも同意し、彼の乳母の親戚が経営している食堂に口を利いたのである。
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