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第三章  お城からのお触れと今更ながらに気づく諸事情

1  今更的な世界背景やその他諸々  天音Side

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 いやはや時間の流れは速いもの。
 そして私は今になってこの国と言うのか、いやいやこの世界観について改めて理解をさせられる事となった。


 まあドリゼラの記憶を吸収する事となったあの衝撃的な日より、よくよく考えてみれば私は碌に外出らしい外出をしてはいなかったのである。
 妹のアナはそれこそ毎日の様に王都にあるお気に入りのカフェへ日参していたと言うのにだっっ。
 姉の私はと言えば偏に遠くない先の未来の安泰の為だけに社交も何もかも棚と言う棚へ放り投げ、シンデレラいやいやエラと良好な関係を何としても構築しようと奔走していたのである。

 そう、これも全ては私達親子の穏やかで幸せな老後……ではなくっ、まったりと平和な日々を送る為だけのもの。

 うん、お義父様は亡くなられたのだからここは穏便にカルリエ男爵家の家督をエラに――――ってあーエラは将来この国の王妃様になる事が決まっているのだから……そう、今それこそが問題でもあるのだ。

 だって今はまだ王子様のお妃さまを決める舞踏会の招待状でさえ届いてはいない。

 物語で言えばまだまだ序盤。

 そこへも部の私が行き成りエラが王子様のお妃さまになるんですって言っても流石に誰も信じないどころか、気の触れた娘だと後ろ指を指されるだけならまだいい。
 下手をすれば……いやいやほぼほぼ確実に王室への不敬罪若しくは虚言を吐いたと言って投獄されるだろう。
 それも恐らく罪に問われるのは私だけではない筈。

 そう、何処の世界でもううん、貴族社会のある国だからこそ一人のお馬鹿な行動のお陰で一族郎党それに連なる者皆全てが全て罰せられる。
 前世の様な法治国家でない――――あの平和な日本でさえもある意味ネットやマスコミ達によって犯罪者の家族達は社会的に抹殺されるのだもん。

 うん、あの平和ボケした国でさえもね。

 だからして今ドリゼラとして生きるこの世界じゃあ前世以上に慎重に動かなくては気づかぬ内に己の首だけじゃあなく、家族親戚顔も知らない人たちまで巻き込んでしまい兼ねない。
 
 私としてはさっさとカミングアウトして舞台から退場したいのだけれどもここは何としても我慢をし、穏便且つ平和的にカルリエ家より親子三人静かに脱出しなければいけないと言うのに、現実は何処までも優しくは――――ない。


「ねぇドリゼラ義姉様ぁ――――って、これやっておいてくれたのね。ラッキーっ、有難う義姉様っっ」

 そう言ってキラキラと輝く金色の髪を人差し指に絡めつつ能天気な声を掛けてきたのは何を隠そうかの物語のヒロインでもあるシンデレラならぬエラー―――であるっっ。
 お鍋の中でコトコトと美味しそうな匂いのする方へと形の良い小さな鼻をクンクンと可愛らしく嗅ぐ仕草をすれば、笑顔でクリームシチューの味見をしている。

「美味しいっ、ほんっとうにお料理が上手よねお義姉様って」
「ソレハドウモアリガトウ」
「嫌だわお義姉様ってば、私は褒めているのよ。だって私じゃあこんなに美味しくなんか出来ないもの」

 うん、そうだね。
 確かにあんたには出来ないだろう。
 それはあの日から十分理解しているし、また私は前世でもお料理やお菓子作りが嫌いでもなかったからこれくらいどうって事もない。

 でもさ、棒読み返事くらいは許して欲しいよ。

 何と言ってもうん、ある意味ここまで物語と違うなんて一体あの時の私は気づく訳ないじゃんっっ。
 はっきり言って今でもめっちゃ信じられない事ばかりなんだからね。
 
 そう、まさか……そのまさかですよっっ。
 物語の中と現実ではこんなに違うって誰が思う?
 
 いや、誰も思わないと思うわ。
 だって、そうだってあのシンデレラがあろう事かだなんて一体何処の誰が信じるって言うのよっっ!!

 そして現在そのシンデレラならぬエラを虐める側の私がよっ、今や立派なこのカルリエ家の主婦となっているのだっっ。
 
 しかもそれだけじゃあないっっ。
 抑々そもそもこの世界は物語とは全くの別物で、私の理解を遥か斜め上をさせられるずぶりと貫く設定となっていたのである。

 本当に今更であり、私を悩ますモノは諸々と言うより山のようにある。
 そして今私は違う意味でもこのカルリエ家より無事親子三人脱出し、一刻も早く元のトレメイン子爵家へと戻りたい!!
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