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第二章  こうして物語はこうしてゆっくりとでも確実に動いていく?

11 ゾンビが部屋へとやってきました?  天音Side  Ⅱ

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 そう、このカルリエ男爵家の当主は現在お母様だけれど、その後を継ぐのはエラと男爵家の分家筋に当たる男性なのよ。

 勿論その二人は後を継ぐのだから近い将来婚約を交わし結婚するのが普通なのだけれど、でもエラの未来は物語通りならばううん、確実にエラはこの国の王妃様になるのだから次の継承者はカルリエ家の分家筋の男性へとなるわね。
 そうして私はいずと言えばいずれこの家を出てトレメイン家を継ぐでしょう。
 残るアナの未来は、まだ未定ね。
 彼女は背負わなければいけないものを今の所と言うかこの先もない。
 と言う事は狙われる理由も不明だったりする。

 これがエラかお母様だったら話の筋は通るし、俄然わかり易い。
 
「ね、姉様助け……って、止め、てエドモン!!」

 おっと今は考えに耽っている場合じゃあないわっっ。

 何とかエドモンからあの焼き菓子を取り戻してって、まあ素手で触っても死なないわ……よね。
 ん、大丈夫かな。
 エドモンはと言えば常日頃白手袋をしているから今も素手ではない。

 一方こちらは夜だし、然も自宅でまったりと寛いでいるのだもの。
 当然――――だわ。
 
 いっその事何かで頭を殴って気絶をさせれば……いやいやそれはそれで犯罪行為だわ。
 幾ら何でもやり過ぎよ。
 エラとのバッドエンドを回避する前に、執事を殺して別の意味で死亡フラグが立ってしまうわっっ。
 
「きゃ、いやっ、い、嫌よ姉様っっ」

 その間にもエドモンはもう力ずくでアナを抱え込みつつ焼き菓子を口へ運ぼうとしている!!
 兎に角考える前に行動あるのみ!!

 私を無視しているのを良い事に、私は堂々と彼の前からアナの口へ入れられようとしている焼き菓子を引っ手繰り、一瞬訳がわからないと言うエドモンの隙をついて燃え盛る暖炉の中へとそれを素早く放り込む。

 そして素手で触ったものだから、毒薬なんて考え過ぎなのかもしれない。
 でも用心を越した事なんてないじゃない。
 前世では直ぐに洗面所や台所という水場が近くにあったけれど、この世界ではその様なものは残念ながら近くにはない。
 その代わり彼が持って来た紅茶がある。
 まだ砂糖も入れてないしきっとべたつかない筈。

 そうして私は紅茶で手をすすぐ。
 持っていたハンカチで手を拭いていると――――。

「きゃああああぁぁぁ……エドモン!!」
「はい!?」

 何とエドモンは暖炉でもう恐らく炭と化しているだろう焼き菓子を今直ぐにでも拾うべく、燃え盛る炎の中へ飛び込もうとしていたわ。
 そして彼のその様子に何の躊躇も見られない。

 凄く怖い――――。

 本当に怖いけれど今止めなければ炭になるものがもう一つ増えてしまう。
 あーそれだけは是非とも止めて頂きたいわ。
 だから私はありったけの力を込めて彼の頬をはたく。

「エドモン馬鹿な真似はお止めなさい。そして今直ぐ私の部屋より出て行きなさい。これは命令です!!」
「め、命……令」

 光のない虚ろな表情が凄く不気味今で仕方がない。
 余りの恐怖で自分自身の身体がガタガタと小刻みに震えてしまう。
 歯がカチカチと小さな音を立てて震えてしまうのを私は必死に堪えて再度命令する。

「そうよこれは命令です、さぁ今直ぐに出て行きなさい!!」
「命令、エラ様……命令」

 エラ様ってあのエラ?

 何かぼそぼそと口の中で呟きながらエドモンは、何時も背筋をぴんと伸ばし執事然としていた彼とは真逆で、背を丸めてふらふらと私の部屋より出て行った。

「「こ、怖か……怖かった〰〰〰〰っっ!?」」

 私とアナは安全が確認されたと同時に二人して抱きあいながらへなへなと、漫画みたいに床へと力が抜ける様に座り込む。

 一体あれはなんだったのだろう。
 お化け?
 ゾンビ、あぁそうゾンビそのものだわ。
 でも本当に怖かった。

 その後アナは戻って来たアメリアに付き添われて部屋へと戻ったの。
 部屋へ戻る寸前まで流石に能天気なアナでもずっと泣いていたわね。
 まあ見ている側の私が震えるくらいに怖かったのだもの。
 被害者となるアナの恐怖は、きっと私の想像以上のものだったと思う。

 それからの私はと言えばエドモンゾンビが相当堪えたのかもしれない。
 湯浴みもせずにそのまま朝までベッドで突っ伏す様に眠ってしまったわ。
 
 その翌朝と言うのかまでに屋敷内ががらりと変わっているとも知らずに――――ね。
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