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第二章 こうして物語はこうしてゆっくりとでも確実に動いていく?
7 悪魔の甘い囁き エラSide Ⅱ
しおりを挟む今私の目の前にいる執事に頼んだのはたった二つ。
ああ正確には三つね。
一つ目はある薬を手に入れて貰う事。
それは魔女の眠り薬。
はっきり言ってこれは毒薬だ。
本当に魔女がいるかなんて私にはわからないし別に興味もない。
でもある意味私を舞踏会へ連れて行ってくれる魔法使いのお婆さんがいるくらいなんだからさ、きっと現実にいるのだろうなって知らんけれど。
でも何を以って魔女と言うのかはめっちゃ不明。
それにはっきり言ってこの世界は私にとってめっちゃ不便な所でしかない。
だってそうでしょ。
この世界には美味しいご飯とは言ってもただ肉を焼いたり煮たりする程度で、前世の様なファストフードもなければ美味しいスイーツもない。
一応裕福な家の娘だから衣食住の心配はないけれど、硬いパンや余り味のしない料理はもうとっくに飽き飽きしている。
あー唐揚げをこれでもかと言うくらいめっちゃ食べたい。
フライドポテトやそうそうポテチっっ。
チョコやスナック菓子がめっちゃ恋しい!!
よーしっ、私が将来王妃になれば絶対何が何でも食生活を改善しなきゃね。
おっとまたまた話が逸れてしまったじゃない。
まあ兎に角よ、街外れの森の近くにひっそりと隠れ棲む様にして住んでいる一人の老婆がいるらしい。
そしてその老婆が噂の魔女と言うワケ。
何でも昔メイから聞いた話によると、その老婆から作られる薬は何でもめっちゃ効果があるらしいの。
医師や薬師が作る薬よりも効果は絶大だと言うんだって。
ただしその老婆もしっかり客の足元を見ているのよね。
要は良い薬を売ってやる代わりに、その対価はめっちゃ高いっっ。
うん何処にでもいるだろう典型的な強欲婆って感じよね、あはは。
どうやらその魔女はこの世界では何とも生き難いらしく、それなりにお金が掛かるらしい。
後は秘密保持と言うモノもあるらしくってでも詳しくは知らないけれど、何でもお互いにお互いの顔を隠して交渉が行われるとか……。
だから今回の事にはまさにもってこいと言う訳よ。
顔を隠すんだからエドモンだって事も老婆にはわからないし、エドモンにも老婆の顔を見る事は出来ない。
そして用意させた金貨は言われた額よりもちゃんと奮発しておいたわ。
五枚――――くらいね。
あのねえ、ケチと言うかもしれないけれどそれだって大したものなのよ。
何と言っても金貨一枚で普通の平民なら何十年か遊んで暮らせるって聞いた事があるもの。
そうして私は望み通り魔女の眠り薬ともう一つは妖精の誘惑と言う薬。
名前からしてちょっと妖しい感じがするんだけれど、これは媚薬とかじゃあなく人の心を操る為のもの。
うんこれは勿論儘母とアナスタシアに使う予定。
先ず最初に魔女の眠り薬を出発前のお父様のピルケースにそっと忍ばせたの。
何と言っても魔女の眠り薬は真っ白な粉薬。
一度混ぜてしまえばね、それに当然包み紙も同じ色にしたでしょ。
だから混ぜた私ですらもうわからない。
ふふ、ああ見えてお父様は胃の調子が直ぐに悪くなるのよ。
旅先なんて直ぐよ、直ぐ。
何時もお仕事で出掛けられる度に私がお薬を整えてあげるの。
だから今回もそうしたのよ。
でも……お父様ってば『これはもう今回だけだよ、これからはこういう事は全てアンナがしてくれるからね』だってっっ。
なあに、一体何様なのっっ。
あんなに私の事を愛おしいとか言っていた癖にっ、ちょっと私と違うタイプの女がいるからってっ、今まで何でも言う事を聞いていた癖にっ、毎日会いに来た癖にっ、私を無視するなんてそんな事絶対に許せないし許さない!!
許さないっ、許さないっ、許さないっ、許さないっ、許さないっ、許さないっ、許さないっ、絶対に許してやるもんですかっっ!!
モブの分際で私を無視するなんてっっ!!
私は誰よりも愛されるべき存在っっ。
そうよっ、この世界で誰よりも選ばれた存在なのっっ。
ふふふこの私を無視したのだもの、だからお父様はもういらない。
だからね死んで当然なの。
それに物語でもお父様は早々に死んでしまうでしょ。
そう、本当に仕方がない事なのよ。
そうして何もなかったかのように薬をセットしたら、後は何時お父様が魔女の眠り薬を選ぶのかはお父様自身の運次第。
本当はもっと早くに飲むのかと思ったけれども、まさかひと月近くも生き延びるなんてね。
おまけに話を聞けば御者にも薬を渡したらしいじゃない。
あの薬は眠る様に死ぬらしいからきっとそれ故の事故死だったのね。
そして今私はそれとなくまた引き出しを開け、一つの包み紙を手の中に音を立てずにゆっくりと握り締める。
「エラお嬢様、わ、私はもう恐ろしくて恐ろしくて本当に旦那様は……っっ!?」
私は怯えるエドモンに長椅子へ座る様にそっと優しく促す。
そして何気ない仕草でお茶を淹れ、温かなカップを彼の前へと差し出したわ。
「ねぇエドモン、あなたは何に怯えているの? わたし? それとも……」
「私は自分が恐ろしいのですっ、慾に負けて旦那様をっっ!?」
「あなたは慾に負けたの? でもどんな慾なのかしら」
あーあめっちゃ馬鹿みたいに怯えちゃってさ、全身ガタガタ震わせちゃって本当にいい齢した男が情けな~い。
何時もはめっちゃ取り澄ました表情をしている癖に、いざとなるとこれだもんね。
私はそんなエドモンの震えている手を両手で覆うように優しく包み込み、それから可愛らしい仕草で以って俯く彼の顔をぐいっと覗き込む。
「お……嬢様」
「エラよ、このお部屋にいる時は私はあなたのエラよ。ね、エドモン……私の事が怖い?」
「い、いけませんお嬢……」
「お嬢様でなくエラ!!」
「……え、エラ?」
「そうよ、よく出来たわエドモン。お父様がいなくなって凄く悲しいけれど、でもこれで私達はずーっと一緒にいられるのよ」
「え、エラ……ほ、本当に?」
「ええ勿論よ、私のエドモンっっ」
「え、エラっ、エラっ、エラっ、私のっ、私だけのエラ!!」
「え、あ、ちょっっ!?」
ヤバっ、ちょっと煽り過ぎたかもっっ。
エドモンてば私の名前を叫ぶ毎にぐいぐいと自分の身体を私へ擦りつけるのと同時に、渾身の力を込めて私を抱き締めてきたっっ。
何処の世界でも男の力って半端ないっっ。
おまけに感情が昂ぶっているのか全然力加減てなものをしてくれなくて、私の身体はギシギシと音を立てて痛くて堪らない。
ちょ、ちょっとは力を加減しなさいよ!!
エラの身体はまだ15歳の乙女なんだからね!!
そこん所ちゃんと自覚しなさいってばぁっっ。
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