19 / 33
第二章 こうして物語はこうしてゆっくりとでも確実に動いていく?
4 物語の強制力なんかには負けない??? 天音Side Ⅱ
しおりを挟むえーっと、これってどういう事なのかな???
はっきり言って今、そう全く理解が追いつかない。
何故って?
そりゃあどう見てもこれは有り得ないでしょ――――ぉぉぉぉぉっっ!?
昨夜今世での人生に対し新たに熱く決意を表明した翌朝。
つまりたった今ね。
そう、たった今なのよ!!
何度も言う心算なんてないのだけれどっ、でもそれ程までに今私が混乱しているのだと理解して欲しいっっ。
どうしてそんなに混乱しているかですって!?
これが落ち着いていられますかってっっ。
何処の誰が信じられる?
朝起きたら全ての使用人が消えてしまっているなんてっ、ぜ―ったいに誰だって信じられないんだからぁ――――っっ!!
抑々私達貴族社会に属している人間の朝は遅い。
まあその代わり就寝が遅いのは否めないっちゃあ否めない。
これは転生して初めに驚いたものの一つでもある。
うーん大体何時も起きるのはお昼前かな。
それからうだうだと身支度をしてから食事をする。
それにお昼ご飯と言うモノが定着していないから、午後のお茶の時間は色々サンドウィッチ等の軽食も出されるの――――って今はそんな長閑な会話をしている時じゃあない!!
そうつまりですよ大体っ、呑気にゆっくりとお昼頃まで惰眠を貪っていた私が起きた頃にはっ、家中の使用人という使用人が一人もいなかったというワケっっ!!
大体何時も目覚めたと同時に部屋へ入ってくる私専従の侍女であり、お母様の専従侍女でもあるマリアを母に持つアメリアが、今日に限っては何時まで経っても私の許へ来なかったのが始まり。
何時もは私が呼ぶまでもなく、何でも卒なくこなすアメリアの不在に何やら違和感を感じてしまったのだけれどそれはそれ、最初から完璧な人間なんて何処の世界にもいやしないでしょ。
それに私は生粋のお嬢様ではない……いやいや生まれも育ちも生粋のお嬢様なのは間違いない。
しかしそんなお嬢様な私にはお母様達にはない前世の記憶と言うモノがある。
まあ簡単に言えば自分の事は自分ですると言う考えと行動力くらいは持っている。
正式なゴテゴテと飾り立てた重苦しいドレスを着るという事は無理だとしても、通常のデイドレスくらいならば私にも着る事は出来るのだ。
ただコルセットは残念ながら一人では身に付ける事は出来ない。
そこは淑女としてコルセットなしなのは如何なものかと問われれば私は声を大にして言いたいっっ。
締め付けるだけの下着なんて大っ嫌いっっ。
カモーンっ、可愛いブラとショーツ達!!
ただし声を大にして叫んだのはあくまでも私の部屋の中での事。
この世界では淑女が大声で叫ぶ行為も由々しき事だし、訳のわからない言葉を連発すると周囲から可哀想な目で見られる事は勿論、社交界より完全にいやいや即戒律の厳しい修道院へ放り込まれるらしい。
でも私達ルフェ王国の貴族はほぼほぼ魔族。
だからして修道院とは言っても聖なる神へその身を捧げて捧げてしまった場合、魔族の私達は無へと帰すの―――かしら。
混沌の母の身元へと還るのならばそれもアリなのかもしれない。
だが私の知っているこの国の修道院と言うのは読んで字の如く道を修る場所である。
魔族としての根性を強制的に叩き直されると言う、とんでもなく恐ろしい場所らしい。
何しろドリゼラの記憶では先代の魔王陛下の幼い頃に、当時未来の魔王となるには余りにもお優しいご気性故に先々代の王后陛下自ら冥界の隅にあると言うラボリック修道院へ数年間放り込まれたそうだ。
そして数年後無事にご帰還あそばされた先王陛下はそのお姿もだけれどもご気性から全て別人の様に、いやいやまさしく闇に生きる者の王たる威厳と底知れない恐ろしさを秘めておられたと、数千年経った今でも伝説となって私たち下位の貴族まで幅広く、うーんこの世界全ての者が知っていても可笑しくないと言っても過言ではない。
初めて聞いたのはドリゼラがまだまだ幼かった頃の事。
また大きな声では言えないけれども乳母よりその話を聞いたドリゼラはその夜余りの恐怖でおねしょをしたらしい――――ってっ、今更だけれどもこれは他人ごとではなく自分事なのだっっ。
そう私はドリゼラなのだから記憶だけでなく、当然その時の恐怖も共用している訳で……は、はっきり言って修道院と言う単語を言うのも聞くのも恐怖でしかないの。
だからして私が転生者だという事実はそういう意味合いも込めて何としても秘さねばならない。
それは偏に我が身と家族の安寧の為!!
まあ言ってみればそれだけこの世界が如何にも閉鎖的だという証拠でもあったりする。
兎に角私は気持ちを切り替えれば室内にある水盆で顔を洗い、簡単に身支度を済ませれば部屋を出るとまた直ぐに違和感を感じてしまう。
うんそこは溢れる程とまでとは言わない。
でもそれなりにこのカルリエ男爵家には使用人達が多いの。
なのに不思議な事に階段を下りて二階へ行っても誰一人として会わないのは何故?
食堂や遊戯室、サロンに音楽室や図書室と最初こそ遠慮はしていたものの、気がつけば片っ端から扉と言う扉を開け放ち私は使用人達を必死に探した。
そうして到頭使用人達の殆どがいるだろう一階へと降りていく。
何時もは誰かの話し声や動く音、静かな空間の中でも人の気配を嫌という程感じていたというのにっ、今は一切の気配が感じられないっっ。
広いフロアも今は悲しいかな私一人だけ。
何時もの様に階段の手摺を磨く者やモップを持って床を掃除する者もいない。
あ、そうそう忘れていたわ。
そうよあの人は絶対にいるっっ。
何時もの様に庭へ行けば老いた優しい庭師が――――っっ!?
私はドレスの裾を掴んで優雅に歩くなんてまどろっこしい事を今はしないっっ。
出来るだけ小走りで何時もそこにいるだろう庭師の許へと掛けて行く。
しかしその場所へ到着し辺りをきょろきょろと見回しても彼の姿が見当たらない。
もしかしたら違う場所で作業をしているのかも――――と、私は広い庭を当てもなく探し回るけれどやっぱり誰一人として見つかる事はなかった。
一体何が起こっているというのっっ⁉
私は訳のわからない不安を抱きつつも胸のドキドキが止まらない。
何処か――――まだ何処か見落としてはいない?
あっ、ある!!
あの場所ならきっといる!!
私は踵を返して屋敷の方へと走って戻る。
そうして向かった先は奥の階段!!
そこは本来使用人達だけが使用するもの。
広い地下の厨房へと続く道。
今まで屋敷の地下なんて行った事がないと言うよりも、良家の子女が行くべき場所ではないと教えられていた。
勿論前世の私に対してではない。
あくまでもドリゼラとしてね。
でも初めて赴く場所と言うのはなんだかとてもドキドキする。
カチャ。
カチャ?
何かが動く音?
ガッチャ――――ンン!!
おおおおっ、なんだか分からないけれど、なんか盛大に何かが割れた音みたい。
でも嬉しい。
何故って、それは決まっているじゃないっっ。
音がするという事は、つまり誰かがそこにいるって言う事なのよっっ。
だから私はさっきまで抱いていた諸々の不安や緊張感を気前よく全て放り投げ出していた。
それはもう盛大に全身をリラックスさせてしまったと言ってもいい。
私は先程までの緊張感より解放され、今は心地良い安心と安堵感に包まれていた。
だがそれは早計過ぎたのである。
まさかこの次の瞬間後、超爆弾級のストレスが私の許へ堕ちてくるなんて事を露とも知らずにね。
馬鹿みたいに平和ボケをした脳みそを自分自身で殴ってやりたい!!
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
囚われの公爵と自由を求める花~マザコン公爵は改心して妻を溺愛する~
無月公主
恋愛
この物語は、貴族社会を舞台に、サクレティアとクレノース公爵との奇妙で複雑な夫婦関係を描いたファンタジーロマンスです。サクレティアは、虐げられていた過去を背負いながらも、自分の自由と平和を求め、冷酷だった公爵クレノースと政略結婚を果たします。しかし、結婚後のクレノースは母親との異常な関係から解放されたことで、サクレティアに狂気じみた崇拝を抱くようになり、まるで彼女を神のように敬い始めます。サクレティアはこの歪んだ愛情に戸惑いながらも、彼の心の闇と向き合い、次第に彼の真実の姿を見つけ出そうとします。
奇妙な日常の中で彼女が手にした「自由」と、歪んだ愛の狭間で揺れ動く夫婦の関係。そして、彼らを取り巻く秘密と過去が少しずつ明かされていく――サクレティアは、クレノースの心を取り戻し、本来の彼を救うことができるのか?そして、二人の未来にはどんな運命が待ち受けているのか?
私はオタクに囲まれて逃げられない!
椿蛍
恋愛
私、新織鈴子(にいおりすずこ)、大手製菓会社に勤める28歳OL身。
職場では美人で頼れる先輩なんて言われている。
それは仮の姿。
真の姿はBL作家の新藤鈴々(しんどうりり)!
私の推しは営業部部長の一野瀬貴仁(いちのせたかひと)さん。
海外支店帰りの社長のお気に入り。
若くして部長になったイケメンエリート男。
そして、もう一人。
営業部のエース葉山晴葵(はやまはるき)君。
私の心のツートップ。
彼らをモデルにBL小説を書く日々。
二人を陰から見守りながら、毎日楽しく過ごしている。
そんな私に一野瀬部長が『付き合わないか?』なんて言ってきた。
なぜ私?
こんな私がハイスぺ部長となんか付き合えるわけない!
けれど、一野瀬部長にもなにやら秘密があるらしく―――?
【初出2021.10.15 改稿2023.6.27】
★気持ちは全年齢のつもり。念のためのR-15です。
★今回、話の特性上、BL表現含みます。ご了承ください。BL表現に苦手な方はススッーとスクロールしてください。
★また今作はラブコメに振り切っているので、お遊び要素が多いです。ご注意ください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
神々の仲間入りしました。
ラキレスト
ファンタジー
日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。
「私の娘として生まれ変わりませんか?」
「………、はいぃ!?」
女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。
(ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい)
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる