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第一章  転生先は物語と酷似している世界の中二人の転生者は……。

6  辛くて悲しくて辛い  Ⅱ

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 どれだけ時間が経ったのか、それともあれはほんの数分の事だったのかもしれない。

 だって今は一般人だけでなく救急車やお巡りさん、それにお医者さんもきたみたい。

 やったーっ、これでやっと助けて貰えるっっ。

 あぁ良かったぁ……ねぇ私はここにいるの。
 私も怪我をしているみたいだから早く手当てをして、それからなるべく早く病院へ連れて行って貰って、それに悪いのだけれど声が出ないから誰か私の代わりに家族へTELして貰えな……。

「――――もう駄目だ、そちらの怪我人を先に病院へ、まだ助かるかもしれないっ、急いでっっ!!」

 えっ、何を言っているの!?
 そして何がダメ――――なの???
 ちょっと待ってっ、ねぇ待って頂戴っっ!!

 白衣を着た30代くらいの男性が私へと近づき、そして何も語らず私にタグらしきものを付けた。

 あ、これってトリアージってやつ?
 怪我の状態のレベル分けでしょ?
 私はどのレベル……と思ったら、その男性が立ちあがると同時にトリアージカードがその風圧で私の視界へ入ってくる。

 なんとカードの色は――――だった。

 ちょっとその黒って何だかめっちゃ縁起悪い。
 緑とか黄色ならまだしも黒なんてね。
 そう言っていた私はなんだか無性に不安になってしまう。

 本当に助けて貰えるのか……なんてね。

 でもその不安は当たっていたのよ。

 暫くして私はストレッチャーに乗せられ病院へと搬送された。
 そして私は私の目の前で――――。

「15時53分死亡確認。家族さんが来られたら霊安室へお連れしてよ」

 何だかめっちゃ機械的な声。
 いや冷静だよね。
 そこに一片の感情もなく、私は私自身の死を告げられてしまった。

 あぁそうか、今ならばわかる。

 あの時痛みも苦しみもなかったのは既に死んでいたからなんだ。
 だから身体も動かなかったし、皆私を見て可哀想にって憐みの目で見ていたんだ。

 でもお生憎様っ、私は現在進行形で今も生きているわっっ。

 ちゃんと今も私の意思はあるしっ、ちゃんと周りを見る事も出来る!!
 だから私は死んでいるんじゃあなくって、まだちゃんと生きているのよっっ!!
 

 そんな私の心の声を誰一人として聞こえないのか、清々しいくらいに周りの看護師さん達にスルーされているその一方で、病院へ呼び出された家族がやって来ると動かない私の身体に抱きついているのだろうか。
 全く以って触られている感覚は――――ない。

 でも両親と友人達は動かない私を見てぐしゃぐしゃの顔で泣いていた。
 しかし泣くまではいいとして……でもっ、なんでかなぁ私の目の前で葬儀の準備はするし、勿論お葬式もね。
 そうして火葬場へと連れて行かれ――――。

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い――――っっ!!

 轟々と音を立てて私は高温の炎で棺ごと焼かれいく。
 もうめっちゃ熱くて辛くて悲しくてっ、何が何だか分からなくなった刹那――――。


 私は酸素も吸えない状態となり、全身汗だくとなってようやく覚醒する。

 その瞬間なのだろうね、私が梶原天音あまねからドリゼラ・トレメインとして覚醒したのは……。

 正確には今世のドリゼラを天音が乗っ取ったとでも言うのだろうか。

 私はドリゼラとして覚醒してから毎日毎晩同じ夢を見続ける。
 辛くて悲しくて辛い現実だった夢。

 ねぇ何時までこれを見なければいけないの?
 なんで私は死んでからも意識だけはあったの?
 どうしてあの時誰も助けて貰えなかったの?
 

 夢を見た後は何時も一人で広い寝台の上で膝を抱え、こうして何度も何度も自問自答を繰り返す。

 もう嫌だっっ。
 こんな辛い思いなんてすっぱりと忘れてしまいたいっっ。

 今の私はドリゼラとして生きているんだよ。

 それとも私はあの時何か忘れちゃいけない事なんてあったの?

 わからない。
 わからないけれど、もう絶対に見たくない。
 ねぇお願い神様、もし神様が本当にいるのならばこれ以上辛い思いをさせないで下さい。

 必ずエラを幸せにして見せるからっ、意地悪も絶対にしないからお願い。
 どうか私を悪から解き放ってっっ。


『――――よかろう。俺がその悪夢を喰ってやろう』
「え……?」

 まだ夜は明けてはいない……と言うのか夜明け前の筈。
 
 寝室の分厚いカーテンの所為せい
 いや違う、何ともねっとりとした漆黒の闇がねっとりとこの部屋を、私の肌へと纏わりつく?

 しかし――――だっ、抑々そもそもこの部屋は私とアナの部屋であり、私の寝台の横にはアナの寝台もあって、彼女はその寝台の上で大の字になってしっかりと熟睡している。

 そう、二人しかいない部屋に一人は起きていてもう一人は熟睡。
 なのに地獄の闇の底を這うような声が聞こえてしかもその声は明らかに男性のものでって、この時点で完全にアウトでしょっっ。

「あー完全に寝惚けたな私……」

 そうよね、こんな時間に、淑女の部屋に男性なんて存在する方が可笑しいのだ。

「きっと悪夢を見過ぎて幻聴でも聞こえたんでしょ」

 そうだ、きっとそう。
 何故ならあの声は今まで聞いた事のない声だったのだもの。
 寝惚けているのであれば夜明けまではまだ少し時間もある。
 うん、こういう時私のとる行動は――――一つ。

「おやすみなさい」

 わからない時は悩むよりも寝る事でなかった事にしよう。
 そうして前世でも三十年間無事に、あの瞬間までは生きてこられたのだから……。

 そうして私は悩む事もなく再び眠りの中へと堕ちていく。

『ふ、まあよい。俺は気の長い方だからな……』

 闇の中で形のない声が静かに響いていたのを私は、勿論アナも知らないまま何時の間にか纏わりつくような闇の気配も纏わりつく朝を迎える頃には消えていた。
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