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第一章  転生先は物語と酷似している世界の中二人の転生者は……。

5  辛くて悲しくて辛い記憶

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 あの日に限って私の仕事はお昼までだった。

 本当はフルタイムの筈だったのに、朝出勤して直ぐ上司より最近残業が多いからフレックスタイムを使って半日で帰りなさいと言われたのがそもそもフラグが立っていたんだろうね。

 つまりこれは全くの予定外の事であり週末まできっと、いやいや確定事項で仕事が忙しいからと敢えて何も予定を入れていなかったのに、こうも急に時間が出来てもね。
 それに何をするにしても半日では余りにも時間がなさ過ぎる。

 兎に角会社を出た私は仕事帰りにお気に入りのカフェでランチをして、それから気の向くままにショッピングをする事にした。
 
 うん丁度タイミング良くカフェも空いていたし、お気に入りのカルボナーラセットも美味しく食べられて私はとてもご機嫌だ。
 デザートのティラミスも甘過ぎず、それにほんのり芳しいコーヒースポンジと濃厚マスカルポーネチーズのミルフィーユ状となったものが口いっぱいに広がって、得も言われぬ幸せな気持ちにさせてくれる。

 そうやはり甘いものは正義であるっっ。

 しかも過度に甘くないものは超正義なのだ!!

 等と私は簡単にこの世の幸せへと浸りきっていたから全く気がつかなかった。
 本当におバカ丸出しで幸せに浸りきり、ルンルン気分で会計を済ませ、目の前にある大型ショッピングセンターへ向かうべく何も考えずに私はボケーっと交差点の信号待ちをしていた。


 キキキキキィィィ――――っっ!!


 最初に聞こえたのは急ブレーキをかける車の音。
 然も直ぐ近く?

 俯いていた頭を上げて目に入ったのは白――――⁉

 うんそれは多分白い車だと……思う。
 視界に入った白い車はスローモーッションの様に、それが私のいる交差点へと回転しながらも確実に近づいてくるっっ。

 交差点には私以外にも人はいた。
 でも何人かまでは分からない。
 私の様な社会人もいれば学生に、もっと幼い子を連れた母子もいたと……思う。
 だけど何故か私を含め、誰もが石でカッチコチに固められた様に身体がピクリとも動かない。
 
 このままじゃ死んじゃうっっ!?

 そう思った瞬間――――私の身体は見事に宙へと浮いた。

 その瞬間の後には痛いとか辛いなんて感覚は何故かなかった。
 車の音は勿論、誰の声も聞こえない。
 どうしてなのか私の耳には一つの生活音すらもない全くの無音状態。

 でも私の眼はしっかりと周囲を見えていた。

 相変わらず私の耳は何も聞こえないどころか身体……指一本すら動く事も出来なかったのだけれど、たった一つ周りの光景はしっかりと見えていた。
 
 そして見えていたお陰で状況は何とか理解する事が出来たの。
 そう、どうやらあの白い車が私達のいる歩道へと突っ込んできたらしい。

 私の位置から最初に見えるのは血だらけで座り込みながら泣いている女の子。
 その隣にいるのは彼女の母親なのかな?
 うん女の子の腰を抱え込むようにしてうつ伏せで倒れている女性がいる。

 次に白い車は信号機にも打つかっていたらしく信号機の柱もかなり変形しているし、車自体も損傷が激しいよね。

 そして私の近くにいたのは多分女子高生だったかな。
 でも生憎ながら彼女の姿は私の位置からじゃ見えないしわからない。

 無事だといいな。
 抑々そもそも私は信号機の傍にいたと言うのに、何故か今私がいる場所は信号機より約六mくらい離れたフェンスの傍にいるみたい。
 そうこうしている間に事故に気づいた人達がわらわらとこっちへ向かってやってくる。

 助けてくれるんだっっ。
 
 助けが来る――――ただそれだけで私の心はじわりと温かくなっていく。
 うんうんそうだよね、誰しも困っている時は皆お互い様だもんね。
 今回私は助けて貰う方だけれども、何時か困っている人がいたら率先して助けなきゃね。

 でも……何故か皆ね、どうしてなのか私の前を悲しげに見つめながら直ぐに通り過ぎてしまうの。

 女の子やその母親、周囲の人達の方へは行くのにどうしてっっ。

 ねぇ私も助けて欲しいんだよっっ!?
 声も出ないしっ、指一本動かす事も出来ないんだけれど目はしっかりと皆を見ているんだよっっ!!

 まあお蔭さまで痛みはないけれど、それでもちょっとこの状態可笑しいでしょっっ。
 怪我の具合から軽傷じゃあなく重傷なのだとは思うんだけれどっ、なのに誰も近づく事もなく当然声を掛けてもくれないっっ。
 
 ねぇお願いだからその憐みの目で見て遠ざからないで――――……っっ!!
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