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第二章  どうやら成人する前に色々と人生を詰んでいるみたいです

4  不審者には早々に退場して頂きましょう  

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「兎に角貴方は――――っっ!?」

 目の前のジャ○アンを放り出そうと決め、そして私が行動へ移そうとした刹那、それまで驚愕の余り息を潜めていたであろう伏兵達は不意ににょきりと頭を、いやいや口を出してきた。
 伏兵……ではなく私の可愛い乳姉妹のアンと侍女のエリーサなのだけれどもね。

「な、何者ですかっっ!? 事と次第によってはこのまま何もなかった事なんて断じて出来ませんっっ」

 震える声と身体を抑えつつあらん限りの声量で、ジャ○アンもといアンセルムへと叫んでいるのは、この三人の中で誰よりも控えめで大人しい淑女であるエリーサ。
 
 確かに彼は誰が見ても不審者だろうけれども今はそれより……。

「エリーサっ、兎に角大きな声で叫びましょうっっ。きっと近くに騎士達がいる筈よ。なのだから騎士達に捕えて貰いましょっっ」

 そんなエリーサと重なる様に声高に叫ぶのは、私の可愛い妹分で乳姉妹のアン=マリー。
 いやちょっとアン。

「姫姉様は私達が絶対にお護り致しますからっ、どうかこのろうぜきものの前へ行かないでっっ」

 最後の台詞を噛んでしまったわね、アン。

「兎に角お前は何者でっ、どうして姫姉様へ暴言を吐くのっっ。わ、わかったのであればちゃ、ちゃんと答えなさい!!」
「そ、そそそうでしてよっ、流石ですわアン=マリー様」
「いいえこのくらいなんでもなくてよ。そっ、それよりも私達が姫姉様をお護りしないとねエリーサ」
「はいいっ、ええっ、ここは一番年長の私がお二人をお護り致しますっっ。なんと申しましてもわ、私はリーナ様の専従侍女ですものっっ。将来の女王陛下の御為にささやかながらこの命……謹んで差し出してみせますわっっ」

 いやいや命なんてそう簡単に差し出さなくてもいいから……ねエリーサ。
 それにエリーサも一番年長だと言うけれど、そもそも私とはたった五つしか離れていないのよ。
 だからしてまだエリーサ自身も十分お子様なのだからして、取り敢えずまあちょっと二人共落ち着こうかと言って、はいそうですかとはいかないだろうな。

 建前上私は現在彼女達に護られている体なのだけれど、その二人の背後からでも十分過ぎる程わかってしまう。
 きっと二人の目の前にいる不審者もといジャ○アンが相当怖いのだろうね。
 何故ならこのエリアは普段静かで安全な場所なのだもん。
 今まで不審者の不の字さえない、この国で一番安心安全な場所だった筈なのに突然過ぎるわよね。
 しかし何故なにゆえ来年出会う筈の彼が入宮出来たのかが不思議だわ。

 まあ彼の登場にも驚きだけれど、一番驚いたのはアンとエリーサの行動よね。
 特にエリーサはアンよりも何かにつけて怖がりで臆病……げふんげふん、彼女はれっきとしたリングホルム子爵家の深窓の令嬢だもの。
 ただ常人よりも魔法に長けているという理由で態々わざわざ王宮へ伺候し、私付きの専従侍女兼話し相手コンパニオンとして仕えてくれているのだけれど、本来の彼女はお淑やかで内向的な性格なのよね。
 最近は私の影響もあってなのかそれともこんな私に呆れてしまったのかはわからないけれども、少しは前向きになってきたと思うのでも……。

 ううんアンは兎も角エリーサは随分強くなったと思うわ。
 だって今アンとエリーサの二人は声だけでなく全身を小刻みにガタガタと震わせながらも、果敢に私とジャ○アンの間で私を護る形で相手を睨んでいる……?
 いやいやきっと威嚇すらも出来ていない状態だろうけれどもっ、不審者=ジャ○アンを頑張って誰何すいかなんて事をしてくれている。
 本当ならばめっちゃ怖くて仕方ないだろうに、それでも必死に私を護ろうとしてくれる二人は、私にとってとても大切な……掛け替えのない友人達なのだ。
 そして私は私自身の未来の為だけでなく、彼女達の未来の為にもここは何としても穏便に解決し、そしてかなり問題ありなのだけれどこのジャ○アンと関係をしっかりと構築し、将来夫婦とならなければならない。

 それがきっと正しい……正解かどうかなんて私にはわからない。
 だけどこのふざけた繰り返しの転生に終止符を打つ為にもっ、私はエドお兄様と結婚するのではなく元婚約者のアンセルムと結婚し、この美しいアールグレンの女王として生きる事がいいのだと思う。
 本当は……叶う事ならば心から愛した男性と結ばれたいのだけれど我儘を貫く事は許されない。
 繰り返しの転生云々はこの際二の次として、私の肩にはアンやエリーサ、そして多くの者の人生が懸かっているのだもの。
 
 大前提にこの人生が過去のものと同じ道を最終的に辿るのであれ……ばね。
 
 何か色々と過去とは違う感じが否めないけれども、大筋が同じであるなら尚更だっっ。
 少なくとも誕生と同時に過去の記憶を持っていた事はプラスに捉え、あの日を迎えない為に今からでも沢山策を講じる事は出来る筈。
 
 そう、同じ過ちはもう繰り返さない。

 実らぬ……不毛な想いを抱く事で不幸になるのはもう懲り懲り。
 今の私には可能性がまだ沢山ある――――筈?
 そうと決断したのであればと私は怯えている二人に安心させるように微笑みかける。

 大丈夫、今もこの先も絶対に貴方達を護って見せるから……。

「では不法侵入者さんには早々にお引き取り願いましょう。ただし次はありませんからね」

 そう、次に会う時は来年の私の誕生を祝う宴の席。
 えぇその席で改めて自己紹介をちゃんとして下さいな。
 それから私達はお互いを知り合いましょう、将来のパートナーとしてね。

 私は無詠昌でジャ○アンいやいや元?うーん未来の婚約者へ手をかざす。

「お、おい俺はお前と――――」

 彼は何か異変に気がついたかの様に声を上げようとするのだが既に時遅し。
 眩い光と共にその姿が瞬く間へと消えていった。

 勿論転移先はバルテルス公爵家のタウンハウス前。

 これに懲りてどうか暴挙を起こさないでよ。
 来年の婚約発表の前にイタ過ぎる性格故に私の婚約者候補より外されるなんて失態を犯さないでね。
 まああの調子では婚約を交わした後も無害な王配となるべく色々と今生を叩き直す必要あり……だけれどね。

 そして無事に不法侵入者を追い払った後、アンとエリーサはその場で崩れる様に座り込んでしまったのは見なかった事にしましょうね。

 それにしても王宮の警備体制はしっかりしている筈なのに、何故ここまで誰にも咎められずに侵入出来たのかは謎よね。
 今後の事もあるしさり気無く確認してみようかな。
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