上 下
6 / 42
第一章  最早これは呪い? もう呪いとしか思えないでしょうっっ

5  ホラーそれともこれはコメディー? 七転び八起き的な私のこれまでの転生記???   Ⅲ

しおりを挟む

 転生三回目をくるっと振り返ってみたところでつくづく自分自身の事ながら、全くいい記憶ってものがない。
   そもそも何故に毎回シツコク元旦那様と出会って直ぐにジ・エンドなのだっっ。
   まあ最初は兎も角として二度、三度は流石にこれはあり得ないでしょう。
   それにこんな偶然、全く以って嬉しくもない。
   出来ればもう二度と元旦那様とはお逢いしたくなんてないのだもの。
   そう、あの様な辛く悲しい想いなんて……もう二度と繰り返したくはない。
 出来れば次こそはハピエンを楽しみたいじゃない。
   でも運命は残酷で、幸せを望む私へ少しも私に優しくはなかったわ。
   えぇその後の転生にも漏れなく元旦那様は登場していらしたのだものね。



 そうして迎えた四回目はやはり最初の世界での転生だった。
 でも流石に生まれた場所は違い、今度は南の浮雲大陸で伯爵家の令嬢として生きていた。
 浮雲大陸は日本の明治時代と平安時代を足して二で割った感じの不思議な大陸。
 中央の帝を唯一の絶対的な支配者として、大陸全土に大小様々な国が領主……国主として中央へ従っていたわ。
 私は浮雲大陸の西部を護る国主の一の姫として15歳で成人の儀を済ませると、時の東宮様の御許へ新女御として入内する算段となっていたのだ――――がっ、いやいやそこは厳かに粛々と、中央の都の入り口まで転移しそこから大内裏までを優雅に牛車で帝都の景色を御簾ごしに見物していたまでは良かった。
 
 しか~し大内裏へ到着し東宮内裏へ、そうして東宮様より賜る御部屋に問題なく向かう筈だったのがよ。
 何故か奥向きの、しかも相当年季の入った女房達に問答無用で案内されたのは帝のおわす大内裏だった。
 最初は訳が全くわからなかったの。
 何故ならこの日が初めての都入りだったのだもの。
 だから案内されるまま藤壺のお部屋を賜った時に普通はある筈の先触れもなく、突然お越しになった御方が東宮様でなくっ、まさかの帝ご本人だとは、そしてその帝のかんばせがえぇ元旦那様だった事に正直驚き過ぎて私は即気を失ってしまったわ。
 そうして気がついた時には全てを思い出していたの。
 
 また……儚くなってしまうのかしら。

 思わず小声で呟いてしまった。
 だってもうこれで!!
 死んで生まれ変わるのも四回目ならば、逢いたくない元旦那様に逢うのも実に四回目なのよね。
 初恋の相手に振られた……然も白い結婚を強いられた相手にそう何度もお逢いしたくはないっっ。
 どうして何度も何度も心の傷を広げられるのだろうかと、それにしても一体何の因果で――――と思っていたまさにその刹那!!

『そなた等に決して渡しはせぬ!! 幾度重ねようとこれだけは絶対に譲らぬわっっ』

 遠くの方より女房達の騒がしい声と共に現れたのは――――。
 艶やかな漆黒の長い髪を振り乱し、怒りで燃え盛る仄暗い赤い瞳と、身の内より湧き上がる怨念?
 悪霊か妖怪に憑依されたとでも思う方が正しいのかもしれない。
 容姿は違えどこの御方から感じる何かをどうやら私は知っているらしい。

「弘徽殿の女御様っ、どうか落ち着きあそばされませっっ」
「どなたか女御様をお止めあそばして!!」

 女御達のつんざく様な悲鳴によって舎人とねり達もこちらへ出向いてきた様子が手に取るように分かる。
 弘徽殿の女御様……右大臣様の二の姫様としてお生まれになり、今上様の寵愛を一身に受けておられ未来の中宮様と噂される御方。
 そして本来私の入内する筈だった東宮様の御母君。
 言ってみれば近い将来お姑様となる御方……の筈?
 なのに今は恐ろしい鬼の形相で、現在進行形で私の首をお締めになられているっっ!?
 直ぐにでも逃げ出したいのに恐ろしい、女性とは思えぬ強い御力で私は逃げる事も叶わず予想通りに儚くなってしまった。

 儚くなると呟いたのが原因だったのかしらね。



 五回目はまたも浮雲大陸だった。
 私は関白家の三の姫として生を受けたのだが、女子として生きるよりも殿上人として、何故か男子として生きる道を選んだ。
 今思えばきっと一種の防衛本能だったのかもしれない。

 私は父上様の右腕として活躍されている大納言の大兄様に教えを乞い、日々勉学と剣術に勤しんでいたのだがっっ!?
 ある日突然アールグレン王国のあるメヒティルデ大陸のパレンシア王国より留学として王太子が来訪したのだ。
 そう勿論その王太子が元旦那様であり、接待役として任じられたのはこの私でしたよ。
 勿論挨拶をしたと同時に記憶はフラッシュバックしてしまったのは御愛嬌。

 さて此度は死を迎えるまで一体どのくらいの時間があるのだろうか……等と、流石の五回目ともなると余裕と言うのは少し可笑しいのかもしれない。
 でもここまでくると最早偶然ではないのはしっかりと理解出来た。
 そして私と元旦那様、それからある女性?から恨みを持たれているとも思う。

 でも理由は謎。

 五回も死んで生き返るのだから、これが恨みによるものだとすれば相当なもの……と言うか、私はそこまで酷い事をしていないと思う……多分きっと。
 うん、そうだと信じたい!!
 そうしてなんだかんだと考えている間に、都大路様子を視察したいと言う元旦那様の護衛兼案内役として随行した私は、大陸間交易を善しと思わぬ一派よりの襲撃の際、元旦那様を庇う様な形で呆気なく絶命してしまった。
 事切れる最期の瞬間垣間見えたのは、悲しみに顔を歪ませる旦那様の表情……だった。

 私へ毒杯を命じた筈の貴方がどうして――――。

 薄れゆく意識の中で私は更に混乱するばかりだったけれどもこれだけは言いたい!!

 断じて貴方を護ろうとして庇った訳ではないの!!
 ただ足元の小石に蹴躓けつまずいた結果、私は命を落としてしまったのよ!!
 これ――――だからね!!
しおりを挟む

処理中です...