永遠の愛を君に捧げん

雪乃

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番外編  ベルの初恋  ベルとシリルの出逢い

5  玉砕!?  ベルSide

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「おい、お前の名は何と言うのだ。お前ばかりでは幾ら平民の娘とは言っても親より貰った名はあるだろう。それに俺もお前と呼ぶのは何とも心地悪い。それにな、今は国を挙げて大事になっている時。だから先程の兵士もあの様に苛立っていたのだろう。もしそんなものに巻き込まれたらお前……」

 


 それは何?
 確かに今はお父様が戦地で戦っていらっしゃるのだけれど、でもだからと言ってそれは国益を伴った……はっきり言って
 それに国内においてはお母様と宰相のベディングトン公爵とでしっかり治めていらっしゃるもの。
 あまり大きな声では言えないけれども、お父様よりお母様の方が上手く治められると、国内はとても安定すると宰相も言っていましたものね。
 だから今国内が安定しているからこそ、今回私は王宮の外へと出る夢が叶ったと言うのに……一体私がいない間に何か大事になる事があったのかしら。
 だとすれば私が取るべき行動は一刻も早く帰宮しなければいけない!!
 まさかとは思うけれども私の張っていた結界に何ら問題が生じたのかもしれない。
 それに……まさかお父様に限ってっっ!?

「……おい、本当に大丈夫なのか?」
 
 私があれこれと考えを巡らしていたら、あの御方は益々心配そうに私の顔をこれでもかと覗き込まれるの。
 そ、そんなに私の顔をまじまじと見ないで下さいませっっ!!
 これ以上は私の心臓がドキドキではなくバックバクとなり、何時かではなく直ぐにでも恥ずかしさのあまり心臓が音を立てて破裂してしまいそうです〰〰〰〰っっ!!

 だから私はとても恥ずかしいけれど、そっと顔を上げあの方の美しいエメラルドグリーンの瞳を見つめ、そしてあの方の真っ白なシャツをきゅっと少しだけ、そう本当に少しだけです。
 ほんの少しだけ握らせて頂き、恐る恐る私は自身の名を告げる事にしました。
 本来ならばこの様な時にお花畑の中にいてはいけないとわかっていたのだけれども、やはりそこは女の子ですもの。
 好意を抱いた大切な御方に、自身の事を少しでも覚えていて欲しい。
 勿論……身体から放つあの臭いはその間も遠慮する事なく、私を中心として放っていましたけれどもね!!

「あ、あの私はベル、ベル……!?」

 名を、真の名を告げようとした刹那――――。

「シリルっ、何処かで声が聞こえると思えばやっと帰ってきたのねシリルっっ。あのね今大変なのっっ」
「あ、アイリーン、そんなに急がなくてもいい。ゆっくり歩くんだ。でないとこの前みたいにこけるぞ」
「わ、分かったわよっ、シリルってばそんな事を大きな声で言わなくてもちゃーんと歩くわよ。これでも私は淑女ですからね」
「ふふ、そうだねお姫様」
「ま、まあパーシーまで!! 本当に酷いわっ、レディーを何だと思っているのっっ」
「ごめんごめん、悪気はないからね」
「当り前よ」

 遠い屋敷の前よりふわふわと綿菓子の様に柔らかそうな亜麻色の髪をポニーテールにし、柔らかなレモンイエローのエプロンドレスを身に纏った少女が、最初は走っていたものの痛い所をシリル様に突かれたのでしょう。
 私よりも少し年上の少女は、ピンと背筋を伸ばし澄ました面持ちでゆっくりとこちらへ向かって歩いてくるわ。
 またその少女を見守る様に隣で歩いている青年は、まあなんという事でしょう。
 群青色の髪こそは違うものの、同じエメラルドグリーンの瞳とよく似た面差しとそして同じ雰囲気を纏っていらっしゃるわ。
 シリル様にも感じたのだけれど、紳士らしい満面の笑みを湛えていらっしゃると言うのにも拘らず、何故かその表情には何とも言えない翳りが垣間見えてしまう。

 それにしてもあの少女……アイリーン嬢はシリル様とどういう関係なのかしら。
 気になります。
 えぇとでも……今絶賛大注目してしまいますわっっ。
 何故ならもしかしなくとも私とあのアイリーン嬢とは、シリル様を巡って恋――――。

「ベル、彼女はアイリーンでその隣にいるのは俺の従兄弟でパーシーだ。それと遅くはなったが俺はシリルだ。

 ガ――――ンっっ!?

「つ、あ?」
「あ、いやこれはまだ内緒だが、でも決定事項……だな。俺はアイリーンを誰よりも愛しているからな、まぁマセガキだとか思われるだろうけれども、でも今に俺は騎士となり、その中でも栄えある第一騎士団の団長となってアイリーンを俺の妻にするんだ」


 恋敵……そう思う事さえも私には許されなかった。
 目の前のシリル様はこれ以上ないくらい、未来の輝かしい夢と言う光で以ってエメラルドグリーンの瞳を一際輝かせ、少年と言うには逞しさのある、少し大人の男性の様にも見えて朗らかに微笑まれていた。
 そこには先程までに感じた翳りは何処にも見られない。

 そして私はと言えば余りに眩し過ぎるその光に映し出される――――

 えぇ、温められた私の心は見る間に冷たく凍りつき、太陽より作りだされただろう影の様に心が真っ黒になっていく。
 当然シリル様は何も知りません。
 私の心の中に芽生えた初めての淡い恋心と、それを瞬時にして打ち砕かれてしまった事実に……。

「まだ成人前なんだが、実は内緒で騎士団で鍛錬をして貰っているんだ。他の奴よりもどんな奴いや、俺の祖父以上に強く立派な騎士になるんだ。ハハハ、だけどしかし不思議なものだな。先程知り合ったばかりのお前――――いやベルにどうしてこんなに俺はすらすらと話してしまうのだろうな」

 屈託なく微笑まれるその表情もシリル様、とても素敵です。
 でもそうですね、お話しが聞けて嬉しい半面……私はとても悲しくもあります。
 シリル様が描く未来予想図には、悲しいかな……私が含まれる予定は少しもないのですものね。
 それに心では酷く泣いていると言うのに、何故かシリル様の前で楽しそうに微笑んでいる私は、何処か狂ってしまったのかしら???
 何だかとても不可思議な心境です。
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