永遠の愛を君に捧げん

雪乃

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番外編  ベルの初恋  ベルとシリルの出逢い

3  優しい温もり  ベルSide

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 でもこの時の私は何時もの私ではなかったわ。
 まぁあまりにも初めてなるものの経験を色々と、それで以ってショッキングな事があり過ぎて、しかも訳のわからない薬まで嗅がされたのですもの。
 だから何時もの冷静さを欠いてしまっていたとしてもそれは仕方のない事。
 何故なら私はまだ7歳の子供ですものね。
 そう、今から思うと凄くお間抜けとしか思えないのだけれど、私自身魔法が遣えると言う事実をこの時しっかりと忘れてしまっていたの。
 
 確かに私は魔法が遣えるとは言ってもこの時はまだまだ魔力が安定しておらず、日々溢れる魔力を持て余していたわ。
 大きな力を行使する事には長けてはいても、細かな、微細な魔法を行使する事に対しては正直に言って苦手だった。
 ましてやここは何処かの地下室?
 この上の建物、そして周りの状態、何もかもが全くわからない。
 果たしてここは捕獲された王都よりどの程度離れている所なの?
 もしかして住宅街?
 それとも人通りは多いのだろうか。
 まさか王都のど真ん中――――王宮の近くではいでしょうね。

 お母様達のいる王宮の傍もだけれど、多くの罪のない民達が生活する場所も嫌よ。
 えぇここを破壊するのはさして難しくはないけれども、私が起こした破壊によって誰一人として怪我をして欲しくはないもの。

 ……破壊をする前に転移魔法で王宮に戻ればいい?

 そうしたいのは山々。
 でもそれはこの時には出来なかったの。
 理由はくだんの薬?故なのかは定かではない。
 ただ、目を覚ました頃より頭痛が酷くて、転移をするにしても場所を連想する上で、集中力を高めるに当たって頭痛はとても邪魔なもの。
 しかしそうは言っても力の遣い方一つで被害が出るのは困る。
 一度の転移で王宮まで飛べるとは思わない。
 だけどこの頭痛を我慢出来るまでにせめて知り合いと出会いたい!!
 そうして自身の身体?
 それとも身に纏うドレスらしきものより放たれる臭いの限界に達した私は、静かな地下室の中で痛む頭を押さえつつ『っっ!!』と強く願いながら転移をした。

 
 ドタン――――っっ!!


「――――っうぅ!?」

 痛いっっ!!
 足……今身体を押された拍子に石畳で小趾こゆびを挟み、思わず声が漏れたわ。
 そう私は忘れていたの。
 あの時ポシェットや服だけでなく、茶色の革靴も奪われてしまっていたの。
 だから今はあり得ないのだけれど裸足!?
 そうこれも……初めての体験。
 でも少しも嬉しくはなくてよ。
 嬉しいどころか物凄く、もう何だか惨めな気持ち。
 綺麗な服も、靴も、ポシェットも奪われた代わりに、今の私はボロボロで凄く臭いドレスとは言い難いモノを身に纏い、然も靴はなく裸足のまま。
 それに今更ながらだけれど、私の髪と瞳は何処にでも見られる茶色だわ。
 何故なら元の姿……青銀の髪と紅いルビーの瞳は王族の証し。
 その姿で街を歩けば否応なく直ぐにでも王室転覆を謀る者達によって攫われてしまうか、はたまた私の命と引き換えにお父様とお母様へ無理難題を強いるでしょう。
 だから今は絶対に元の姿へ戻る訳にはいかない。
 

「おい、邪魔だどけっっ!!」
「あ!?」

 若い兵士なのだろう。
 通りで足が痛くてうずくまっていた私を、如何いかにも邪魔だと言わんばかりに追い立てる。
 私は今まで受けた事のない対応に悔しさと足の痛みで涙が込み上げそうになるのをぐっと堪え、細い路地へと痛む足を引き摺って入って行く。
 兵士から見れば今の私はとてもではないが王女には見えないのだろう。
 でも外見だけでその人への対応が変わると言うのも、何とも頂けないわ。
 それに地上へ出たものの、ここが何処なのか皆目見当がつかない。
 そう、目指す王宮が一体何処にあるのかもわからない。

 ここは本当に私のマンヴィルなの?
 あの兵士へ私が王女だと告げたとしても、きっと信じて貰えそうにはない。
 たとえ髪と瞳の色を元へ戻しても……信じて貰えるか、それに他国だとすれば軽はずみな行動は極力控えなければいけない。
 これから先の事を考えるだけで私の心はどんどんしぼんでいく。
 これからどうすればいいの?
 私は一体……もし王宮へ運良く戻れても、皆は私を信じてくれるのかしら。
 

 わからない。
 どうしよう。
 あぁどうすればいいのっっ。
 お母様とお兄様に一刻も早く会いたいっっ。
 そうしてお父様に抱っこをして欲しいのっっ。
 温かくて大きな手で頭を撫でて欲しいわ。
 ごめんなさい。
 もうこんな愚かな行いはしない、絶対にしないわっっ。
 ちゃんとエルナンとラッセルにも、心配を懸けた人達に謝るから……だからお願い、私をお母様達の許へ帰して。
 
 頭痛と足の痛みに加え、今迄味わった事のない不安や絶望感が綯い交ぜ状態となった私は、それらより逃げる様にその場で眠る様に倒れ――――。

「おい、お前大丈夫か?」
「…………」

 薄っすらと意識が消えゆく中で聞こえたのはほんの少しハスキーだけれども凄く優しい声。
 冷たくかじかんでいた身体は、じんわりと温かな温もりに包まれていく。
 お父様が遠征へ赴く時、何時もぎゅっと優しく、小さな私の身体を包み込む様に抱きしめてくれるのと同じ感覚だったの。
 そう、その温かさは今でも決して忘れる事はないわ。
 何故ならそれはあの御方のものだったのだから……。
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