永遠の愛を君に捧げん

雪乃

文字の大きさ
上 下
49 / 53
番外編  ベルの初恋  ベルとシリルの出逢い

3  優しい温もり  ベルSide

しおりを挟む

 でもこの時の私は何時もの私ではなかったわ。
 まぁあまりにも初めてなるものの経験を色々と、それで以ってショッキングな事があり過ぎて、しかも訳のわからない薬まで嗅がされたのですもの。
 だから何時もの冷静さを欠いてしまっていたとしてもそれは仕方のない事。
 何故なら私はまだ7歳の子供ですものね。
 そう、今から思うと凄くお間抜けとしか思えないのだけれど、私自身魔法が遣えると言う事実をこの時しっかりと忘れてしまっていたの。
 
 確かに私は魔法が遣えるとは言ってもこの時はまだまだ魔力が安定しておらず、日々溢れる魔力を持て余していたわ。
 大きな力を行使する事には長けてはいても、細かな、微細な魔法を行使する事に対しては正直に言って苦手だった。
 ましてやここは何処かの地下室?
 この上の建物、そして周りの状態、何もかもが全くわからない。
 果たしてここは捕獲された王都よりどの程度離れている所なの?
 もしかして住宅街?
 それとも人通りは多いのだろうか。
 まさか王都のど真ん中――――王宮の近くではいでしょうね。

 お母様達のいる王宮の傍もだけれど、多くの罪のない民達が生活する場所も嫌よ。
 えぇここを破壊するのはさして難しくはないけれども、私が起こした破壊によって誰一人として怪我をして欲しくはないもの。

 ……破壊をする前に転移魔法で王宮に戻ればいい?

 そうしたいのは山々。
 でもそれはこの時には出来なかったの。
 理由はくだんの薬?故なのかは定かではない。
 ただ、目を覚ました頃より頭痛が酷くて、転移をするにしても場所を連想する上で、集中力を高めるに当たって頭痛はとても邪魔なもの。
 しかしそうは言っても力の遣い方一つで被害が出るのは困る。
 一度の転移で王宮まで飛べるとは思わない。
 だけどこの頭痛を我慢出来るまでにせめて知り合いと出会いたい!!
 そうして自身の身体?
 それとも身に纏うドレスらしきものより放たれる臭いの限界に達した私は、静かな地下室の中で痛む頭を押さえつつ『っっ!!』と強く願いながら転移をした。

 
 ドタン――――っっ!!


「――――っうぅ!?」

 痛いっっ!!
 足……今身体を押された拍子に石畳で小趾こゆびを挟み、思わず声が漏れたわ。
 そう私は忘れていたの。
 あの時ポシェットや服だけでなく、茶色の革靴も奪われてしまっていたの。
 だから今はあり得ないのだけれど裸足!?
 そうこれも……初めての体験。
 でも少しも嬉しくはなくてよ。
 嬉しいどころか物凄く、もう何だか惨めな気持ち。
 綺麗な服も、靴も、ポシェットも奪われた代わりに、今の私はボロボロで凄く臭いドレスとは言い難いモノを身に纏い、然も靴はなく裸足のまま。
 それに今更ながらだけれど、私の髪と瞳は何処にでも見られる茶色だわ。
 何故なら元の姿……青銀の髪と紅いルビーの瞳は王族の証し。
 その姿で街を歩けば否応なく直ぐにでも王室転覆を謀る者達によって攫われてしまうか、はたまた私の命と引き換えにお父様とお母様へ無理難題を強いるでしょう。
 だから今は絶対に元の姿へ戻る訳にはいかない。
 

「おい、邪魔だどけっっ!!」
「あ!?」

 若い兵士なのだろう。
 通りで足が痛くてうずくまっていた私を、如何いかにも邪魔だと言わんばかりに追い立てる。
 私は今まで受けた事のない対応に悔しさと足の痛みで涙が込み上げそうになるのをぐっと堪え、細い路地へと痛む足を引き摺って入って行く。
 兵士から見れば今の私はとてもではないが王女には見えないのだろう。
 でも外見だけでその人への対応が変わると言うのも、何とも頂けないわ。
 それに地上へ出たものの、ここが何処なのか皆目見当がつかない。
 そう、目指す王宮が一体何処にあるのかもわからない。

 ここは本当に私のマンヴィルなの?
 あの兵士へ私が王女だと告げたとしても、きっと信じて貰えそうにはない。
 たとえ髪と瞳の色を元へ戻しても……信じて貰えるか、それに他国だとすれば軽はずみな行動は極力控えなければいけない。
 これから先の事を考えるだけで私の心はどんどんしぼんでいく。
 これからどうすればいいの?
 私は一体……もし王宮へ運良く戻れても、皆は私を信じてくれるのかしら。
 

 わからない。
 どうしよう。
 あぁどうすればいいのっっ。
 お母様とお兄様に一刻も早く会いたいっっ。
 そうしてお父様に抱っこをして欲しいのっっ。
 温かくて大きな手で頭を撫でて欲しいわ。
 ごめんなさい。
 もうこんな愚かな行いはしない、絶対にしないわっっ。
 ちゃんとエルナンとラッセルにも、心配を懸けた人達に謝るから……だからお願い、私をお母様達の許へ帰して。
 
 頭痛と足の痛みに加え、今迄味わった事のない不安や絶望感が綯い交ぜ状態となった私は、それらより逃げる様にその場で眠る様に倒れ――――。

「おい、お前大丈夫か?」
「…………」

 薄っすらと意識が消えゆく中で聞こえたのはほんの少しハスキーだけれども凄く優しい声。
 冷たくかじかんでいた身体は、じんわりと温かな温もりに包まれていく。
 お父様が遠征へ赴く時、何時もぎゅっと優しく、小さな私の身体を包み込む様に抱きしめてくれるのと同じ感覚だったの。
 そう、その温かさは今でも決して忘れる事はないわ。
 何故ならそれはあの御方のものだったのだから……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

処理中です...