永遠の愛を君に捧げん

雪乃

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終章   永遠の愛を君に捧げん

11 永遠の愛を君に捧げん

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 ファルーク様との話を終えた後、俺は再びベルが眠る寝台の傍へと歩み寄りそのままひざまずき、今にもポキっと折れそうに細く、そして想像以上に柔らかな彼女の手を自身の両の手で壊れ物を扱うかの如く、いや実際壊れ物の様に華奢で大切な宝物には違いない。
 だから俺は細心の注意を払いつつベルの手をそっと包み込む。
 
 はあ、これだけでも俺の心の臓はドキドキと煩く打ち始めるし、胸がとんでもなくざわざわと騒がしくなる。
 安らかに眠り続ける彼女のあどけない表情を垣間見るだけで、俺は顔と言わず全身の体温が急上昇し、また全身の血が忙しなく駆け巡ると共に身体中が何とも熱くて仕方がない。
 きっと鏡に映る俺は俺以上ないくらい真っ赤になっているのだろう。
 そしてそんな俺は端から見れば何とも滑稽なのかもしれない。
 
 だが他人にどう思われようともそんなものはどうでもいいっっ。
 俺にとって何よりも大切なのはベル、貴女だけなのだから……。

 そうしてふと思い至ってしまった。
 それはかつて愛していただろうアイリーンには感じていない想い。
 いや別にアイリーンを貶めよう等とは少しも思ってはいない。
 だがこうして愛するベルの手を取り、眠る彼女のあどけない表情を見つめているとわかってしまった。
 
 そう、アイリーンに対しての想いは好きと言う想いだったのだろう。
 そしてベルへの想いは永遠に捧げられる愛だったのだと。
 
 愛するだけで心がこんなにも満たされる。
 ベルからの愛は勿論欲しい……けれどもだっ、彼女が目覚め、元気に俺の傍で微笑んでくれる事は至上の喜びとも言える。
 でも万が一彼女が目覚めなくともこうして毎日愛を囁き、いや、ベルの傍にいるだけで心が震えるくらいに幸せなのだとわかったんだ。
 肉体で交わる愛も捨てがたいが、今の俺にとってそれは些事であり、今が幸せなのだと!!
 

 ねぇベル、貴女は何時からそんな俺の事を愛してくれていたの? 
 そして俺は貴女の深い愛にどのくらい気付かなかったのだろうか。
 少なくとも俺はあの二年前の断罪の日、いや、バリッシュとの戦で疲れ、身体を清めていた時に突如現れたあの日からきっと俺は貴女に心を奪われていたのかもしれない。
 
 昔から俺は親に愛されていないと固く信じていた故に、変に意地っ張りで強がり、また他人へ弱みを見せる事を極端に嫌っていたと言うのにも拘らず、何故か不思議とベル、貴女にだけは何も気負わない素直な自分を曝け出す事が出来たんだ。
 本当に不思議としか言いようがなかったよ。
 アイリーンやパーシーでさえ見せた事のない姿を、俺は貴女にだけは見せられたのだから……。

 
 ベル、貴女に逢って俺は初めて心を許せる、そう本当の意味での愛を知ったのだと思う。
 でも貴女には俺は数えきれない程に謝らなければいけない。
 
 一番にはあの日貴女に助けて貰ったと言うのにも拘らず、俺は貴女への礼儀や何もかもを放り出し戦へと逃げてしまった事。
 あーもしかして妖精として俺の前に現れたのは、そんな俺を怒りに来たのかな。
 でもたとえ怒りに来たとしてでもいい。
 いや、ただ逢いに来てくれただけでも俺は幸せだったと思う。
 こんな俺に本当の意味で愛を教えてくれたのだから……。
 そしてとても申し訳ないとも思う。
 俺は自分でも情けないくらいヘタレ――――だ。

 王女である貴女には相応しいとはお世辞でも言えないけれどもっ、それでも俺は貴女を愛している!!
 何物にも代え難い程に貴女を愛しているんだっっ。
 だから俺を置いて天空の庭へは行くなっっ。
 俺の許へ、生涯懸けて必ず幸せにするからっ、これより先ずっと一緒に俺の傍近くで微笑んで、一緒に幸せになろう。
 
 俺の命よりも大切なベルっ、ベルセフォーネ・シャンタル・メリリース・マンスフィールド!!
 俺は貴女を何があっても掴まえてみせる!!
 そして生涯貴女の手と言わず心もその身体ごと決して離しはしない!!

 だから戻ってこい――――っっ!!


 俺はそっと自身の手を伸ばすと共にベルの透ける様な白い両の頬を出来るだけ優しく包み込み、そうして自身の唇を彼女の柔らかで甘やかなそれへと口付ける。
 口付けながら俺の心をそのまま彼女へと渡す様に……。



 ***   ***


「お父様っっ」
「う……ん、っうぅっ!?」
「キャーあはは、お父様まだ起きなーいっっ」
「――――だ・れ・が起きていないと? 一体何処にこんなお転婆なお姫様がいると言うのかな!! お転婆なお姫様には証書お仕置きが必要なのかもしれないな、それっっ」

 執務室の長椅子カウチで少し休憩を取っていたかと思えば行き成りだっっ。
 俺の腹の上に勢い良くドンと、心地の良い重みが弾みをつけてジャンプしたのだろう。
 俺の腹の上でキャッキャッと喜んでいるのは今年で五歳となる俺の娘だ。
 この世で二番目に愛おしい俺の宝物へ、俺は少々意地悪く悪戯をし掛ける事にした。
 勿論それは彼女の腹を優しくくすぐる事だ。
 
「キャ――――っっ。いやっ、くすぐ……きゃあっ、ひゃ、た、助けてっ、お母様ぁ!!」

 俺の娘は俺と同じく何かあると直ぐに、愛する女性へと助けを求めてしまう。 

「まあまあフィリシア、また貴女と言う人はお父様へいけない事をしたのではなくて?」
「違うものっ、お父様が御眠りになっていらっしゃったから私がお起こしただけだものっっ。フィリシアっは悪くない――――ってあ、お父様狡い!! 私だってお母様をっっ」

 俺はそれまで擽っていた娘を優しく長椅子へ座らせると共に、ふわりと訪れた俺のこの世で一番愛すべき宝物へと転げる様に近づくと共に、そっとその甘やかで柔らかな身体を抱き上げる。

「ベル、俺のこの世で一番愛する宝物」
「まあシリル貴方と言う人は……」

 そうして彼女の身体をそっと引き寄せ、甘い果実の様な唇へと口付けをする。
 俺達の足元では長椅子より降りてきたフィリシアが「狡い狡い」と言う騒ぐ声も愛おしいのだが、それでもやはり俺の中での一番は愛する妻ベルなのだ!!
 またそんな俺を愛おしそうに見つめ、背中へと手を回してくれるベルに尚一層愛おしさが募るのだ。

 
 そうあの口付けより彼女は奇跡的に、もう本当にあれは奇跡だと俺は思っている。
 艶やかで長い睫毛をさも重たそうに開かれて見えたあの美しくも鮮やかなルビーの瞳。
 
『シリ……ル』

 そう発せられた声は小さく、また大層掠れてはいたのだが、俺にとっては何処までも甘く痺れる様な美声だった。
 実験の結果は奇跡的に成功ではあったものの、やはり大病を患った後の後遺症は今でも続いている。
 それは身体的に言えば非常に弱く、そして少しでも力を加えれば直ぐにでもぽきんと骨が折れそうな華奢な身体は当時と然して変わりがない。
 また脳へのダメージはやはり少し受けていたらしく、今でも年に数日程度ではあるがいしきがなくなる事があるのだ。
 数日ないしは数週間。
 その期間は俺とフィリシア、いやベルを愛する全ての人々が皆心より彼女の目醒めを祈っているのだ。
 特に義父となった国王陛下の取り乱しようは目も当てられない。
 義母である王妃陛下が鉄扇で陛下の頭を何度も叩き諌めている姿は、家族となった今でも笑えないものだ。
 まあ陛下の心情はわからなくもない。
 夫である俺も陛下と、いやそれ以上に取り乱しているのだからな。

 それでも、きっとこれからも彼女の身を永遠に心配しつつではあるものも――――。

「私は貴方を、そしてフェリシアと巡り合ってこれ以上ないくらい幸せよ」
「あぁ俺もだ。俺は貴女に見出されて心より幸せなんだ。そして今も、これからも変わらず――――」
「えぇ、私も……」

「「永遠の愛を君に捧げん」」

                                 fine

*これで完結となります。
 今迄沢山の方に読んで下さり有難う御座います。
 『俺の愛した悪役令嬢』より書き直す事三回目となりましたが、無事完結出来てめっちゃ嬉しいです。
 これからも拙作を宜しくお願い致します。

                                雪乃
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